第23話 Ring des Todesschlosses 円環の告死城
カイル隊を落としたあの日から随分時間が経ち10月も終わりを迎えようとしていた。
1956年10月28日
雪が降り始めた。
TS国の国境線まで進行したRA陸軍はそこに防衛陣地を築き、その防衛陣地の数キロ後ろには程々の大きさを持った航空基地が存在していた。
滑走路には2センチほど雪が積もっていて倉庫に駐車されていたTS国の除雪車両を使って隅々まで丁寧に除雪作業が行われていた。
ふわふわと落ちてくる白い雪の玉が除雪後の滑走路に少しづつ積もり始めていく。
-3℃にもなる今日は吐息が白く見えていた。手や首、頭に防寒着を着用して作業を行う人々が見え、寒そうだなと思いながら基地内の待機所でウォーソード中隊の中隊長"R"こと、"ハンヴェラ・ラニーニャ"はコーヒーを右手にテーブルに1人座っていた。
「あぁ…寒い」
ひとりでに発した言葉が自分に寒さをさらに感じさせ身体を震わせた。
右手を動かしコーヒーを口に少しづつ流し込んだ。
テーブル上には装甲空母セイニャールに同乗していた他の中隊員から受け取ったクッキーやチョコレートなどの菓子が多く散りばめられていた。
ラニーニャは右手に持っていたコーヒーを1度テーブルに置いて、散りばめられていた菓子山から長方形の箱に入れられた12枚入のチョコクッキーを自分に取り寄せた。
箱を回し、端が黄色く塗られた開け口に指を引っ掛けて「ビビビビビビ」と音を立てながら箱を開封した。
中にはプラスチックの袋に詰められたクッキーが並べられておりそこから1枚無造作に手に取った。
手に取ったクッキーを食べるために袋を開けようとした時、廊下からバタバタと走る音が聞こえてきた。
ラニーニャは廊下が気になり手に持っていたクッキーをコーヒーの近くに置いておき、廊下に出るために扉を開けた。
左右を確認した時、右に数十名の隊員達が室内訓練をしている様子が見て取れた。
朝からよく動くね…などとため息混じりにそう言うと後ろから「ラニーニャさん、ここ居たんですね」と男性の声が聞こえた。
後ろを振り返るとそこにはラニーニャと同じ部隊に所属している"ウェンズ・ディレクティブ・ガルタージョ"がたっていた。
彼は180cm以上ある為、後ろを振り返った時ラニーニャは少し驚いた。
「ウェンズか。こんな寒い時間帯にどうしたんだ?」
今は朝の5時13分だぞ?と言いながらウェンズと一緒に待機所に入った。
ラニーニャはウェンズをラニーニャが座っていた席の前に案内し、先程開けたクッキーの箱からまた1枚取り出しウェンズに手渡した。
「寒いだろうからコーヒー持ってくるね。ミルクとかいる?」とラニーニャは質問しウェンズは「ミルクは結構です。代わりに角砂糖を3つほど入れて貰えればと…」
ウェンズの回答に「はいよぉ~」と気の抜けた返事をし、鼻歌を歌いながら機嫌よくコーヒーに角砂糖を3つ入れてウェンズの目の前に置いた。
ウェンズは"ラニーニャさんは何年経っても変わりませんね"と少し笑いながら言い、ラニーニャもアハハと笑い"人間じゃないからねぇ~"と返した。
ラニーニャはコーヒーの横に置いていたクッキーを袋から取り出して、クッキーを先に1口食べた後にコーヒーを口に入れた。
口の中の物を飲み込んだ後でラニーニャは話を切り出した。
「なぁウェンズ。アイツら、カイル隊の隊員達があの後どうなったか知らないか?」
ウェンズは口に入れたクッキーを飲み込んでから話し始めた。
「知ってますよ。今日は彼らカイル隊の事も話そうかなと思って来たんですよ。」
ウェンズは最初からその事について話すつもりだったらしい。でも少し今の文に疑問を持ったのですぐにウェンズに
「なんだ?もう1つあるのか?」
と、聞いてみた。
すると直ぐに「ありますよ。」と答えた。
そしてその言葉に続いて「でももう1つの話の方はカイル隊の話が終わってからです!」と言われてしまった。
"はいはい分かりましたよ"とラニーニャは呆れ気味に言い、ウェンズは構わずカイル隊について話し始めた。
「では、カイル隊について話していきます。分からないことがあれば質問してくださいね。」
はい、と返事をしたラニーニャを確認した時ウェンズは続けて話した。
「カイル隊の隊員はセイニャールがルアンダ沖に停泊した際にヘリを4機と護衛機4機の体制で1度コンゴにあるRA陸軍の仮拠点へと移送しました。そしてコンゴから護送車でスーダンにあるRA空軍第4基地で護送用に改修を行った旅客機を使用し本国の"D-191"という刑務所に収容されています。」
ここまでで何か質問は?と言いたげな顔をするウェンズに対してラニーニャは質問をした。
「D-191刑務所って確か34年前に廃獄になったあと"国内で最も厳重な刑務所No.1"として生まれ変わったんだっけ。あそこの何階にいるの?」
ラニーニャの質問を聞いたウェンズは"言い忘れていたよ。"と言い、「地下31階。最下層だよ」と答えた。
ラニーニャは答えを聞いて納得した。
「そうそう!ウェンズ、もう1つの話はなんなんだ?」
食い気味にラニーニャは聞いてみた。
するとウェンズはこう言った。
「敵本拠地を見つけた」
その瞬間、この空間が冷たく感じた。
微妙に働く暖房機の稼働音と室外の隊員達の掛け声だけとなった。
ラニーニャはゆっくりと深呼吸を行い、姿勢を正して座り直した。
ラニーニャはウェンズに"続けて"とだけ言い、ウェンズの報告を待った。
ウェンズは敵の本拠地について話し出した。
「南アフリカ共和国がTS国によって占領されてしまう前の地域で報告します。TS国は南アフリカ共和国で言う"グラハムストーン"という場所に"Ring des Todesschlosses 《円環の告死城》" という名の要塞を配置しています。要塞周辺には15m級の超巨大対空砲が均等に12基円形に配置されていています。射程が30km以上あるとの噂もあるので注意ですね。」
ラニーニャは大事な情報をくれたウェンズに一言御礼をした。
すると左手首につけていた腕時計型送受信機"カタスフィア"にメールが来た。
なんだろうと思いラニーニャはメールを開いた。
メールにはこう書かれていた。
「午前9:30に緊急会議を行う。場所は第3格納庫・地下1階第2会議ホールだ。」
メールを見たラニーニャはウェンズに目を向けた。
どうやらウェンズにもメールが来ていたらしく、目を合わせたラニーニャが言いたいことを理解したようだ。
ラニーニャとウェンズの2人はすぐさま食堂へと向かった。
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