第13話 帰路にて
結局、父さんは泣きそうな顔して、一人で屋敷に向かって飛び去って行った。
狩ったモンスターを解体する作業がまるまる残っているけど、どうするんだろう?
まあ、後で父さんがどうにかするだろうし、深く考える必要もないか。
「さあ、シルビアよ。
狩りはここで終わりだ。
お家に帰ろう。ローザが心配している」
私も屋敷に帰る事が決まったみたいだ。
理由は、母さんが私を狩りに出すのを許さないから。
母さんは私に安全な場所で育ってほしいと願っているみたいだし、危険な狩りに行くのを、良く思っていないのだ。
まあでも、私も狩りはそこまで好きではないし、毎回父さんに強制的に連れてこられて、うんざりしていたからね。
疲労も溜まっているし、私も早く屋敷に帰りたい。
狩りをやめて帰るって案に大賛成だ。
帰り支度をして、セリカの隣に並ぶ。
するとセリカは私の頭をポンと叩いて、ニコッと微笑んだ。
「二人きりになるのは久しぶりだな。
お姉ちゃんは嬉しいぞ」
言って、にへら~とした笑顔をセリカは浮かべる。
ったく……嬉しい事言ってくれるよね。
こんな美人にそんな事言われて、嬉しくない訳がないじゃん。
セリカは頭に2本の角が生えていて、メイド服を着ながら腰元に帯剣している、鬼人族という魔族だ。
過去は魔王軍の軍人としてかなりブイブイ云わせていたみたいだけど、詳しくは知らない。
父さんと同じくらいの評価を得ていたらしいけど、父さんがどんな評価なのか、私は良く知らいしね。
そんなセリカは私の面倒を見たり、護衛みたいな事をしてくれる、私付のメイドだったりする。
とは言っても、私の育児の殆どは母さんがやっていたので、私の面倒をあまり見れない事は、セリカにとって不満になっていたようだ。
その反動からか、こうやって二人きりになった時のセリカは、生き別れの彼氏に会えたような、嬉しそうな顔をする。
美人は正義だ。
今のところセリカは、私の嫁候補の最有力候補だ。
彼女との関係を大事にしつつ、その仲を育んでいきたい。
そういう日常の配慮が、童貞卒業(越えなければならないハードルはいくつもあるが)に繋がる(と思う)んだ。
「私もセリカと二人きりになれて、嬉しいです」
「ほ、本当か!?
本当に嬉しいのか!?」
「ええ。
最近は私も用事(スキルの練習)で忙しかったので。
セリカと会えなくて、寂しかったです」
「…………シルビアっ!!」
「え!?」
なんか、力いっぱい抱きしめられた。
ちょ、嬉しいけどやめてやめて!
自分の腕力がどんなに強いか、わかってるの!?
「シルビア!
お姉ちゃんもシルビアの傍にいたかったのだが、最近は野暮用が続いていたんだっ!!
中々会いに来れなかったお姉ちゃんを許してくれ!!」
「セ……リカ……離しな……さい……」
いやあああああ。
死ぬううううう。
この暴走さえなければ、セリカは理想の伴侶なのに、これじゃ体がもたなぁぁぁい!!
「ああ……こんな華奢な体で狩りなんて連れて来られて、シルビアはなんて可哀想なのだ。
ザンドルドはローザの方からしっかり説教してもらうからな。
もう大丈夫だぞ!」
「人の話を……聞きな……さい……」
あ、だめだ。
なんかこの世界に来る前に行った、宮殿が浮かんできた。
そういやあの神様も、すっごい可愛かったなぁ……。
また夢に出てこないかなぁ……。
「…………がくっ」
「む!?
どうしたシルビア!?
貧血を起こしているではないか!?
誰がシルビアをこんなにしたっ!?」
やったんは貴方でしょ……。
抜けてんのもいい加減にしてよ……。
◇
あの後、15分くらい横になって、ようやく気分が回復した。
気分が回復した後、セリカにはしっかりと説教しておいた。
どんどん私を抱きしめてくれて良いんだけど、力加減だけは間違わないでほしい。
切実なお願いである。
さて、今は既に街に向かって帰宅中だ。
父さんが乗っていた馬は、今はセリカが乗っている。
狩場はモンスターの巣なので、流石にあの場所に置きっぱなしは頂けないからだ。
狩場は森の奥深くに位置しており、かつ私が乗馬に慣れていないため、街の城壁までは概ね1時間半はかかる。
私が普通に乗馬をできたのなら、もっと早い時間で到着するのだろうが、こればかりは仕方がないよね。
――――と、そんなこんなで街まで残り半分の距離まで帰って来たら、狩場に行くときに通ったつり橋が川底に落ちていた。
何で?
「ロープの切れ跡を見るに、経年劣化だな」
「なんと間の悪い……。
セリカは迂回道を知っていますか?」
「迂回か……。
知らない事はないが、今あの道は通れるのか?」
「何か問題でもあるのですか?」
「うむ。
上流にもう一つ吊り橋があるのだが、かなり遠回りをしないと駄目だ。
この道が新道なら、上流の道は旧道に当たる。
新道ができて旧道は道としての役目を終えているからな。既に朽ち果てているとも限らん」
うーん。運が悪いなあ。
私一人なら空を飛んでチャチャッと街に帰る事は可能(5分以内に到着するなら)なんだけど、今日は馬で来ているしね。
吊り橋の復旧なんて2人でできないし、それしか道が無いのなら、その上流の道とやらを通るしかなさそうだ。
「このタイミングで吊り橋が落ちるか……。
少々気になるな」
「そうなのですか?」
「戦争で行軍を逸らす際に、よく使う手だからな」
「でも、経年劣化なのでしょう?
気のし過ぎではなくて?」
「優秀な工作員なら、経年劣化を装ってロープを切ることくらい朝飯前だ。
これは……少々マズイかもしれないな」
(ウォォォォォ……ォ)
その時だった。
なんか、変な鳴き声が聞こえた。
まるで狼とも熊とも判別しがたい、なんとも形容しがたい鳴き声だ。
聞こえた方向までは判別できなかったけど、私達が帰って来た狩場方面から声は聞こえた気がする。
「何ですか……今の鳴き声は……?」
「……シルビア。
嫌な予感がする。
急いで上流に向かうぞ」
「……セリカは今の声が何か、知っているのですか?」
「いや、まさか……な。
シルビアは気にするな。
あんなものがこんな所に居る訳が無い。
行くぞ!」
「は、はい。
よくわかりませんが、急ぎましょう!」
私とセリカは急いで上流に馬を走らす。
上流への道はセリカの言った通り、あまり整備されておらず、藪が多くてなかなか速度が乗ってこない。
おまけに私は馬に乗るのが下手なため、所々で転倒しそうになったりして、何度もその場に立ちすくんでしまう。
「ウォォォォォ」
「せ、セリカ!?
あの声、さっきより近づいていませんか!?」
「ク、まさか本当にヤツなのか!?
アイツは全滅したのではなかったのか!?」
セリカはこの声の主がどんな存在なのか、当たりがついているようだ。
もしかしたらこの声の主は、とんでもないモノかもしれない。
セリカの焦り様を見ると、それが顕著にわかる。
上流に進んで行くとだんだん川から離れて行き、そして大きく迂回する形でまた川の方へ向かう。
さらに進んでいると、大きな切通しのある場所に通りがかった。
そこで私とセリカは、とんでもないものに遭遇して、馬を止めた。
「切通しが……」
「……崩れているだと!?」
その大きな切通しの真ん中くらいの場所で、崖崩れが起きていた。
岩が何層も積み重なっていて、とてもじゃないが、馬ではこの場所を抜ける事はできない。
ここまできて、私とセリカは袋小路に追い込まれてしまったのだ。
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