クスノキ

裏山にはクスノキがある。

ここは俺と斗真がはじめて出会った場所だ。ここで過ごした数え切れないほどの思い出が、頭の中に蘇ってくる。


小学生の頃、クスノキに登って落ちかけたこと、雛鳥を巣へ戻してやったこと、一緒に読書をして寝落ちをしてしまったこと……


思い出す度に胸の奥がズキリと痛む。いつもなら暖かい気持ちになれるのに、斗真がいないとこんな風になるんだな。


そんな気持ちを誤魔化すように、クスノキの幹をそっと撫でて、奥の茂みに足を踏み入れる。ここはドングリを拾い集めるときによく通ったっけ。


懐かしいな、なんて思いながら周囲をぐるりと見渡してみた。



すると、クスノキの裏側の茂みが、不自然に凹んでいることに気がつく。



「ん……?」



人間か獣かはわからないが、ここを通った形跡がある。茂みの凹みは森の奥深くへと続いていた。



こんな所を通るなんて……



俺はさっき谷口さんから聞いたことを思い出す。

不思議な格好をした男二人組が裏山の方に歩いていったと言っていた。



茂みの足跡はちょうど二人分……


これを辿れば新しい手がかりが掴めるんじゃないか!?

俺は迷わず足を進める。




このまま進めば斗真に似た人物に会えるかもしれない。何かしらこの事件と関係があるはずだ。



重く沈んでいた心が若干軽くなったように感じた。




奥に進んで行くほど葉が生い茂り、差し込む日光が少なくなってきた。徐々に薄暗くなっていく。




すこし、不気味だ。


黒い花が咲いたツルが絡まりあったり、真っ赤なキノコが生えていたり、食虫植物のような、珍しい植物がたくさんある。




……俺が前ここに来た時、こんなものは生えていなかった気がする。数年のうちに変わってしまったんだろうか。


うーん、と首を捻るがそんなこと考えてもわからない。



俺は足跡を辿るのに集中することにした。


足跡をたどりはじめて三十分。




足跡が途絶えた。



その先には、大きな洋館があり、気味の悪い雰囲気を醸し出している。



「うわぁ〜…いかにも肝試しに使われてそうな場所だな…」


思わず声が漏れる。



たくさんのコウモリが飛んでいて、門の前に向かい合うようにして設置してある二体のガーゴイル像が、こちらを睨んでいるように感じる。



門には鍵が閉まっていて、入れないようだ。



でも、誰かがこの洋館にいることは確かだ。不気味で気持ち悪いけど、こんな所で引き下がってたまるか!!




侵入できそうな箇所を探そうとしたとき__




「おっとっと?人間のお客さんかなー?」



背後から急に声がしたと思うと、力強く口を塞がれる。



「んんっ!?!!」




さっきまでだれもいなかったはずなのに、いつの間に!?

音も無く接近してくるなんて、相当な誘拐犯の手練れなのか!?



どうにか抵抗しようと足掻いていると、



「私に見つかって運がよかったね、少年」



耳元で柔らかな声が響いた。それと…なんだ?ハープの音…?

意識が遠のいていく……



俺はまだ、こんなところで死ぬわけには…



そう思ったが、体がいうことをきかない…



俺は意識を失った。

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