第14話 全ては0に

1955年6月19日15:58:45


眼下の景色は枯れた木々・そこに生きる獣・茶色の大地


膨大な戦力を持つ国家とは思えないものだった。


「TS国は国民を豊かにするはずのお金を軍事予算に組み入れてるんですかねぇ…そうじゃないとこんな…こんな死体ばかりが転がる国にはならないはずですから…」


ウェンズは驚いていた。

ウェンズだけじゃない、他の中隊員もこの景色が異常だと思っていた。


「おい!どこを見ている!」


ラニーニャは一喝した。


「お前たちが見るのはこの先だ!眼下を見渡したところでお前たちがどうこうできることでは無い!」


いつになく厳しく話すラニーニャ。

皆も察して了解と言った。


ラニーニャも眼下に広がる景色を気にしていない訳では無い。


RAはじゃがいもおろしのおかげでアラビア半島は緑に包まれ、豊かな暮らしを国民に与えた。


それに比べてTS国は本当に酷い。


本当に…酷い有様だ。


6月19日16:54:06


目の前には巨大な要塞が構えていた。

要塞周辺には超巨大な対空砲が12機設置されていて、一基一基別々の方角に向いていた。


中隊員は皆"この要塞を攻略すれば戦争も終わるだろう"と思っていた事だろう。


しかし


現実はそんなに甘くなかった。


目の前にはこれまで戦ってきた敵のエースと本国で待機していたと思われるエースがこちらに飛んできていた。


各隊員のHUDには右から

・YS(ワイス)

・ガイアース・ウルバット

・ガルガンロラ・ゼン・グリグレースリー

左からは

・アジェマーニ・ソラ

・カイレンス・ティレイヌ

・ジャラーヌ・レスタン

そして真ん中には

ハンネス・ゼクトールと表示されていた。


これを見た隊員達は腹を括った。


"ここで死ぬかもしれない"


そんな考えは捨てた。


ここで死んでしまえば本国はこの国の手によって潰されてしまうからだ。


ラニーニャは敵を目の前に一言放った


"生死を考えるな!ただ敵を討ち取れ"と…


そして…


エース同士の最終決戦が始まった。


6月19日17:00:31


夕暮色に染まった空はこの場を聖戦と認めているかのようだった。


こんな美しい空で美しい戦闘機動を描きながら敵を追い、追い回す画はとても美しいだろう。


だが、そんな美しい夢のような時間もすぐに終わる。


敵の一機がディビィレットを狙い目と思い、ミサイル発射の準備のため執拗に追い回していた。


「ディビィレットォ!早く逃げるんだ!早く!」


ラニーニャは力強く叫んだ!


「っ!無理だ!振り切れんっ!助けてくれ!!」


ディビィレットは回避運動を続け、敵の機銃やミサイルを避けた。


「早く後ろにいる奴を!コイツを何とかしてくれ!!」


ディビィレットの助けの声は全員に届いていた。


しかし…


「俺も助けに行きたいが、こっちも絡まれてる!無理に行って隙を見せれば撃破されかねない!」


「私もっ!ですねっ!逃げるので精一杯で…」


ウェンズと弥島はそう言い、ディビィレットを助けるため必死に操縦桿を握っていた。


「今行くっす!引き寄せはお願いっす!」


「あぁ、分かってるっ!」


助けに出たのはグスコーニュだった。


だが…


「てめぇーは、終いだァ!」


ガイアースはグスコーニュに向けてミサイルを放った。


あれを喰らえば終わる


グスコーニュは突然の事で頭が真っ白になった。


次の瞬間


爆発音が響いた。


爆発したのはグスコーニュの機体だった。

ディビィレットを助けに行こうと隙を見せてでも行ったグスコーニュが撃墜されたのだ。


ディビィレットは叫んだ


「グスコォォォォォォ!!!」


「貴様ァァァァァ!許さんぞぉ!!グスコーニュの仇は私がっ!!」


「やめろ!ディビィレット!やめろォ!」


「許して、ラニーニャ!」


ディビィレットはグスコーニュを討ったガイアースに向かった。

だが、届かなかった。


カイレンスが放ったミサイルがディビィレットの機体の真下から来たのだ。


そのミサイルは機体に直撃し、爆発を伴いながら地上へと落ちていった。


タリバリン中隊はここで2人を失ってしまった。


その後、残りの4人も奮闘したが無駄に終わってしまった。


ラニーニャは最後に撃墜された。

ハンネスの言葉と共に。


"ラニーニャ、お前は弱い。何も守れないのだ。"


RA国が努力しもうすぐでアフリカ大陸を取り戻せる所まで来たのに、全てが水の泡になってしまった。


1956年8月


アフリカ大陸の南側を残して大半を解放したRA国だったが1955年6月19日にタリバリン中隊が撃破された事で戦線は元に戻り敵の勢力はアルジェリアまで来ていた。


本来あの場で敵機を撃破出来れば戦争はこれで終わり、国民にも平和な生活を送って貰うことが出来たはずだ。

タリバリン中隊は悪くない。

国民もタリバリン中隊が撃破された事を知り絶望こそしていたが、誰もタリバリン中隊を責めるものは居なかった。


国のためにタリバリン中隊は努力し、終戦へと導こうとしたのだ。

責める方がおかしい。


RAは"負けたのだ"。

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