第24話 城塞 作戦会議

待機所から冷気が漂う廊下へ勢いよく飛び出し、向かって左側へと走り出した。


突き当たりを右に曲がり階段を上る。


ラニーニャとウェンズが3階に登るとそこにはウォーソード中隊の中隊員である"サルデニャ・グルコホース"と"ゼッペン・ハイヤー"、"アブラハム・グスコーニュ"の3人が立ち話をしていた。


グルコホースは階段を駆け上がる彼らを見て「おーい中隊長!朝から元気だなぁ!」と言い放った。


しっかりその言葉を聞き取ったラニーニャは「そんな事も無いよ…」と少し息を荒くして言った。


ラニーニャとウェンズは3階の踊り場で勢いを殺し、彼らの元へゆっくりと歩み寄った。


「ははっ、そうかよ!で、どうしたんだ?」

朝から元気なハリのある声を出すグルコホースはラニーニャに取って少しうざったい感じがした。


しかし今はそんなことよりも重要な事があるのだ。


ラニーニャは3人に食堂で"アレをするぞ"とだけいい、着いてこさせた。


中隊員が5人集まり、後は"弥島 英輝"と"ディビィレット・サルターノ・ジェロータ"の2人だけとなった。


初めからフルメンバーで"アレ"をするつもりはなかったが、いるなら参加してもらうに越したことはない。


残りの2人を見つけるため、時計型送受信機"カタスフィア"から2人に

「今すぐ6棟3階12号室に隣接している食堂へ来い。」とメールを送信した。


ラニーニャ一行は今いる4棟3階4番廊下から目的地である6棟3階12号室に隣接している食堂へと向かった。


5分程、隊員達と駄弁っていると5棟3階1番廊下で弥島とディビレットと合流した。


そしてそのまま6棟3階にある食堂の自動扉前で止まった。


そういえばこの棟に来てから空気が暖かくなったように感じるとウェンズは思っていた。


着いて来た5人は何をするのかも分からないため黙ってたっていた。

だが弥島はこれから何をするのか気になり、ラニーニャに質問した。


するとラニーニャは答えた。


「前回カイル隊に撃墜された時は死ぬかと思ったけど今はウォーソード中隊として生きている。でも今回は違う。」


皆、息を飲んだ。


ラニーニャは続けた。


「次の作戦は恐らく敵の本拠地を叩くことになると思う。敵地だぞ?生半可な気持ちで望めば必ず死ぬんだ!いくら私達がラディシュマナ国内で最強のパイロットだとしても、パイロットの前に私達は生きとし生ける生命なんだ。だがら…死ぬ時は本当に死ぬんだ…」


話が長くなるに連れてラニーニャの声により感情がこもり始める。

若くして中隊長となったラニーニャは責任を感じているのだ。


「お前たちを…お前たちをここで死なせたら、家族を悲しませる事になるんだ。だがら…」


言葉を続けようとしたラニーニャに対し1人、声を出した。


「確かに…でも良いんですよ。ラニーニャさん」


「…弥島さん…」


「ラニーニャさん。貴方が責任を感じる事なんてないんですよ」


弥島の言葉に皆頷き、ハイヤーも言葉を述べた。


「死ぬ死なないの問題じゃないんだ。生きて帰ってこれるかが重要なんだ!ここまで生き抜いてこれたのは中隊長!アンタのおかげなんだよ!」


ハイヤーの言葉にラニーニャは"ハイヤーそこまで・・・"と言葉を漏らした。


「だからラニーニャ!俺たちがお前を守る!だからアンタも俺たちを最後まで守ってくれ!」


ハイヤーの言葉で混乱していたラニーニャの脳内が整理された。


ラニーニャは皆にありがとうとだけ言い、忘れかけていたことを口に出した。


「今日ここに来たのは作戦前のちょっとした食事会を開こうと思ったからです!!」


先ほどまで包んでいた重い雰囲気が一瞬で吹き飛んだ。

部屋を包む暗闇に太陽光が差してきたみたいだった。

ついて来いと言わんばかりの手振りをみて全員自動ドアの向こうにある食堂へと入っていった。


食堂には多くのモダンなテーブルとイスが用意されており、奥の方にはピアノが2台置かれていた。

壁には「TA国に勝利あれ!」とかかれたポスターや「RAなど恐れる必要などない!」などと、敗戦まで秒読みのTSポスター如きがウォーソード隊に殺意を向けていた。


ラニーニャはピアノ近くを席にして皆もそれぞれ座った。

ラニーニャは右手側にあるメニュー表を手に取り、皆の注文を聞き入れ、受取窓口までディビレットを連れてむかった。


テーブルに持ち込まれたのはボボディー・ポイキ・パップなどの美味しそうな料理たちであった。


ボボディーは、ミンチ肉にナツメグ、ターメリック、シナモンなどのスパイスを加え混ぜてアーモンドと卵黄をかけてオーブンで焼いたもので、南アフリカ共和国時代の伝統料理だったものだ。

ポイキは小鍋に肉や野菜が煮込まれた本来は屋外で調理する料理である。それについてくるように置かれたパップはトウモロコシを乾燥させた粉で作るもので、この地域では主食として愛されたものだ。


この基地が元々TS国の物だったことや南アフリカ共和国の近くであることを踏まえて考えると、食堂に簡単に出てくるのは納得できる。

出てきた品を隊員たちは手を合わせて「イタルタマス!(いただきます!)」といい食べ始めた。


隊員達の話し声やちょっとした金属音にピアノから奏でられる音色などなど、食堂は急に賑やかになった。


それから10分ほど経つと自動ドアが動くような音が小さくだが聞こえた。

ラニーニャは他に誰かを呼んだかと仲間に聞いてみるが皆知らないと言う。


少し待っていると奥から人影が見えた。


人影を見る限り女性のようだ。

160cmでスリムな体型のように見える。


少し観察しているとその人影は瞬きする間に消えていった。


しかしそれも束の間の事であった。


ラニーニャは股の方に視線を感じたのだ。


試しにテーブルの下を覗いてみるとそこには人がいた。


ラニーニャは驚き、"うわっ!誰っ?!"反射的に発した。


するとテーブル下にいた人は一瞬でラニーニャの隣に立ち、答えた。


「私はラディシュマナ・アバンサー国、国軍大臣兼、陸海空を統べる者。だいこんおろし総理の4女"こんにゃくおろし"だ。皆、久しぶりっ!」


予想外の来客にラニーニャだけでなく、隊員達も驚いた。


こんにゃくおろしは驚いた様子を見せる 教え子達を落ち着かせるために話を続けた。


「本国にいるはずの私がなんでここにいるか気になるよね?」


皆、軽く頷きこんにゃくおろしはまた話し始めた。


「ウォーソードの皆がきゅうりおろしから支給されたFXS-01があると思うんだけど、今日はFXS-01を回収しに来たの。それと同時にこれまでの戦闘データを元に改良されたFXS-02を渡しに来たのよ!」


なるほどといった顔をみてこんにゃくおろしはまだ話を続ける。


敵地偵察の為に短期間で隊員を育成しなければいけなかった事や国内のデモ隊を鎮圧させる部隊を指揮しなければいけなかったりと、彼女自身が体験した事を次々と話していく。


こんにゃくおろしの話を聞いていると1つ思い出し、彼女の話を止めに入った。


こんにゃくおろしに"この後重要な作戦会議があるので"と言うと


「せっかく久しぶりに会えたのにね~」と少し落ち込む様子が見て取れた。


会議開始まで残り30分と言ったところでラニーニャはこんにゃくおろしに"今日お話が出来て良かったです!"とだけいい、隊員たちを連れて会議ホールまで向かった。


1956年10月28日 9:25


5分前に第3格納庫の地下一階第2会議ホールに到着した。


自動ドアをくぐると装甲空母セイニャールで顔を合わせた中隊や本国から来たであろう中隊がこの大きな会議ホールの椅子に腰掛けていた。


9:31


30分になり1分とちょっと経ったところで作戦立案者が壇上に姿を表した。


左手には20枚以上の束ねられた紙を持ち、右手には革で作られたカバンを下げていた。


壇上にある木で作られた高そうな机の前に来ると彼は用紙とカバンを上に置き、予め置かれていたマイクを右手に話はし始めた。


「予定通りにここに来ていただいて、本当にありがとうございます。ここに皆さんを呼んだのは他でもないこの私、作戦立案者である"サックネス・ウィルキンソン"です。サックネスと呼んでください。」


サックネス・ウィルキンソンと名前を聞いたウェンズは思い出したようにラニーニャに話した。


「ラニーニャ、あのサックネスという名を知りませんか?」


知らないと答えるラニーニャにウェンズはサックネスに着いて話した。


「彼は本国で最重要作戦を何度も任され、彼が立案した作戦は絶対に失敗する事は無いと言われています。作戦に参加した兵士の生還立と兵器の現存率は94.3%と歴代の作戦立案参謀長官の中でトップクラスの実力を持つ人なのです。」


ラニーニャはそれを聞き、それがどうしたんだ?と聞き返した。


ウェンズは答えた。


「彼は15歳の時に両親を亡くしたディビレットを引き取った育て親なんですよ。」


知らなかったと言わんばかりの顔をするラニーニャを見てウェンズは少し笑った。


ラニーニャはそうだったんだ…といってウェンズに聞いた。


「ディビレットからは軍人に引き取られて育ててもらったと聞いていただけで、知らなかったよ。あ、もしかしてディビレットの戦略性が高くて尚且つ生存確率が高いのは彼から学んだからって事なのか?」


「その通りです、ラニーニャ。」


サックネスって人、結構凄い人なんだなぁとラニーニャが感心していると、今回の作戦に着いて話が始まった。


「今回の作戦は我々の運命を左右するものになると思ってくれ。」


彼は続けて言った。


本作戦名は"円環の告死城"である、と。


彼は作戦内容をこのようにした。


先に突入させた地上部隊を要塞の中に侵入させる為にまず上空で敵地上部隊を殲滅する。

彼の見立てだと要塞の西と東で待ち伏せさせているとの事で、ウォーソード中隊を先頭にまず東側の待ち伏せ部隊から攻撃を仕掛ける。

東側の待ち伏せ部隊の殲滅が確認出来ればそのまま西側の待ち伏せ部隊へ攻撃を仕掛けろとの事。

しかし要塞周りの巨大対空砲が攻撃の邪魔になるのが目に見えて分かるので、地上部隊の殲滅の流れの中で1基づつ確実に砲撃不能にしてもらう事が重要になる。

1基でも砲撃不能に出来なかった場合は即座に退避し、目標が砲撃したことを確認後に再度攻撃を仕掛ける事がベストだ。


対空砲全てを撃破出来た時には味方地上部隊が要塞内で交戦しているはずなので、彼らから何か指示があるまで上空待機となる。


「…これが本作戦の内容になる。決行日に着いては後日報告する。では会議はこれで終了することにする。解散。」


会議は2時間に渡り続いていた。


聞き疲れた隊員たちは休憩所に向かって歩き始めた。

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