2限目 縄跳び

 次の授業は体育だった。


「じゃあ二人組作って〜」


 その言葉を聞くと、途端に嫌な気持ちになる。何で適当に決めてくれないんだといつも思う。教師は良かれと思ってやっているのだろうけど余った側は地獄でしかない。もし他に余った人がいなかったら一人でやるか、最悪の場合は他のペアの中に入らせて貰わなければならないのだ。当然僕は余るので、他に余っている人がいないか探す。

 すると、やはり夜桜雅が一人、体育館の真ん中で佇んでいた。


「いっしょにペア組まない?」


 すると彼女は決まり文句の様に言う。


「別にいいわ。独りでできるから」


 もう何度この会話をしたか分からない。高校2年生になって、夜桜と同じクラスになってから、もうずっとこのやり取りをしている。この学校、共栄高校は何かとペアやらグループを作らされることが多い。その理由は、この学校の方針にある。

 共栄高校の学校方針は「有効な友達関係を作ろう」だ。そのため男女で体育をいっしょにやるし、授業も何かとペアにさせられることが多いのだ。

 何故そんな高校に入学したんだ、と思っただろう。そんなこと僕が一番聞きたい。あの頃の僕はこの高校に入れば、漫画やラノベなどの青春を送れると思っていた。けど実際入学すると、彼女はおろか友達すら出来ないとは思わなかった。

 そうこうしている内に体育の授業が始まった。今回の授業は縄跳びだった。交互に技を見せ合っていくものだった。まず、最初に僕が跳んだ。それを夜桜が物珍しそうに見ていた。


「そんなに僕が跳べてるとこが珍しいのか?」

「ええ。あなたみたいな運動の『う』の字も無いような人が跳べるなんて思わなかったわ」

「言い過ぎだ」


 そんな僕の言葉は無視して次に夜桜が跳ぶ。綺麗だった。彼女のフォームはとても美しく見とれてしまった。ただの前跳びなのにここまで絵になるのは夜桜くらいだろう。彼女の長い黒髪が風に靡かれ、彼女の凛とした姿がより一層際立つ。

 その時​──彼女の体操着がふわりと浮き、彼女の腹部がちらりと見えた。咄嗟に彼女は体操着を手で押さえ、腹部を隠した。


「見た?」


 彼女の恥じらいと怒りが混じった声が聞こえてきた。


「見たけど」

「っ〜〜〜!?!?」

 

 彼女の声にならない声が体育館に響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る