早坂奏大の憂鬱
斎藤遥
仕事という名の休憩
13時10分、一人暮らしの高齢者のお宅の1つ、マキさん家でお茶をいただく。
「ばあちゃん、うまいわ」
ぼんち揚げを食べてからお茶をすする俺……
アカンって思うやろ?
でもな、これだからええんやわ……俺の場合。
「ミックスジュースもあるけど、飲むかい?」
「飲む……ありがとう」
はいよと台所から声を上げるマキさんの背中は見るたびに小さくなっていくように感じる。
77歳やから、喜寿か。
よう介護受けずに1人でやっとるわ。
俺が来とることでボケ防止になってたらええけど。
「お巡りさんやのに、ほんまの孫に思てまうわ」
ゆっくりと歩いてきて、手を震わせながら俺の前にミックスジュースを入れたコップを置いて座るマキさん。
「ひろくんやったっけ? 最近会うてへんの?」
早速、ミックスジュースを飲む俺の言葉を聞いてマキさんは遠い目をする。
「埼玉やからねぇ、就職したのは聞いたんやけどなぁ」
淋しそうにため息をついてお茶を飲むマキさんに優しく微笑む。
「会いたなったら、ちゃんと電話してお話せなあかんで? もちろん、息子さんとも……な?」
特殊詐欺は高齢者の心のスキマをつく悪い奴らやねん。
ほんまの子供と少しでも会話するだけで防げるんやわ。
「そうやね、ありがとう……心配してくれるのは、あんたくらいやわ」
もっと食べぇと泣きそうに笑うマキさんの手を俺は握る。
皺くちゃの手は俺の図り知れんくらいの苦労してきたのを物語っとる。
特殊詐欺はそれを馬鹿にして、金も人生も奪い取るんや。
「俺でこんなに心配なら、ほんまの家族はもっと心配してんねんで」
ばあちゃんと強く言って真剣に見つめると、目を見開いたマキさん。
「ありがとう、ありがとうなぁ」
皺を目元と口元に寄せて微笑み、強く握り返してくれたマキさんを俺は守りたいと心から思った。
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