ハラさん

14時30分、交番まで歌を歌いながらチャリを漕ぐ。


"早く元気出して あの笑顔を見せて"


「うたうま~い!」


学校帰りの低学年のガキたちに拍手されてちょっと照れた。


そりゃあ、プロを目指してたからな……アレがなけりゃ。


なんて、口が裂けても言わんけど。



 「道草食わねぇで、ちゃんと帰ろよ!」


俺なりに柔らかい微笑みを浮かべ、頭を撫でていくと素直に返事をしてくれるガキたち。


「変な人にはついていっちゃあかんで?」


「……おにいさんはヘンなひとじゃないの?」


丸刈りでふくよかな悪ガキがニヤニヤして言う。


「なんだとこのやろう!!」


俺は危なくない程度にそいつを全力で追いかけた。


びっくりして逃げるそいつに周りは明るく笑い転げる……今日も幸せやわ。


でも、子どもたちに悪さをする奴らはたくさんいるから、本気で守らんとな。



 交番に着いてガキたちに別れを告げてから自転車を止め、中に入る。


「お疲れ様です、何かありましたか?」


警帽を脱いで原西さん……ハラさんに声を掛けると、おおと渋い声で言って優しい微笑みを俺に向けてきた。


「大丈夫、今日もここは平和やで」


目元をクシャッとしてメガネの奥まで穏やかさが滲み出る定年間近の大先輩を見て、この人のおかげでこの町が平和なんだと思わされる。


「良かったです、巡回も問題ありませんでした」


「高齢者、変わりなかったか?」


「相変わらずパワフルなんで、元気いただきました」」


テンポよくやり取りしながら自分の机につく俺。


「ワシもまだまだな気がしてるんやが……お前の若さには勝てへんで」


「そう言ってくれるのはハラさんだけです、小学生みたらあきませんわ」


俺は制帽を深く被り直した後に記録簿を開き、さっきまでのことを書いていく。



 「早坂……闇の執行人って知ってるか?」


渋るような声色で言うハラさんに違和感を覚えながらも俺は書くのを止めずに答える。


「初めて聞きましたわ、クロサギかなんかですか?」


「法で裁けない犯罪者を一発で仕留める、いわゆる現代の必殺仕事人らしい」


「犯罪者を殺す犯罪者……自分がヒーローやと勘違いしてそうですね」


俺は呆れたようにため息を吐く。

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