第5話 神様再び


 夢を見ている。

 だだっ広い草原の中に一人でいる夢で、周りには誰もいない。

 自分で夢と認識しているので、これは明晰夢って事か?


「伊集院……っと、今はシルビアか。1年ぶりね」


「うおっ 吃驚したっ!?」


 背後から急に声をかけられた。

 ふり向くと、そこにいるのはあのベルサイユ宮殿みたいな所にいた、法服を着た神様が居るではないか。


「え、神様何してるんですか!? 

 神様ってポンポン出て来てもいい存在なんですか?」


「そんな訳ないでしょ!? 

 たまたま空を通りすがったら貴方がいたから、直接あんたの夢に干渉して、話しかけただけよ!」


「通りすがったらって……あれ? 

 そういや俺、喋れるぞ?! 

 しかも男の声だ! なんぞこれ!?」


「あんたバカ?

 ここはあんたの夢の中なんだから、あんたがどんな声で喋ろうが、自由じゃない」


 いや、そういうものなのか?

 なんか最近の俺に起こる事象って、規格外すぎやしないか?

 まあでも、生前のような人生を続けるくらいなら、どんな事にだって耐えられるので、そう考えたらこの世界の方が全然良いのだが。


「あ、ちょっと聞いて下さいよ神様っ! 

 なんで俺を男に転生させてくれなかったんですか!?

 今はまだ赤ん坊だから害はないですけど、大人になったらオナベの道まっしぐらじゃないですかっ!!」


「いいじゃない。角刈りの天使」


「よくないわっ!!」


 そんなの誰得なんだよ! 

 ちくしょう。

 俺はまだ童貞なんだぞ!?


「そんな悲しそうな顔をしないでよ……。

 そんなに心配しなくても、あ……アレ、ゴホン。

 アレを生やす事が、無理になった訳じゃないと思うわよ?」


「生やす事が可能!? 

 おおおお!? 

 本当ですか神様っ!? 

 生やすって、男の象徴の事ですよね!?」


「……そういうスキルがあるのよ。

 効果は一晩しか継続しないけど」


「うおおおおおおお!!

 第三の目標、デフォルト回避ぃぃぃ!! 

 で、どうやったらそのスキル覚えるんですかっ!! 

 教えて下さいっ!!」


「あんたまだ1歳になったばかりでしょ? 

 知ってどうしようって言うのよ」


「俺には大事な事なんです。

 大事な事なのでもう一度言います。

 俺には大事な事なんです」


「あんたのスキル『グリモワール・スプレッド』に、性転換を得意とする召喚獣がいたはずよ」


「グリ……なに?」


「あんた自分で自分のステータスについて、見てみなさいよ。

 その方が早いわ」


 見るって言っても、どうしたら見れるんだよ。

 我のスキルよステータスよー、頭に浮かびたまへー、とか思ったら浮かぶとでも……





●基本情報

名 前:シルビア・メル・シ・イエローアイズ

種 族:堕天使族

性 別:女

年 齢:1歳

称 号:乳児


●ステータス

H P:F

M P:F-

S P:F-

攻撃力:F−

防御力:F−

魔抵抗:F−

俊敏力:F

精 神:D

魔 力:F−

運 :C

魅 力:A+


●スキル

『占術F』

 占を立てて未来を占う能力。

 このランクでは占術の方法を知っている程度にとどまり、占いが的中する事はほとんどない。

 ただの知ったかぶりともいう。


『飛翔F-』

 自身の力で自由に空を飛ぶ能力。

 このスキルは堕天使族という種族柄、SPを消費しないで使用することが出来る。

 このランクでは宙に浮かぶ事すら困難であり、飛翔できる機構を一応有しているに留まる。

 ニワトリである。


『グリモワール・スプレッド』

 召喚獣が封印されたタロットカードを展開し、召喚獣を召喚する能力。

 カードの種類に関連した召喚獣が封印されている。

 現在は使用できるカードが以下のカードに制限されている。


--保有召喚獣一覧--

【月】

 この召喚獣は、『精神B++』以下のステータスを持つ者の精神を『畏怖』・『恐慌』・『混乱』・『発狂』等により崩壊させる事ができる。

 また、同様のステータスを持つ者の精神が崩壊した場合、その者の精神を正常な状態へと回復させる事ができる





 浮かんだーーーっ!!

 こんな簡単に浮かぶのかよ!


「っていうか、ほとんどがFじゃん」


「あんた乳児でしょ。

 ステータスが低いのは当たり前じゃない。

 成長すれば高くもなるわよ」


 むう、そうなのか? 

 それならそれでいいのだが……


 ざっと見たところ、今のところ俺のスキルは3つか。

 と云うか、占いのスキルも俺にはあるみたいだが、『占術F』ってすっげー低いじゃん……

 そりゃ俺のタロットは斜め上の結果しか出ないと悪評だったが、ただの知ったかぶりって酷過ぎるだろ……。


 また、俺には翼があるので、『飛翔F-』のスキルもあるようだ。

 確かに俺の翼はまだ小さすぎて、地上でパタパタ動かすくらいしかできないが、ニワトリとか、これまた酷い事書いてあるな。


「どう? 見えた? 

 グリモワール・スプレッドだけど、これは召喚獣を呼び出す能力になるわ」


 うむ。確かに召喚獣とか書いてあるな。

 いいじゃん召喚士。

 カッコイイじゃん!

 女に転生してこの先どうすんだよって思ってたけど、そんなカッコイイ能力があるんだったら、少しは報われるぞ。


 ……って言うか、スキルの説明をよく見ると、この『月』の召喚獣って、凶悪すぎないか?

 『精神B++』以下のステータスを持つ者の精神を『畏怖』・『恐慌』・『混乱』・『発狂』等により崩壊させる事ができる――って書いてあるけど、これって俺に敵対するザコ敵は、無条件でお陀仏じゃん。


「で、よ。

 確かあたしの記憶が確かなら、この『グリモワール・スプレッド』に、性転換を得意とする召喚獣がいたはずなのよ」


「どうやったらその召喚獣を召喚できるようになるんですか?」


「召喚獣を『グリモワール・スプレッド』に追加するには、タロットカードを引く必要があるわ。

 就寝前にボロボロのタロットカードを引いたでしょ? あれよ」


 ああ、あれか。

 何でタロットカードなのかはわからんが、突然現れたんだよなぁ、アレ。


「あのタロットカードは特殊なカードよ。

 あのカードは、カードの種類に関連した召喚獣が封印されていて、あんたが召喚獣の望む成長を遂げれば、タロットカードが現れるようになるわ」


「つまり、お目当ての召喚獣を召喚できるようになるためには、成長しろって事ですね?」


「そうなるわね。

 でもあたしには、物理的に強くなるのか、精神的に強くなるのか、名声を得るのか、年齢を重ねるだけなのか。

 その性転換を得意とする召喚獣が、どの方向性に成長を望んでいるかまで、わからないわよ」


 うーん。

 と言う事は、どうすればいいんだ?

 何か方法はないのか?


「あんた生前はタロット占い師だったんでしょ? 

 あの『グリモワール・スプレッド』の召喚獣は、タロットカードに関連した召喚獣よ。

 どのカードがどんな意味を持っているのかが判別できれば、その方向性も自ずと推測できるんじゃない?」


 それだ! 確かにカードの意味や成り立ちを調べて行けば、男に戻れるカードが特定できるかもしれない。

 カードさえ特定できれば、そのカードが導く方向に進めばいいだけだ!


「でも、オナベのタロットなんて、本当にあるのね」


「ないわっ!!」


 もうオナベから離れようよ。

 俺はもう、そんな世界には進まない。

 正々堂々と漢を生やして、彼女を作るんだっ!!


「じゃあ、あたしはもう行くわね。

 もうあんたの夢に干渉するのも限界だし」


「あ、ちょ、ちょっと待ってください。

 何で神様は、こうやって俺にいろんな事、教えてくれるんですか?」


 少し疑問に思った。

 俺の生前はどう考えてもロクデナシだったし、そんな俺に神様が、配慮してくれる理由が見当たらない。


「……同じ轍を二度踏む訳にはいかないのよ。

 あたしは」


「はい?」


「今は話せない。

 いずれ、わかる時がくるわ」


 はあ。なんかよくわからんが、気まぐれや酔狂で俺をサポートしてくれている訳ではなさそうだ。

 気になるところではあるのだが、いずれ話してくれるのなら、まあそれでもいいか。


「――――為せば成る、為さねば成らぬ、何事も成らぬは人の為さぬなりけり、か」


「ッ!! そ、そうよ。そういう事よ!! 

 何事もできないのは、やらないからよ!」


 え、その反応はなんなの。

 カッコ付けるために、名言オタクよろしく、適当な名言を言っただけなんだが。


「あんた良い事いうじゃない。

 今の言葉、あたしにピッタリだわ!」


「あ、はい。どういたしまして?」


「そうよ! 

 できないと言うのは、やらないだけなのよ! 

 名言よ! 感動したわ! 

 神のあたしが説法を受けるとは、思わなかったわ!」


 これは江戸時代後期に存在した上杉鷹山の言葉だ。

 なんか感銘を受けているようだし、今更「これは地球の偉人の言葉です」なんて言えない。


「じゃあね。あんたお調子者だから、しっかり頑張りなさいよ! 

 この世界の事、頼んだからね!!」


 それを最後に、神様の声はしなくなってしまった。

 うーん。なんかよくわからん方だな。

 まあそれでも、こうやっていろんな事を教えてくれるのには感謝しなくちゃな。

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