あの日、世界は壊れた

 あのとき、僕はどうすればよかったのだろうか。

 今でも考える。

 なにが悪かったのか、どうすれば解決したのか。


 あの一件以来、僕に小説を書くことを教えてくれた二人は、小説を書くことができなくなってしまった。

 そして、大部分の責任が僕にあるということ。

 ネット小説に並らんだ、膨大な中傷コメントとレビュー。

 僕たちの席に投げ出された、一生懸命書いたはずの小説。

 ボロボロに破れ、ぐしゃぐしゃに潰され、読むのもままならないほどひどい状態だった。

 自分たちが執筆した小説は、僕たち自身の中にあるいくつもの世界だ。

 作り上げ広がった世界が、小説とともに完膚なきまでに破壊された。


「もう小説なんて書けるわけないだろ」


「ただ私たちは、小説を楽しんで書きたかっただけなのに」


 最後に二人から聞いた言葉は、暗い絶望に染まっていた。

 それは今も、呪詛のように僕の世界を蝕んでいる。

 悪気なんてなかった。悪意なんてあるわけもなかった。

 ただ僕たちが自分たちの夢を追いかけた延長線上に、そんな問題が持ち上がっただけだったのだ。


 御崎さんに言われたことと、御崎さんに僕が言ってしまったことの全てが、僕に全て跳ね返ってくる。


 物語を書くということは、自分自身の中で完結するものではない。


 自分を含めて、周囲の人たちや、あるいは世界や、これまで自分たちが見てきた物語の中を生きることで、自分だけの世界が作り出され、そこに物語が宿る。

 だが僕の物語は所詮まがい物であり間違いであり、誰にも望まれる物語ではなかった。

 

 僕は、小説なんて書くべきじゃなかった。


 僕の中ではっきりと息づいて動いていた世界が、音を立てて崩壊していった。

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