第20話 ザンドルド&セリカVSギガンタン


「グオオオオオオオッ!!」


 ギガンタンが大きな雄たけびを上げて、突進してくる。

 この私セリカ・カロリッツァは剣で、ザンドルドは弓だ。


 こうやってザンドルドと組んで戦うのは、何時以来だろうか。

 最近は私もシルビアのメイドをしているからな。

 ザンドルドと力を合わせて戦う機会など、魔王軍を辞めて以来かもしれん。


「いくぜセリカ!

 あんな単細胞に負けんじゃねぇぞっ!!」


「フン!

 そのセリフはそっくり貴様に返すぞ、ザンドルド!」


「ハリネズミになって死ねやっ!

 スキル『レイン・オブ・アローズ』!!」


 まず先手を切ったのは、ザンドルドの弓だった。

 ザンドルドから放たれた1本の矢が、2本、4本と分裂し、最終的に1,000本の矢がギガンタンを襲う。


 ザンドルドは弓を使ったスキルを有し、遠距離戦を得意とする。

 このスキルは上空から雨の如く矢を降らせ、数の暴力を持って対象を殲滅する、いやらしい技だ。


 このイエローアイズ領が人間に幾度となく攻め込まれても、城壁にたどり着くまでに人間どもが全滅した理由が、これである。

 ザンドルドは音速に近い飛翔速度を有し、対象が戦闘態勢へ入る前に攻撃を開始する。

 対象がザンドルドを発見しても、その時にヤツの放った矢は、雨の様に地上に降り注ぐ。


 地上から弓を射るにしても、魔法で攻撃しようとしても、その時にはザンドルドは大空を右に左に旋回し、的を絞らせる事はない。

 おまけにザンドルドは軽く羽ばたいただけで、300フィートは上空に飛び上がるからな。


 ザンドルドは下級貴族ながら、敵に回すと、魔族の中でもトップクラスの厄介さを持つ。

 もしこいつが上級貴族に生まれていたなら、今頃、魔王様直属の将軍かなにかになっていただろう。


「私も後れをとってはならん!

 行くぞ!

 スキル『剣の舞』っ!!」


 そうして、私も剣を繰り出す。

 ザンドルドが遠距離戦を得意とするなら、私は接近戦を得意としている。


 私が使ったスキル『剣の舞』は、一撃で4回、対象を切り刻むことが出来る、連続斬撃だ。

 ザンドルドの『レイン・オブ・アロー』に比べれば地味なスキルだが、連続で剣撃を繰り出せば、一呼吸で100回位は対象を切り刻むことが可能だ。


「グオオオオオオオッ!!」


 ザンドルドの放った矢が、ギガンタンに直撃する。

 しかしその殆どが奴の持つ鋼の肉体に弾かれてしまう。

 これは……やっぱり、通常のスキルではダメージが殆ど通っていないのか?


「はあああっ!!」


 次に、私の剣がギガンタンの腹部に直撃する。

 しかし、結果はザンドルドと同じだ。

 ダメージが通っているようには見えない。


「グオオオオオオオッ!!」


 ギガンタンが私に向かって、拳骨を落とす。

 速度も通常のギガンタンよりかは速いが、躱せない程のレベルではない。

 その分、パワーは恐ろしいな。

 一撃で致命傷を負っても、おかしくはないだろう。


「おいおいおい!

 ギガンタンの防御力はCじゃねぇのか!?」


「チ! このギガンタンのBはありそうだ。

 らちがあかんぞ、これでは!」


「眼だセリカ!

 俺は奴の眼に集中して矢を打ち込む!

 テメェも眼に刺突を繰り返せ!

 分散した攻撃が通らねぇなら、一極集中だ!」


「ザンドルド、外すなよ!」


「テメェもな!

 行くぜ!

 スキル『ピンホールショット』!!」


 ザンドルドが矢をギガンタンの眼に向かって射る。

 ギガンタンは瞳を閉じるが、1射、2射と当たる度に、体をねじり嫌がる。

 きっと痛いのだろう。


「私も行くぞ!

 スキル『剣の舞』!!」


 今度は切る事に関する『剣の舞』ではなく、刺す事に関する『剣の舞』だ。

 私はザンドルドの矢の合間をぬって、ギガンタンの眼を刺突する。


 この感触……ダメージを受けているなっ!!

 どんどんやらせてもらうぞ!


「行けるぞ!

 奴に休む隙を与えさせるんじゃねぇっ!」


「誰に向かって口を利いている!

 私は鬼人のセリカだぞっ!!」


 射る、刺す、射る、刺す。

 ギガンタンに瞳に向かって、絶え間のない連続攻撃を繰り出す。

 すると、閉じられた瞳から、青い血がタラリと流れてきた。

 これはようやく切っ先が眼球に届いたか!?


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 ギガンタンが大きく雄たけびを上げると、その鋼のような皮膚の至る所に、血管が浮き出し始める。

 これは……間違いない! 

 最も厄介な先兵と呼ばれた本領を発揮しようとしているなっ!!


「セリカ!

 テメェ、一旦引けっ!

 あのボケ、スキルを使うつもりだっ!!」


「わかっている!

 だが、避けれん!

 私には避けれん理由があるのだ!」


 私の後ろには、シルビアと私が乗っていた馬の亡骸が横たわっている。

 もし私がギガンタンのスキルを躱してしまうと、奴はそのまま馬の亡骸をグチャグチャにしてしまうだろう。


 それだけは避けたい。

 私はシルビアと、馬を葬る事を約束したんだ。

 シルビアは自分の馬が死んでショックを受けていた。

 お姉ちゃんとして、これ以上シルビアを悲しませたくない!


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


「耐える!

 耐えてみせるぞ私はっ!!」


「このボケがぁっ!!」


 ギガンタンのスキルが発動する。

 ギガンタンのスキルは『攻城破壊』というスキルだ。

 このスキルを使ったギガンタンは、日1時間もの間にわたって、足を止める事なく突撃を行い続けることが出来る。


「うおおおおおっ!!」


 そうして、私はギガンタンの止まない攻撃に包まれる。

 一撃でも食らうと、致命傷だ!


 私はギガンタンの攻撃を躱しながら、奴の眼にカウンターアタックをし続ける。

 その度にギガンタンの眼から青い血しぶきが舞い上がり、大きな唸り声を上げる。


「止まりやがれっ!!

 スキル『ピンホールショット』!!」


 直後、ザンドルドの放った弓矢が、ギガンタンの眼に深々と突き刺さった。

 あと少し、あと少しで刃の切っ先が奴の脳に届く。


 しかし、こうなったギガンタンは、どれほどの重傷を負っても、死なぬ限り、決して攻撃を止めようとしない。

 そうこうしている間に、だんだん奴の攻撃を躱すのが、だんだん辛くなってきた。

 紙一重、薄皮一枚、それがどんどん増えて行き、ついには私の身体を奴の拳がかすり始める。


「チッ、あの馬鹿! 

 スキル使用時のギガンタンに近づくなってのは、ギガンタン退治の基本じゃねぇかっ!!」


 あと少し! あと少しなんだ!

 あと少しで、私かザンドルドの攻撃が、奴の脳に届くんだ。

 そんな時に、そんな時なのにっ!!


「ゴフッ!?」


「テメェ!?

 セリカっ!?」


 私は、ギガンタンの一撃を躱しきれず、腹に奴の拳を食らってしまった。

 一撃でHPの三分の二を持っていくとは……これはもう、私も限界か?


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 奴はその拳を、私の頭に振り下ろす為、大き体を逸らして振りかぶる。

 これは……躱せんな。

 これを食らってしまえば、私もただでは済むまい。


 仕方がない。ザンドルド、私も本気を見せるぞ。

 私達は人間どもがこの場を見張っていると邪推し、本気を出すことをしなかった。

 もう、後先考えるのは無しだ。

 このギガンタンは、手を抜いて倒せる相手じゃなかった。


 しかし、その時だった。

 その時、運が私に味方をした。


 この魔改造されたギガンタンとの戦いで、奴が唯一怯んだ、あの謎の生物の雄たけび。

 それが、今この展開になって、再び聞こえてきたのだ。




「■■■■ぉぉ■■■■ぉぉ■■■■――――――――ぉぉぉぉぉ!!!!」




「グオオオオオオオオオオッ!?」


「うおっ!?

 この鳴き声……さっきのかっ!?」


 その謎の生物の雄たけびは、先ほど聞こえたモノよりも一回り大きく、その声だけで心が折られそうになるような、とても気持ちの悪い叫びだった。

 その衝撃は私もかなりキツイものがあったが、ギガンタンにとっては、もっとキツイものだったのだろう。

 奴は何故かこの謎の生物の声を、最初から恐れていたからな。


 その証拠に、ほら見ろザンドルド。

 ギガンタンは頭を抱えて、隙だらけになってしまったではないか!


「これで……終わりだぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」


 そうして、私は『剣の舞』を、奴の眼球に叩き込む。

 一撃、二撃、三撃……そして、四撃目にようやく、私の剣が奴の頭部を貫通する。

 私はギガンタンに打ち勝ったのだ。


「カ……ガ……ゴゴ……ガガ……」


 そのまま、ギガンタンは前のめりに崩れ落ちる。

 崩れ落ちたギガンタンは2~3度痙攣すると、そのままピクリとも動かなくなってしまった。


「勝ったか……」


 倒れたギガンタンの頸動脈に手をやり、確実に死んだ事を確認する。

 ありえないくらい強かった。

 ギガンタンはただでさえ化物だが、こいつはさらにその3段くらい上を行った。

 まるで別のモンスターと戦っている気分だった。


「オウっ!

 セリカっ!!

 テメー、大丈夫か!?」


 空を飛んでいたザンドルドが地上に降りてきた。

 ギガンタンに攻撃を食らわされた私とは異なり、ザンドルドは無傷だ。

 そんな姿を見ると、遠距離戦で戦う奴は楽で良いなと思う。


「すまんなザンドルド。

 心配かけた」


「チ……まったくだぜ。

 まぁ、本気を出すなと言ったのは俺だったからな。

 まさかこのクソがここまで強いとは思ってなかった。

 強化どころか、別の生物みてぇに魔改造されてやがるじゃねぇか」


 二人して、ギガンタンの姿を見る。

 確かに……見た目は普通だが、中身はまったくの別物だった。

 何故こんな化物が、領内にいるのだ?

 こいつはただの突然変異で、100年前の討伐から生き残り、ご都合よく領内に出没しましたとでも言うのか?


「おう……セリカ。

 頑張ってもらったところで申し訳ねぇが、シルビアはどこだ?

 一緒じゃなかったのか?」


「シルビア……だと!?

 シルビアは貴様を街に呼びに行ったのだぞ!?

 貴様はシルビアから事の経過を聞いて、ここにやってきたのではないのか!?」


「ちょっと待て!

 俺がここに来たのは、ローザの魔眼がギガンタンを視認したからだ!

 俺はシルビアがお前と一緒に居るとばかり思っていたぞ!?」


 なんだと……?

 では、シルビアはまだ森を彷徨っているのか?

 それとも、ただ入れ違いになっただけなのか?

 一体シルビアは、どこにいるのだ……?


「おいっ!!

 セリカてめぇ、シルビアの護衛だろっ!

 まさか、シルビアを一人にしたのかっ!?」


「………シルビアを連れて、さっきの化物と戦う事はできないと判断した。

 ここに留まるよりも、逃がした方が良いだろうと思い、街に向かわせた……」


 事実、あのギガンタンは強敵だった。

 シルビアがもしこの場に居たとすると、戦いに巻き込まれて居た事は想像に難くない。

 それがシルビアにとって、最善だったはずだ。


「馬鹿かっ!!

 それが罠だったらどうする!

 俺の領地は反乱のタマゴがウロウロしてやがんだぞ!

 これが、おまえとシルビアを離れ離れにするような、誰かが仕組んだ罠だったらどうする!」


 わ、罠だと……?

 ま、まさか。

 い、いや、確かにそういう考え方もできるのか……?




「■■ぉぉ■■―――――ぉぉぉ!」




 また、あの生物の声が聞こえた。

 そう言えば、この声はシルビアが逃げた方向から聞こえている。

 ……まさか、この声にシルビアが何か関係しているのか!?


「おい、セリカ、シルビアを追うぞ!  

 なんか嫌な予感がしやがる!」


「わ、わかった!」


 そうして、ギガンタンとの決着は私達の勝利で終わった。

 シルビア! 直ぐにお姉ちゃんが追いつくからな!

 無事でいるんだぞ!

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