来訪者 -1-
歴史研究部の依頼は大成功を収めた。
俺たち写真部が倉敷美観地区を訪れた翌週の発表会。歴史研究部は他校の代役でありながら最優秀賞を勝ち取り、周囲を大いに沸かせることとなった。
写真部は写真という形で関わっただけだが、歴史研究部とともに高校から高評価をもらっている。
それはひとえに、寝る間も惜しい発表内容を作り上げた歴史研究部の功績があってこその話だ。しかし、評価内容の一つに、発表に使われている写真がとても綺麗で、なにを伝えたいかわかりやすかったというものがあったらしい。そのおかげで本年度四月に再発足したばかりの部活でありながら、写真部は校長先生から歴史研究部と一緒にお褒めの言葉を賜ることになった。
歴史研究部の依頼報酬として、写真部四名と歴史研究部が賞状を手に笑っている写真をもらっている。
少しずつだが写真の撮影依頼も増えている。印刷物に絶対必要と迫られている人もいれば、SNSのプロフィールに使う写真がほしいという興味本位のような人まで様々だったが、俺たち写真部にとってはどれもありがたいものだ。
写真部は、少しずつではあるけれど確実に動き始めている。
ほとりから部日誌の制作を任されている俺は、部日誌を作りながら改めてそれを実感する。まだまだ過去の先輩方の依頼内容には遠く及ばないだろう。だけど、俺たちが撮った写真を依頼人に喜んでもらえて、そして依頼主さんたちの嬉しそうな笑みを浮かべる依頼主たちの写真が部日誌に追加されていく。
それが本当に嬉しく、そして楽しく感じる。
ほとりも、以前にも増して真剣に、楽しげに部活に取り組むようになっていた。
少なくとも、見かけ上は。
倉敷美観地区のカフェで早乙女が何気なく放った問い。そこに込められた意味は、侮蔑でも責め苦でもなく、ただ気になってしまったからという疑問からの問いだった。
なぜ写真を撮るのか。写真を撮っているほとりは楽しげなのに、写真はこんな風なのか。
その問いにほとりが答えられずにいる間に、早乙女は父親から急遽呼び出しを受けた。また埋め合わせをさせてもらいますと言い残し、そのままどたばたと急ぎ帰っていった。
見かけでは、ほとりにおかしなところはなかった。だが、湊斗と桃子が違和感を覚えないわけもない。自分を奮起させるために、無理に明るく振る舞っていたことは明白だったからだ。それでも二人はなにかを言うわけではなく、努めていつも通りにほとりに接していた。
俺も、どうすればいいのかがよくわからなくなった。口下手で人付き合いが苦手なことが、ひどくもどかしい。気の利いた一言もかけてあげることはできない。
ただ、いい機会だと考えたのも事実である。
青葉さんとの別れから一時カメラから離れ、それでもほとりは再びカメラを手にした。
でも実際は、無理に写真を撮り続けているのではないか。そう感じていた。
俺や桃子のような、ほとりのことをよく知っている人間からではない別の誰かから。ほとりの写真について、問いを投げたことで改めてほとりが自分の写真と向き合えるなら。もしかしたらすべてが、いい方向に進んでいくんじゃないかと思っていた。
大丈夫だと、思っていた。
あの人が、写真部に現れるまでは。
Θ Θ Θ
六月の終盤。一層暑さを増している岡山の気候は、俺の柔な体にはきついものがある。制服が夏服に替わっても、暑いものは暑い。
ただでさえ岡山は晴れの国といわれるほど雨量が少ない。梅雨真っ只中だというのに、今年も当たり前に雨がほとんど降っておらず、それでいて蒸し暑い日だけがずっと続いている。
授業が終わると同時に、真っ直ぐ写真部の部室に行くことがすっかり日課となっていた。別クラスのほとりと桃子は一緒に、普段は俺も湊斗と一緒に部室に向かっている。
生徒棟から部室がある部室棟までの道をふらふらと歩いていると、廊下の隅に見慣れた人物が手を振っているのが見えた。
「真也君ちょうどいいところに」
そこにいたのは我らが写真部部長のほとり。そしてそれから、もう一人。
「感心だな。無理矢理写真部に入れたのに、毎日しっかり活動しているようでなによりだ」
「俺を写真部に連行した張本人である赤磐先生にそれを言われると、少しだけイラッとします」
はははと端正な顔に雑な笑いを浮かべながら、赤磐先生は出席簿で俺の頭をばしばしと叩く。
「初瀬からも熱心に活動していると聞いているぞ。お前の才能に胸を打たれた私の目に狂いはなかったわけだ」
……この人記憶をねつ造してやがる。そんな感動的なやりとりじゃなかっただろ。
思い返せば、俺は遅刻の罰則に写真部に連行された。
しかし後々考えてみれば、どう転んでも結局写真部に入部していただろう。赤磐先生に連行された写真部でほとりと出会った。だが連れて行かれずとも、後楽園で瀬戸高の制服を着ているほとりに会っているのだ。自分から高校でほとりを探し、そのまま写真部に入部していた結果はまず変わらない。
それを赤磐先生の手柄だと言われるのは、非常にしゃくである。
「こんなところで、なにをしているんですか?」
写真部の顧問といえど、イリオモテヤマネコほどを見かけることがない絶滅危惧種教師。歴史研究部の依頼時に姿を見せたことを除けば、写真部絡みで仕事をしている数など片手で足りるほどだ。
「外部から写真部に依頼があってな。今、依頼人が写真部の部室で待っているんだ」
俺は首を傾げて、ほとりに視線を向ける。ほとりもやや戸惑ったように頷いていた。
これまで外部から写真部への依頼はたびたびあり、そのいくつかは赤磐先生が窓口になっていた。だけど、そのほとんどがメールで依頼内容と連絡先などを送ってきただけだ。
事前連絡もなしにやってきたことも、既に依頼人が部室に訪れていることも初めてだ。それだけでも、今回の依頼が特殊であることがわかる。
赤磐先生は出席簿を肩に当て、小さく息を吐く。
「今回の依頼人は写真部の常連だ。写真部が休部になるまで、定期的に写真部に依頼に来ていた。瀬戸高まで直接出てきているのに、顧問の私が出向かないわけにもいかないからな」
「そんな常識人ぽい発言をいきなりされても」
再び出席簿で頭を叩かれた。
赤磐先生は首を振って促し、部室棟へと足を進めていく。
俺とほとりは顔を見合わせながらも、赤磐先生のあとを追う。
「桃子はどうした?」
「桃ちゃんは課題を忘れてて、今は教室でやってるよ。しばらくしたら来ると思う」
「湊斗も日直の仕事があるって」
「そっか。でも緊張しちゃうね。写真部の常連さんなんて初めてだから、頑張らないとね」
両手の拳を握り、やる気を露わにするほとり。
一見していつも通りのほとり、に見えなくもない。だがやはり、なにか気持ちを奮い立たせているような、無理をしているような感じが滲み出ている。
どうすればいいかと、いつも迷う。だけど結局、俺にはなんと声をかけていいかわからない。
「俺たちは駆け出しの写真部だ。俺たちが撮れる最高の写真を。それは変わらないだろ」
「……そうだね。ありがと」
言いながら、ほとりは自分のカメラを収めた鞄に触れた。
ほとりが一番写真を撮っていた幼少時、そして再び写真を撮り始めた今日このごろ、いつも肌身離さず持ち歩いてる愛機D80が納められた鞄。
カメラを持っている限り、ほとりはきっと大丈夫だ。たとえ立ち止まったとしても、ほとりはカメラがある限りなんとかやっていける。
部室棟はいつも賑やかといえど、放課後になって間もないこの時期はさすがに静かだ。
写真部部室へとたどり着くと、相変わらずノックもなく赤磐先生は部室の扉を押し開ける。
当初は写真やアルバムで溢れかえり雑然としていた部室も、今は整理して綺麗になっている。机の上には最近撮ったばかりの写真を積み上げたトレイ。先日行われた歴史研究部の発表会の冊子とともに、写真部の部日誌であるアルバムが編集途中で置かれている。
そして編集途中の部日誌の傍らに、机に片手をつきながら部日誌を見下ろす人物。
「お待たせしました」
赤磐先生が声をかけると、ようやく来訪者は部日誌から顔を上げる。
歳はおそらく二十代後半ほどで、赤磐先生と同じくらいだろうか。黒縁眼鏡に清涼感の短めの整えられた黒髪。ほとりが面をくらうほど鋭い目に浮かぶ三白眼が、じろりとこちらに向けられる。
「彼が今回の依頼人だ」
赤磐先生がそう告げると、男性はゆっくりと体をこちらに向けた。
「はじめまして」
見た目の鋭さを助長させる低く重い声で、男性は口を開く。
「瀬戸高写真部OBの一色だ。休部中の写真部が再発足したと聞いて、依頼に来た」
写真部は部外の人との関わりで成り立っている部活だ。再発足してからようやく三ヶ月ほどだが、男性はどこからか写真部が再発足したことを聞いたらしい。
部室中央の机に並ぶ椅子に座ってもらう。
反対側の椅子に、俺とほとりが座る。
赤磐先生は他にも用事があるとかで、失礼のないようにと言い残して既に帰っている。
「は、はじめまして……。部長の初瀬、です」
緊張した面持ちで、体をすくませながら自己紹介をするほとり。
「副部長の日宮です。よろしくお願いします」
軽く頭を下げながら俺も名乗る。
よろしくと一色さんは短く応じながら目を閉じ、そして再び開けた目をほとりに向けた。
「俺は倉敷市内でギャラリーカフェを経営している者だ。今回はカフェに展示する写真を依頼するために来させてもらった」
「ギャラリーカフェ……ですか?」
疑問に思ったほとりが眉をひそめながら尋ねる。
「ギャラリーカフェとは、展示された芸術作品などを見てもらいながらお茶ができるカフェのことだ。俺のギャラリーカフェは写真を展示している。フォトギャラリーとカフェが一緒になったものと考えてくれていい」
近年、アートを楽しみながら飲食ができるスペースが一緒になった営業形態を持つ店が増えている。美術館や博物館のような堅苦しく物静かな雰囲気ではなく、お茶を飲みながらゆるりと楽しく雑談できる雰囲気が人気となっている。
一色さんはジャケットの胸ポケットから黒い名刺入れを取り出すと、一枚の名刺を俺たちの前に置いた。名刺には一色さんの名前と、ギャラリーカフェツバメというスタイリッシュなロゴ、お店の住所や電話番号が記載されていた。
「い、一色さんはこの写真部のOBなんですよね? 何年くらい前のことなんですか?」
おずおずといった様子でほとりが尋ねると、仏頂面のまま一色さんが頷く。
「もう十年近く前のことになる」
不機嫌そうな声に、ほとりがまた体をすくませる。
しかしたぶん、この人は怒っているわけでも苛立っているわけでもない。デフォルトでこういう人だという感じがする。
無機質で淡々とした瞳が、ゆっくりとほとりに向けられる。
「俺のカフェにプロからアマチュアが撮った写真まで、様々な写真を展示している。その展示写真に、OBの縁で瀬戸高写真部の写真を通年展示させてもらっているんだ」
「僕たちが撮った写真を、一色さんのカフェに展示させてもらうということですか?」
「そうだ。写真の種類は問わない。人物でも風景でも動物でもなんでもいい」
一色さんは一度だけ俺に視線を向け、再びほとりへと戻しながら告げる。
「君たちが気に入っている写真を、俺のギャラリーに展示させてほしい」
「私たちが気に入っている写真……ですか?」
「突然で申し訳ないが、できれば今日一枚、部長の君が気に入っている写真をもらいたい」
ほとりがさっと体を強ばらせる。
一色さんが言っていることは、別に無茶なことではない。事前連絡も用件も伝えず突然の来訪。それで何枚か写真がほしいと言われても、選定には時間がかかる。ただ、ジャンル問わず一枚だけなら用意はできる。
「えっとぉ……」
ほとりが一色さんの真っ直ぐな目から逃れるように、俺に目を向ける。
俺は肩をすくめて返してあげることしかできなかった。
いつもなら、俺とほとりが撮った写真の双方からいい写真を提供するのが、現在の写真部の基本である。しかし、とりあえず一枚と言われているこの状況で、部のトップである部長が写真を出さないというのは、なんだか失礼に当たる気がする。
俺の意図を読み取ったのか、ほとりは緊張したままではあったが小さく頷いた。
「わ、わかりました。ご希望に添えるかはわかりませんが、写真を一枚用意させていただきます」
ほとりは失礼しますと断りを入れて席を立ち、アルバムを納めた戸棚へと歩いて行く。とはいえすぐにぱっと見つかるわけもなく、後ろでアルバムをぱらぱらとめくりめぼしい写真を探している。
一色さんは俺に特に興味を示す様子もなく、懐かしそうに部室へと視線を流している。
黙っていると写真を選ぶほとりが余計な緊張をしそうだったので、俺は口を開いた。
「一色さんは写真部のOBということですけど、今も写真は撮られるんですか?」
「ん? ああ、そうだな。仕事の合間には写真を撮るぞ。カフェに写真を飾っているのに、店主が撮らないのは格好が付かないからな」
冗談めかして言いながら、一色さんの視線が俺に向かう。
「君はどんな写真を撮るんだ?」
「撮る写真はいろいろですけど、多いのは風景写真とかですかね。どうも人にカメラを向けるのは苦手で。人物写真は、よく写真撮影を頼まれるので、そのときに自分のカメラで撮らせてもらってるくらいですね」
自分で言ってて情けない。普段なら人に言うことではないが、相手が写真部のOBであることで自然と口から出てきた。
すると一色さんの目が、わずかに疑問に揺れた。
少しばかり首を傾げ、視線が俺から外れる。
「えっと……どうかされましたか?」
「ん? ああ、いやすまない。ただ……」
しばしの逡巡のあと、一色さんの口元が緩んだ。
「……ああ、お前がそうか」
聞き取れないくらい小さな声で、そう呟いた気がした。
そのまま黙ってしまったので、再び沈黙が訪れる前に話題を変える。
「すいません。いつもはお茶やお菓子を出せるんですけど、まだ出てきていない部員がいるもので」
言葉を向けた俺に、一色さんの目がわずかに緩んだ。
「部員は全員で四人だったか。再発足直後にしてはよく集まっているな。全員写真を撮るのか?」
「恥ずかしながら残りの二人は基本的に撮っていませんね」
口にしたあとで問題だったかと思ったが、一色さんは気を悪くすることもなく楽しげに笑みをこぼした。
「なるほど、その二人がお茶やお菓子を用意するわけか。俺が部員のころもよくコーヒーを淹れていた。写真部といっても、写真を撮りに行かない日や依頼がない日は、これといってやることもないからな。コーヒーが苦手なやつにうんと苦いコーヒーを淹れたり、写真にコーヒーをこぼして大騒ぎをしたりな」
鋭く重い雰囲気を持つ容貌とは対称的に、一色さんは楽しげに、そして懐かしげに思い出を紡ぐ。その黒い目に一瞬、一抹の寂しさのようなものが滲んだ。本人に自覚はないようだが、踏み込みにくい雰囲気に俺は次の言葉を口にできなかった。
「よし……」
背後でほとりが小さく呟き、そして分厚い一冊のアルバムを手に戻ってきた。
一色さんにその写真を見せる前に、再びアルバムの一ページを開き、確認している。
A4より少し小さい六つ切りの写真用紙に印刷されたそれは、俺も知っている写真だった。瀬戸高ヨット部に写真撮影を頼まれた際に撮った一枚だ。部の紹介ページに載せる写真を、との撮影依頼だったが、この写真自体は依頼とは関係ない。休憩時間に海辺ではしゃぐ女子生徒たちをほとりが何気なく撮った写真だ。太陽の光を受けてきらきらと輝く海を背景に、ブレザー姿に裸足の女子生徒たちが、海際の浜辺で遊んでいる姿が微笑ましい。ヨット部への写真提供時についでに見つかり、部員達からほしいほしいとせがまれていた。
いい写真だと、俺も思った。一目見ただけで楽しく暖かな気持ちになる、そんな写真。
ほとりは重たいアルバムを胸に抱え、一度深呼吸をして、アルバムを机の上に置く。
緊張した面持ちで、それでいて不安げに。
「こ、この写真、いい写真だと思うんですけど、いかがでしょうか……」
ほとりの写真が、広げられる。
「――――」
その瞬間、部屋の空気が一瞬にして凍り付いた。
先ほどまでどこか和んでいた一色さんの視線が、氷の刃のように鋭く、刀のように重くほとりに向けられる。
「……っ」
ほとりは体をすくませ、その拍子にアルバムに書けていた指が外れて、机の上に倒れた。
気に障ったことでもあったのか、しかしなにかを言うわけではない。
ゆっくりと、一色さんの視線がアルバムの開かれた写真へと落ちた。すっと目が細められる。
「……写真部のレベルも、ずいぶん落ちたものだな」
写真部のことを懐かしんでいた人と同じとは思えないほど、冷や冷やとした言葉。
「こんな写真が、青葉の妹が撮ったものが」
突然飛び出したその名前に、俺たちは一様に目を見開く。
「お兄ちゃんのこと……知って……っ」
その問いに答えることはなく、一色さんの視線がアルバムからほとりへと向かう。
「初瀬妹、お前にとって、写真とはなんだ?」
不意に投げられた問いに、ほとりは声を詰まらせ、胸を押さえる。
抽象的な問い。それでいて写真を趣味とする人なら、一度は考えるであろう事柄。
「こんな中身のない写真を、なにを思って撮っている?」
机を指でとんとんと叩かれ、無感情で無機質な瞳にほとりが体をすくませる。
「青葉の写真はこんなものではなかった。なにもこもっていない、空っぽな写真ではな」
一色さんは深々とため息を吐き出し、肩を落として首を振る。
「悪いが、この写真はもらえない。俺のギャラリーには置くことができない写真だ」
なにも言葉を紡げないでいるほとりに、たたみかけるように次々と言葉を投げていく。
「こんな写真しか撮ることができないなら、お前は写真を撮るべきじゃない。青葉を侮辱するだけだ」
口にされた、とてつもなく鋭く重たい刃。
「この写真は、いったいなにを考えて撮った写真だ? ふざけるのも大概にしろ」
冷たい言葉にほとりの瞳が揺れる。
「写真は、ただそのときの景色を切り取り残すものではない。なにを考えてこんな写真を出したのかは知らないが、少なくとも俺は……」
再び写真に目を戻し、悲しそうにかぶりを振った。
「あの青葉の妹のこんな写真を、見たくはなかったよ」
言いながら、一色さんはそっと机に手をついて立ち上がる。
そして、低い位置にあるほとりを見下ろして言う。
「写真を撮ることが辛いなら、嫌ならさっさと写真をやめればいい。人は、写真がなくても生きていける。青葉から教えられた程度で写真を続けているなら、いっそ写真なんてやめてしまえばいい」
「……」
ほとりの視線は、もう一色さんに向けられてはいなかった。
ただ自らが差し出した写真を見下ろして茫然と、虚ろな目を落としていた。
一色さんはもう一度ため息を落とすと、真っ直ぐ扉の方へと歩いて行く。
「突然すまなかったな。失礼する」
そう言い残し、一色さんは写真部から去っていった。
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