第24話 悪魔と呼ばれた天使④

 はろー。わたしシルビア。

 わたし今、貴方の後ろにいるの。

 うん。流石にもうこのネタは止めよう。

 それで……だね。


「あんたら!

 私、先に遊びに行くから、あんたらも良かったら後から来てね!!」


「ややや、やめろっ!!」


「それ以上!

 ちちち、力を手に込めるなっ!!」


「けけけ、剣を下ろすんだメリッサっ!」


 お姉さんの首に剣が徐々にめり込み、そこから赤い血が噴水のように飛び出る。

 おかしくなったお姉さんの顔は、歓喜の顔をしていた。

 本当に幸せそうな表情だった。

 本当に幸せそうな表情をしながら――――




「私は、神になったのよぉぉぉぉっ!!」




 自分で、自分の首を――――跳ねた。


「う、うわあああああああああっ!?」


「メ、メリッサぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


「何でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


「めめめ、メリッサさん!?」


 ……何で?

 え、私、人間を殺しちゃった!?

 えええ? 本当に何で?

 私、別にそこまでの指示は出していないよね?

 ちょっぴり罪悪感を感じるんだけど。


「ヒィィィ……」


「なんだよこれぇ……」


 さて。この状況、どうしよう?

 この人達を許しても良いかなとか思い始めてたのに、いきなりそれを破ってるしさ。

 もうこれって私も、後には引けないよね?


「あくまぁ……あくまぁ……」


「神様助けて……」


 うーん。まあ、今はまだ私が有利なんだし、今後どうするかは後で考えよう。

 術を解いたらこいつらも敵討ちで私を襲ってくるだろうし、今はまず尋問タイムだ。


「では次、行きましょうか」


 と言う訳で、照れ隠しに満面の笑みで笑ってみる。

 てへ。失敗しちゃった? ってな感じで。


「あ……悪魔だ!

 悪魔の少女だ!

 俺達は何でこんな悪魔に手を出してしまったんだっ!!」


 あーもう。うっとおしぃなぁ。

 だから何で私が悪魔なんだよ。

 私は害が無い限り人間には寛容な魔族であって、あんた達は助けて貰った恩人を達磨にしようとした、極悪人でしょ?


 触らね神に、祟り無し。

 どっちが悪魔か、一目瞭然じゃん。


「ひいっ!! ひいっ!!」


「い、いやだぁっ!!」


「お願い……許して……」


 今の失敗を振り返るに、対象がいきなり死んでしまったのは、精神崩壊に至るスピードを速めすぎたのが原因かもしれない。

 次はもうちょっと弱めな精神崩壊をするよう、調整するようケルベニに指示を出してみますか。


「ケルベニ、お願いします」


「■■ぉぉ■■―――――ぉぉぉ!」


「いいい、嫌だっ!

 しし死にたくないっ!!

 まま、まだ死にたくないぃぃぃぃぃっ!!」


 そうして、次の対象者が、青白い炎に包まれる。

 対象をこの人に決めた決め手は、私と目が合ったから。

 うん。大した理由ではない。


「ヒイイイイイイイイイイッ!?」


さて。今回はどうだろう。

さっきと比べて、かなり鬼火の力を弱めさせたつもりではいるけど、結果は如何に!?


「ふ、ふはは……ははは……」


「あああ、アーチェさんっ?!」


「ふはは……ふはははははははっ!!

 そうかそうかっ!

 これがメリッサの見た世界か!

 確かに、なんて素晴らしい!

 なんて愉快な世界なんだ!!」


 え? 嘘。

 これじゃさっきと同じじゃん。

 これでもまだ鬼火の力が強すぎるっていうの?


「ああ、アーチェ!!

 やめろっ!?」


「アーチェさんっ!!

 きき、気をしっかり持ってくださいっ!!」


「ななな、何で懐に手を入れているんだっ!?

 それだけは止めろぉっ!!」


 対象が自身の懐に手を入れて、大量の包紙を取り出す。

 ん? 何あれ?

 風邪薬……ではないよね流石に。

 風邪薬じゃなかったら何?

 たこ焼き粉?


「お前らも綺麗な花火、見たいだろ! 

 俺が今から、俺の頭を打ち上げてやるから、これ見て皆もほっこりするんだぞ!」


 それだけ言うと、対象は手に持った包紙と紐みたいなものを口に含んで、その紐に火を付ける。


「やめろぉぉぉ!!

 アーチェぇぇぇぇ!!」


 ――――そうして、対象の頭は、四方八方に爆散した。


「アーーーーーーーチェーーーーーっ!!」


 ……爆薬?

 って言うか、また私って人を殺した?

 流石に二人目になると、罪悪感も結構湧いてくる。


 父さんに言わせれば、ハエを何匹叩き潰しても、罪悪感何て湧くわけねぇだろ――ってな事なんだろうけど、まあ……なんと言うか……。

 安らかに眠ってください……。


「もうやめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


「何でだぁぁぁぁっ!!

 何でこうなるんだぁぁぁっ!!」


 さて、どうしよう?

 彼らがもう私を襲わないって断言するのなら、もう帰してやってもいいんだけど、まだこの人達が何者なのか、判明出来ていないんだよね……。

 それにこの人達、私を達磨にするとか言ってるし、金縛りを解くのはちょっぴり怖い……。


「……そうですね。

 次、行きましょうか」


 まぁ私もここまでやらかしちゃったんだし、もうちょっと鬼火の力を調整して、こいつらが何者なのかだけでも知りたい。

 実は街で反乱作戦が計画されていました、なんて言われた日には、私も危険にさらされてしまうからね。


「■■ぉぉ■■―――――ぉぉぉ」


「ひひひ、ひいっ!?」


「かかか、神様助けてぇぇぇぇぇっ!?」


 そうして私は、精神崩壊から即座に自殺に至らないよう、ケルベニに鬼火の力を調節させる。

 しかし、結果は無残であるとしか言えなかった。


「俺っ! 舌を噛み切って生きてたら、メリッサの遺体と結婚するんだ!」


――――そうしてその者は、舌を噛み切って絶滅した。


「うーん?

 耳の中がゴロゴロいうなぁ?

 頭にナイフを突き刺してみようか?」


 ――――そしてその者は、ナイフが頭を貫通して、絶滅した。


「私の首を絞めて、どれだけ早く私が死ぬか、勝負よっ!!」


 ――――そうしてその者は、自分の首を自分で絞めて絶滅した。


「今まで黙ってたけど、実は俺、空を飛べるんだ。びゅーん!」


――――そうしてその者は、崖からチャタレー川に飛び下りて絶滅した。


「はいっ! 一発芸!

 大サソリの毒、一気飲みします!」


――――そうしてその者は、致死量を超える服毒により絶滅した。






「も、も、う……。

 やめて……くだ……さい……」


 ……うん。ソウダネ。

 私も、もうやめたい……。

 なんでだろう。

 こいつらを金縛りにした時は普通に力を調節できたのになぁ。


 ケルベニの顔を覗き込む。

 あれ? なんだろう。

 なんかケルベニの目が怒気を含んでいるような気がするんだけど、もしかしてケルベニ、怒ってる?


 私とケルベニの目が交差する。

 えっと、なになに?

 ご主人様に酷い事しようとしたこの人たちに対して、最初は我慢していたけど、だんだん我慢できなくなって、精神を崩壊させちゃった?

 だからごめん、許して?


 いやいや。

 ケルベニが本当にそう思っているのかはわからないけど、この子からそんな声が聞こえた気がする。


 え? まじで?

 ケルベニ、あえて手加減しなかったの?

 君、私の言う事を聞かずに、勝手に暴走しちゃったって事なの?


「も……もう、やめて下さいぃぃぃっ!!

 ぼぼぼ、僕はもう貴方を金輪際、狙いませんんんっ!

 こここ、このデミオ・ラダンは、バース・ラダン男爵の息子なんですっ!

 ここ、この平民たちの命を全部集めても、きき、貴族である僕の命の方が重いんですよぉぉっ!!」


 と、いきなり15歳くらいの少年が、泣き叫び出した。

 いや、泣き叫んでいた人はさっきもいたけど、私をもう狙わないと断言したのは、この子しかいなかった。


 この少年の言葉を信じるとすれば、もうこの人達を開放しても良いと思ってる。

 この人達が何者なのか、判別が不可能になるけど、実はSPも残り少ないし、ケルベニを具現化させているのも、もう限界なんだよね。


 変にズルズルと引き延ばして、必死で襲って来られては、私もたまらない。

 これくらいが潮時かもしれないね。


「デデデ、デミオ!?」


「おおお、お前が貴族だってっ!?」


「貴族ですか……」


 こいつも貴族。

 街で私を誘拐するとか言った馬鹿も貴族。

 また。って感じだね本当に。


 まぁ今では私も一応貴族なんだけど、生きた時間は流石に日本での生活の方が長かったからなぁ。

 法の下の平等が当たり前に生きてきた私から言わせれば、あんまり生まれで差別したりするのはいけないんじゃないの? って思う。


「そそそ、そうです!

 ぼぼ、僕は貴族なんです!

 ててて、天使様も貴族なのでしょう!?

 ほ、ほら! おおお、同じです! 

 天使様と僕は貴族同士なんですっ!! 

 だだだ、だから僕だけでも、助けて下さいぃぃぃぃっ!!」


「でで、デミオっ!!

 お前っ、ひひ、一人だけ助かろうって腹かっ!?」


「ひひ、卑怯だぞっ!!

 おお、俺達は仲間だろっ!!」


「ううう、五月蠅いっ!!

 ぼ、僕は貴族なんだっ!!

 ここ、こんな場所で死んで良い人間じゃないんだっ!!

 ああああ、あんたら平民と一緒にするなぁぁぁっ!!」


 あーもう、最悪だねこいつ。

 貴族だから助けろとか、それって私を攫う計画を立てたあの馬鹿貴族と、考え方が同じじゃん。


 よし。ここはこのシルビアさんが、地球の良い名言を教えて授けよう。

 私もその貴族だけど、平民の事を貶したりなんか私はしないぞ?

 これを機会に、もっと君は悔い改めなさい。


 そうして私は、両人差し指を天地へ向けて、かの有名な偉人の名言を拝借する。




「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、です」――――と。




 これは日本人なら誰でも知っている、福沢諭吉の名言だ。

 この言葉は、人間はすべて平等であって、身分の上下、貴賎、家柄、職業などで差別されるべきではないという意味がある。


「ああ……ああ……」


 へえ? 涙を流して、そこまで感銘を受けてくれたとは、この名言を教えた甲斐があったよ。

 この言葉を胸に、君はもっと平民をいたわりなさい。


「では、さよならですね」


「■■ぉぉ――■■ぉぉ」


 ケルベニに指示を出して、体の拘束を解かせる。

 結局、この人達が何者なのか、わからず仕舞いだったなぁ。


 まあ、私を襲わないって言ってるんだし、セリカを侮辱した事も忘れよう。

 犠牲になった奴らは運が悪かったんだ。

 私もそう思う様にするから、貴方達も今後はそう思ってね。


「あああ、あれ……?」


「うう、動く!?

 かか、体が動くぞっ!?」


 あ、やばい。

 今のでSPがほとんど空になってしまった。

 もうケルベニを維持していられない。


「もう行ってもいいですよ。

 お父様やセリカには内緒にしてください」


 早く行けよコノヤローってな感じで、ニコリと笑う。

 こんな時まで笑顔を絶やさずにいられるようになるとは、私も演技が上手くなったものだよね。


「ににに、逃げろぉぉぉぉぉぉっ!!」


「たたた、助けてぇぇぇぇぇぇっ!!」


「うあわあああ、ママぁぁぁぁっ!!」


「ま……まって! まって下さいっ?!」


 体が動くと分かるや否や、あの人達は一目散に去って行った。

 誰もいなくなったの確認して、私はケルベニの具現化を止める。


 具現化を止めた後、どっとする疲れが襲ってきた。

 気を張って耐えていたが、思っていたより疲労していたのだろう。


「あ……だめです。

 目まいが……」


 うわー。なんか頭がぐるぐるする。

 これは……やばい。

 SP切れの前兆だ。


 そうして、私は地面に倒れ、そのまま気を失った。

 気を失う直前に、父さんとセリカの声が聞こえた気がしたが、もうその時の私は目を覚ます余力は残されていなかった。




///セリカ視点///

「おい……何なのだ。

 この状況は……」


 シルビアの誘拐を企てた人間どもを捕まえた後、シルビアを捜して、この場所までやってきた。

 そこには、人間どもが自害したであろう死体が何体も転がり、普通じゃ考えられない状況が繰り広げられている。


「おい! セリカ!

 シルビアが居たぞ!」


「な、何!

 本当かザンドルド!」


 シルビアは森の中で寝息を立てながら、すやすやと眠っていた。

 シルビアに外傷などがないか、確認する。

 しかし特にシルビアに危害を加えられた形跡はなく、どうやらこの子は本当にただ眠っているだけのようだ。


「なぁ、ザンドルド……。

 これって、もしかして……SP切れか?」


「はぁ!?

 と言う事は、ここにいるボンクラ共は、シルビアが殺ったっていうのか?」


「……わからん。

 この状況……後でいろいろと調べてみる必要があるな」


 ――――そうして、シルビアは私とザンドルドに保護される事になった。

 シルビア……無事でお姉ちゃんは安心したぞ!

 怖い思いさせて、悪かった!

 もう私はシルビアを離さないぞ!

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