第22話 アセンション島 攻防戦

"見せてもらおうか、亡霊"


そう言ったのはカイル中隊1番機のハンネス・ゼクトールだった。


「まさかお前らが亡霊となって現世に舞い戻ってくるとはなぁ…よっぽど祖国が好きみたいだな」


無線越しにゼクトールは元タリバリン中隊員に言う。


「祖国を護るのが私たちの使命なんでねぇ、お前達がいる限り死ぬに死ねないのよ!」


Rもといラニーニャはゼクトールに返答した。


ゼクトールはRの返答を聞いて乾いた笑いを響かせた。そうか、そうに違いねぇーなと言いながら。


そう言い放った後、ゼクトールはアセンション島にいる全ての機体に無線を繋ぎ、言葉を告げた。


「貴様らぁ…よぉく聞け!」


「俺たちカイル中隊を狩り尽くしてみろ!」


「出来なければ俺たちはこのままお前らの祖国を破壊しに行く!」


「これは最終決戦だ!全力でこい!」


彼から告げられた言葉の意味は考えるまでも無い。


彼らをここで撃墜する事が出来ればTS国へ大規模攻撃を仕掛けることが出来る。


誰もがそう思っていた。


だが違った。


カイル中隊が向かってきた方向から飛行大隊が向かってきているのが見えたのだ。


つまり、敵の援軍だ。


敵も敵でこれ以上進ませる訳には行かないと言う事だろう。


アセンション島は両国にとって最重要拠点になり得る場所の1つである事を理解しているのだろう。


しかし、戦力的に不足しているのは明らかにこちらの方だ。


海上の戦力はそれなりにはあるが、いまここへ支援に来れる飛行隊は無い。


こちらの増援部隊は来ないのだ。


増援が見込めないこの状況で1番頼りになるのは自分の実力と味方艦隊からの火力支援のみだ。


セイニャールから発艦した複数の部隊は敵増援部隊を相手に戦闘をしている。


ウォーソード隊はカイル隊を相手にしながら敵増援部隊を削っている。


しかし相手がカイル隊の為、なかなか敵増援部隊に手をつけさせてくれない。


なんとか隙を見つけて突破しようと考えていても相手もそれを直ぐに察知するので、味方の援護が実質的に不可能な状況になっている。


ウォーソード隊はこの危機的状況下で必勝法を考えていた。


カイル隊を分断して数の差で叩き落とすのも有りではあるが、それでは分断された片側が我らを挟み撃ちの状態に持っていこうとするのが丸わかりなので、却下だ。


いくらきゅうりおろしが作ってくれたFXS-01でも純粋な格闘戦では勝てないのは分かる。


「…ハッ!」


突然Rの脳内に作戦が浮かび上がった。


純粋な格闘戦で勝てないのであれば"速度差"を利用すれば良いじゃないか。


そう、FXS-01は敵国の主力戦闘機SS-24 TALの最高速度2269kmをも超える2721kmを出すことが可能であるのだ。


Rは直ちに隊員に命令を下し、隊員達は個々で上昇を始めた。


戦場に置いて速度というのは重要な役割を果たすのだ。

素早く行動が出来れば敵を撹乱すること急襲をかけることも容易である。


上昇を始めたウォーソード隊をみたカイル隊はつられて上昇していった。


上昇したウォーソード隊は高度7000mで全機反転しカイル隊と向き合った。


高速で降下してくるウォーソード隊を目前にカイル隊は装備していたバルカン砲で射撃を始めた。


が、一足遅かった。


カイル隊が放つバルカン砲の弾幕を華麗に避け、カイル隊の機体を追い越した瞬間マニューバをかけ、背後に"取り憑いた"。


そして、取り憑いた瞬間にウォーソード隊はバルカン砲で敵のエルロンを目掛けて射撃をし機動性を奪った。


エルロンを被弾した敵機体は徐々に制御を失い、ウォーソード隊のミサイルによって機体は木っ端微塵に吹き飛んだ。


敵1番機も同様にエルロンをRが操るFXS-01のバルカン砲によって破壊され、まともに旋回ができるものではなかった。


「…やはり俺は亡霊が苦手見てぇだな…」


そう言い残したハンネスが搭乗する機体はRのトドメのミサイルによって撃墜された。


最初に撃墜されたワイスとハンネスに続いてガルガンロラ、ジャラーヌ、ガイアース、アジェマーニ、カイレンスの順で地上に堕ちていった。


Rはカイル隊を撃墜したあとも気を緩めず、"アセンション島周辺で待機している艦隊にカイル隊の隊員たちを捕縛するように"と伝えた。


そしてそのまま敵の増援部隊を撃破する為、エンジン出力を120%に上昇させて急いで向かった。


3時間後


アセンション島周辺の上空は我が国の戦闘機が円を描きながら飛行していた。


あたりはすっかり暗くなり、雲ひとつない綺麗な星空が私たちを照らし出していた。


月は少し…笑っているような気がした。


そんな夜、400m級装甲空母セイニャールの艦内では捕縛されたカイル隊の隊員達が牢屋に閉じ込められていた。


が、彼らはセイニャールの艦内で作られる食事を口にしながら、仲間と会話を嗜んでいた。


それを廊下とガラスが入った薄い壁を挟んだ先の艦内通路でウォーソード隊の隊員のRと呼ばれるラニーニャとYと呼ばれる弥島英輝の2人が携帯食をほうばりながら彼らに着いて話していた。


「…今後彼らはどのような扱いを受けるんでしょうかね」


先に話し始めたのは弥島だった。

敵国のエースパイロット、しかもタリバリン中隊・ウォーソード中隊に匹敵する戦力をもつ彼らをこのままにしておくとは思えない。

本来なら彼らを本国へ移送し、裁判にかけ、判決の結果に従わなければならない。


今の弥島には彼らはただの人間に見えるのだろう。


ラニーニャにもそれは理解していた。

そしてラニーニャは答える。


「まぁ…そうだねぇ~。このまま行けば本国で裁判を受けるんだろうけど…」


「何か考えがあるんですか?」

弥島は声を少し小さめにして質問した。

そうするとラニーニャも小声で質問に答えた。


「実はこの戦争が終わった後に彼らをウォーソード隊の次に作られる中隊に配属させようかなと思っているんだよね~」


一瞬冗談かと思った弥島もラニーニャの目をみて本気だということを理解した。


しかしそれでも弥島は驚きを隠せず口が先に開いてしまい、「えっ…」と漏らしてしまった。


気の抜けた"えっ"を聞いたラニーニャは「悪い案ではないと思うんだけど…どうかな?」と追い打ちをかけるように質問をした。


徐々に顔を近づけてくるたかが54歳の"超長寿命人型生物"の可愛らしい"エルフ"の顔を見ながら弥島は引き気味に「いいと思いますけど…」といった。


「なら、これで決まりだね!」と元気に言うラニーニャは弥島に"ありがとう!"と言い残し透華艦長がいるであろう艦橋へと歩き出していった。

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