客観的にみると

「貴方少し変わったわね」

 グランマはそういうと、薄緑色の液体が入ったカップに口を付ける。今回俺と会話をするのはグランマのようだ。

 Zといえばマザーに連れられ子供達と一緒に外に行ってしまった。結果的に院に残ったのはグランマと俺、そして午睡中の幼年組となった。

 だからこの状況は当然と言えば当然なのだろう。

 それにしてもグランマの言葉の意味が俺には理解できなかった。

「俺が変わった?」

「ええ、Zもだけど。貴方はそうね・・・。人に興味を持つようになったのかしら?」

 そう言われてもピンとこない。

「前は人と楽しく会話なんてしなかったでしょう?」

 楽しく、に関しては確かにそうだが、会話をしていなかったという言葉は疑問に残った。

「会話ならしていただろう」

「事務的に、そしてあくまでも必要最低限の仕事の話だけ。誰かのことを考えて謝ったり、気を遣ったりなんてする様子なかったわ」

 そういわれれば、そうだったかもしれない。誰かと無用な会話をする必要性を感じないのだ。時間の無駄としか思えない。

「まだまだ、気を遣っていうには程遠いかもしれないけれど・・・。そう、優しくなったわね」

「俺が、優しい?」

「前の貴方もいいけれど今のあなたはもっと素敵よ」

 グランマは穏やかに俺に笑いかけてくる。グランマのいっていることが俺には理解できなかった。

「だが、Zは俺に怒っているばかりに見える」

「ふふふ、そうね。でも怒ってるからって嫌いってわけじゃないでしょ?」

 グランマの言っていることが本当に理解できない。嫌いではないのであればなぜ怒るというのか。

「気になるのなら、本人に直接聞いてみればいいと思うわ。話さないと分からないことだってあるはずよ」

 話さなければ分からないこともある。それはグランマに言われずとも半年前に身をもって実感したことだ。

 そう言っても別に気になっているわけではない。だが、もし話すことができればもう少し普通にZと会話することができるのだろうか。

「そろそろ、次の準備をしましょうか。A手伝ってくれる?」

 グランマはそう言って一方的に話を止めてしまった。俺はまだ聞きたいこともあったが、諦めてグランマの後を付いていくことにした。


 以前はああして会話もすることもなかった。

 こちらから声を掛けても"ああ"の一言でおしまい。それでは会話が成り立たない。

 それに表情に乏しいはここに来た時より随分感情が見えるようになってきたような気がする。

 元々感情がなかったのか隠していたのかそれは知らないけれど、そんなことよりもこの変化はとても大事なものではないだろうかと感じる。それに私は嬉しかった。

 あのにしても前はもっと素っ気ない態度だった気がするが、前よりも遥かに砕けてきたような印象だ。

 彼の前でなら被り切れていない猫を被ることもないし、あの仮面をつけることもない。

 そして、ここ数日は何かあったのか彼を露骨に避けているのはほとんど明らかだ。今までそんな様子は見たこともなかった。彼はあの子に避けられているとは気付いていない気もするけれど・・・。それはそれで微笑ましい。

 あの子自身がその変化に気付いているか分からないが、正直いって彼がここにきて本当に良かったと思っている。

 ・・・これを先生あの人は予想していたのだろうか?

 何にしても

 マリアのことをよろしくね、A。

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