第25話 鋼鉄の意志-崩れゆく足場

1956年11月5日


基地が被害を受けた。


管制塔はすぐにスクランブル発進を進めた。

人員をフル活用してレーダーや上空からの偵察を駆使してまで相手を見つけようとしたが敵機の音すら聞こえない。


基地の調査団が被害を受けた弾薬庫へと向かうと直径70m・深さ10m以上の爆心地が存在していた。


調査団が調査を終えると基地内すべてのパイロットに出撃命令が下された。


「パイロットの皆、よく聞いてくれ!」


声の主はサックネス・ウィルキンソンだった。


立案者が直々に放送をかけるのだから恐らく作戦が開始する事を告げるのだろう。


そんな事を思いながらラニーニャは放送に耳を傾けた。


「先程基地の弾薬庫に攻撃を受けた。幸い多くの弾薬は本国に送られ研究に使用されている。あの爆発の威力は本国の精鋭である君たちなら察しているはずだ。そうだ、敵要塞に鎮座している巨大対空砲による攻撃だ。彼らは我々より先に攻撃を仕掛けた。ならば我々は逃げ隠れせずに今から相手をもてなしてやろうじゃないか!君たちに最後の任務を言い渡す。」


「敵要塞を攻略せよ。そして、"生きて帰ってこい"!以上だ。全機、出撃!」


出撃命令が出された瞬間、基地内全てのパイロットが一斉に機体に乗り込んだ。


滑走路はすぐに満杯になり、待ちきれないパイロット達は舗装が十分にされていない芝生の上を通り離陸していった。


ウォーソード隊も同じく順番を待つ事が出来ずに新しく手渡されたFXS-02の優秀な加速力を活かし、数秒で離陸していった。


11月5日 21:44


夜になるまで敵要塞上空で給油を数度行いながら待機した。


夜になるとAWACSから作戦開始の指示が降りた。


作戦通り、ウォーソード中隊は要塞東側にいるであろう敵待ち伏せ部隊を炙り出すために攻撃を開始した。


しかし、おかしい。


確かに敵待ち伏せ部隊は存在したが思ったより数が少ない。


ラニーニャは中隊員の矢嶋とハイヤーを別々の方向から敵の陸上部隊がいないかの確認を任せた。


2人が探している間にウォーソード中隊はすぐに要塞西側に居た敵待ち伏せ部隊に攻撃をかける。

味方の陸上部隊は上手くタイミングを見計らい徐々に要塞との差を縮めて言った。

だが、要塞まであと一歩という所で先行部隊が全滅したという情報がAWACSを経由して報告された。


全滅したという要塞北入口付近を観察すると、そこから大量の敵陸上部隊が溢れだしてきた。


それを見ていたディビレットは「まるでアリみたいだな…」と言い捨てた。


味方の3中隊ほどAWACSの指示により北入口から溢れ出る敵部隊の殲滅を命じられた。


他の味方中隊はどこからともなく攻撃を仕掛けてくる敵戦闘機と交戦することで手一杯になっていた。


ウォーソード中隊も同じ状況に追い込まれていた。

カイル隊の後を引き継ぐはずだった実力あるパイロットが寄ってたかって一機でも撃墜しようと必死にドッグファイトを仕掛けてきた。


だが、「一機でも落とせればいい」という甘え考えを持つ敵パイロットに対し、隊員達は容赦なく彼らを落としていった。



22:00


上空で戦い続けているといつの間にか的航空機の数が少なくなっていた。


空に残っていたのは半人前のパイロット達。


ウォーソード隊は彼らを無視して要塞の丁度真上で待機した。


10分ほどすると北入口から味方の陸上部隊が滝のように流れ込み、要塞内を攻略していった。


23:28


AWACSから通信が来た。


「こちらAWACS・ジャンバール、要塞天井付近の扉が開く。そこから要塞地下内の大量破壊兵器「V-LOST」の発射台及びコントロールルームを破壊せよ。破壊後、直ちに上空へ待避せよ。」


"V-LOST…?"


疑問を浮かべるラニーニャだが、扉が開いたのを確認した瞬間に機首を扉の方へ向け、長い縦穴へ潜り込んだ。


高度計はいつの間にかマイナスを指し示すようになり、最下層に着く頃には-3800m前後を指し示していた。


入ってきた隊員から発射台を破壊し始め、4つあるコントロールルームを徐々に破壊していった。


コントロールルームの破壊完了をAWACSに報告したとき謎の轟音が建物内に響いた。


「AWACS・ジャンバールからウォーソード隊へ。今新たな扉が開くのを確認した。その場所から貨物列車用トンネルを潜り、ミサイルサイロへ迎え。発射されるまで後2分だ!急げ!」


これは予想外だった。


まさか他にもミサイルサイロがあったなんて。


隊員達は素早く1、2、3番の貨物列車用トンネルへ入り、狭い中で機体を擦らないように必死に操縦桿を握った。


トンネルから出るとそこには数十本ものV-LOSTがあった。


綺麗に並べられていたV-LOSTをバルカン砲で破壊していった。


残り50秒あればすべてのミサイルを破壊することができると思っていた彼らだったが、突然残り時間が縮んだ。


「AWACS・ジャンバールからウォーソード隊へ。残り時間が30秒を切った。急げ!このままでは本国へ飛ばされてしまう!」


「了解っ!」という隊員たちの声は苦しく聞こえた。


残り10秒。


後5本のミサイルを破壊すれば…


7秒…後3本


4秒…あと2本


徐々に数を減らしていき、残り1秒の所で最後のミサイルを破壊することに成功した。


最後のミサイルを破壊したと同時に天井に穴が開き、上空へ繋がる巨大な縦穴が出来上がった。


上空に待機していたパイロットやAWACSは「やっと戦争が終わったんだ」と安心するものや、涙する者も居た。


だが現実は違った。


突然装甲空母セイニャールから連絡が入った。


「こちら装甲空母セイニャール。今レーダーに1発のV-LOSTが写りこみました。向かう先は……首相の屋敷です!」


セイニャールからの報告を耳にしたパイロット達は喜ぶのを辞めた。


ラニーニャ達が必死に守ろうとした愛すべきラディシュマナの国民や街が失われる…


これまでの努力が一瞬にして足から崩れ落ちていくようにラニーニャは感じた。


その時ラニーニャに痛みが走る。


「ううっ…っつ!ああっ…あっ!」


右腕・左肺・左太腿・右足に激痛が走る。


まるで高圧電流を受けているような感覚だった。


ラニーニャの叫び声を無線越しに聞いていた隊員たちはラニーニャに呼びかけた。


しかし声は届かず、痛みは徐々に強さを増す一方だった。


しばらくするとラニーニャは目を閉じたあと、気絶してしまった。



気絶したラニーニャの脳内にははるか前に交通事故で無くしたはずの母親が写っていた。


「母さん…なんで向こうに行っちゃうのさ!」


母を引き留めようとラニーニャはその場から動こうとするが、コンクリートで下半身を固められたように一切身動きが取れなかった。

必死にもがき、引き留めようとするが母親は暗闇に混じり消えていった。


その時、ラニーニャが生まれ育った国の事を思い出した。


「そうだ…私はここで生まれ育ったんだ…。懐かしいなぁ…。」


ラニーニャは過去を振り返り、懐かしんだ。


そして


「私が生まれ育った国が無くなるなんて…嫌だっ…!!」


ラニーニャは涙した。

隊員達にも見せたことない本物の涙を幻想の中で流した。


ごぼした涙が重力に反し、ラニーニャの前に人型となって現れた。


その人は言う。


「貴方は強く在りたいか」


ラニーニャは答える。


「私は強くなければならない!」


その人は言う。


「鋼の意思を継ぐものは貴方だけだ」


ラニーニャは答える。


「貴方の意志を継げるのは私以外にいない。」


なぜなら


「「私の涙は貴方の意志!貴方の意志は私の涙!全てを守る為に共に歩もう!」」



いつの間にかラニーニャは目を覚ましていた。


目を覚ましたラニーニャの両目は黄色く燃えたぎるように輝きを放ち出した。


ラニーニャは"これは自分に決められていた能力なんだ"と気づき、能力をフル解放した。


「ハンヴェラ・ラニーニャ/ウルシオス、いきますっ!」


能力を解放したラニーニャは機体に装備されていたミサイルをハッキングし、自分の意のままに操れるように書き換えた。


そしてトリガーを引きミサイルをV-LOSTへと撃ち込んだ。


放たれたミサイルは元の50倍以上の速さで空を駆け抜けていった。


V-LOSTはスーダン上空に差し掛かり、弾頭の切り離し準備も出来ていた。


本国着弾まであと5分。


弾頭を切り離し、弾頭につけられていた補助ロケットでさらにスピードを上げた。


これにより時間はさらになくなり、


あと3分。


弾頭の後ろから黄色く燃えたぎるようサジタリウスの矢の如く素早く向かってくる。


残り1分の時。


ミサイルは弾頭に直撃し、本国の首都である"超越性自己完結型城塞結晶都市アヴァンジュル"約1500m上空で大爆発を引き起こした。


ミサイルを当て、国の崩壊を防いだラニーニャはひとまず安心し、途中給油を挟みながら隊員と一緒に本国へと帰還した。

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