こんにちは吸血鬼さん

「…………………す」



誰かが何かを話している……?


かすかに聞こえる話し声。低音で落ち着いた声の人と、明るく柔らかい声の人…この人は…さっき俺を気絶させた人…?の声がする。


姿を見たくて目を開けようと思ったが、なぜか開かない。そっと耳をそばだててみる。



すると徐々にハッキリ聞こえるようになってきた。


「ほう、魔力を持たない人間の子か」



「えぇ。お屋敷に侵入しようとしていたので捕まえておきました。おそらく天使の子《ラファエル》のお友達かと」



「なるほど、苦労をかけたな堕天使ルシファー



「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ、魔王バートリ様」




聞いてみたはいいものの、その人達が何を言っているかよくわからない。

魔力?らふぁえる?るしふぁー?



頭に?を浮かべていると、急に視界が明るくなった。



「まぶしっ!」



いきなり視界に光が飛び込んできて、目を細める。そこには二人の人影があった。



一人は長くてサラサラした黒髪をしていて、真紅の瞳をギラつかせた長身の男だ(身長は百九十センチ以上あるとみた)。マントのようなものを羽織っていて、どこか吸血鬼を連想させるような姿だった。かっこいい。コスプレか?



もう一人は癖のある茶髪で、吟遊詩人のような格好をしている。瞳はエメラルドグリーンに輝いていて、とても綺麗だ。金色のハープを持っている。こっちもコスプレかな?



なんて思っていると、吸血鬼みたいな男が自己紹介をはじめた。




「手荒な真似をしてしまってすまない。そなたに敵意はない。私の名はバートリという。魔界では少々名の知れたヴァンパイアだ」



バートリ様と呼ばれていた人はまっすぐな瞳を俺に向けた。



「またまたご謙遜なさって〜!バートリ様は魔界をおさめる魔王なのですよ」




ヴァンパイア…?魔王…?そんなものが実際に存在するのか?俺はずっと、空想の世界の話にだけ存在するものだと思っていた。




これはもしかして夢なのか…?



なんて目をパチクリして戸惑っていると、バートリ様は唇を少し持ち上げて歯を見せた。



二本、鋭く尖った牙がある。



「ほ、本物だ…」



不覚にも牙をかっこいいと思ってしまった。



吸血鬼だからこんなに身長が高いのか、と思い、バートリ様をじーっと見つめて観察していると、吟遊詩人みたいな格好をした人がはいはーい!私《わたくし》も自己紹介する!と無邪気に手をあげる。



「私の名はルシファー!堕天使だよ。特技はハープの音色で人々を安眠or永眠に導くことかなっ」




「ひぇっ」



満面の笑みでそんなことを言うものだから、思わずびくりとしてしまった。



さっき意識を失ったのはこのハープのせいだだったのか。黄金のハープはキラキラと光を反射させている。





「黒髪の一部が赤い、そなたの名は、何という?」




バートリ様はそっと俺の顔を覗き込むようにして問いかけた。


なんか、この人…じゃなかった、この鬼、距離感が近い気がする。



「俺は暁月零といいます!えっと、行方不明になった雪村斗真を探しに来ました」




やっと本題に入ることができた。

俺の目的は、さっさと斗真を見つけ出して一緒に帰ることだ。でも、この人達がアイツを誘拐したのは、なにか深い理由がある気がする。




「やっぱり君はラファエルのことを探していたのかぁ、確か人間界と魔界では時間の進むスピードが桁違いだそうだね」



「零、われらの魔界では、ラファエル…斗真くんが来てからもうすでに一年が過ぎている」



「ええええっ!!?」



嘘だろ!?時間の流れ違いすぎない!?!!人間界ではまだ一週間だぞ!?



内心突っ込みを入れながら首を傾げる。さっきから気になっていたのでとりあえずこの質問だけはしておきたい。



「あの、どうして斗真はラファエルと呼ばれているんですか?」





「それは天使の力を操る選ばれし者だからだ。そうだろう、ラファエル」




「えぇ、バートリ様」



天井から斗真の声が聞こえたかと思うと、目の前に白く輝く翼をもった天使が降りてくる。



……紛れもなく、それは




「久しぶりだね、零」




斗真だった。




「ええええぇぇぇぇぇ!!??!!?」



すっごい綺麗な衣装だし身長めっちゃ伸びてるしでっかい翼生えてるじゃねーか一体どうなってんだよ!!!!!!!




展開が急すぎて俺は頭を抱えたのだった。






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ヴァンパイア・エンカウント! ふかひれ @fukajiro1357

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