第36話 柚の過去

 中学生のときの話。


私たちの学年は過去1、県で1番荒れていると言われていた。


 警察は毎日くるのが当たり前。校門の前に毎日白と黒のパトカーが止まっているのが見えた。


ある日。


道徳の授業をしていたときのこと。担任の先生が電子黒板を使って、動画を見せてくれていた。この時間、不良たちも大人しくしていて、静かに授業が進んでいた。


不良たちにも、疲れて、何もしたくない時もあるらしい。この日は、そんな日で、外の小鳥の声が聞こえるくらいに静かだった。


あと少しで動画が終わると言う時、いきなり教室のドアは開いた。


ガラガラガラ。


「私の家の庭に、みかん投げたの誰なのよ!」


大きな声を出し、ドアを思いっきり開けた女がいた。60代くらいだろうか。年の割には似合わないメイクをしている。唇がやけに赤く染まっている。


クラスのみんなが呆然とする。担任の先生は、驚きを隠せない様子でとりあえず動画を止める。


「どうしたんでしょうか」


「あなた、このクラスの担任の先生? このクラスの窓からわたしの家に向かってみかんを投げる姿が見えたのよ!」


女は、血相を変えて、叫んでいる。クラスのみんなが唖然とした。


「それは申し訳ありませんでした。話を聞きたいので場所変えませんか?」


「あなたと話すつもりはないわ。さあ! 誰なの!? みかん投げたのは!」


教室はシーンとなり、おばさんの罵声だけが静かに響く。


誰もやってないよなという顔でみんな顔を見合わせる。


実際、このクラスのみんなはやってなかった。


隣のクラスの不良たちが、わざわざこの教室に入ってきて投げていたのをみんなは目撃している。


しかし、この状況の中、誰もその真実を言うことができなかった。


おばさんは、一人で来たのだと思っていた。


しかし、おばさんの後ろには校長がいたのだった。


後ろでもじもじしている。


わたしは目を疑った。え、普通さ、校長ならこの教室に怒鳴り込みにくることを止めるでしょ。


大人同士の会話で終わらせるでしょ。


ありえないと思った。


校長は、近所のおばさんに負けたんだな。悲しい。


おばさんは、5分ほど叫びまくった後、教室を去っていった。我を忘れて金切り声をあげる始末。


おかげで、「キンコンカンコーン」とチャイムが終わり、動画は最後まで見れなかった。最後のシーン見たかったな。


授業が終わると、下げパン軍団は、隣のクラスで行った。きっと、さっきのおばさんのことを言うつもりだろう。言ったところでどうなるんだろうか。まさか、おばさんに謝るわけじゃないだろうし。


この頃、下げパンが流行っていた。下げパンというスボンを下げてだらっと見せるようなものだ。


男子なんか下げすぎてよくパンツが見えていた。


こういう下げパンをみんながしていた。



不良やギャルがかなりの割合を占めている中で、わたしは、化粧もしていない、下げパンというスボンを下げてだらっと見せるようなものもしていなかった。


ギャルたちは、真面目な私のことが気に食わなかったんだろう。



 しかも、1番のギャルの好きな男が私のことを好きになってしまったのも原因だ。



そのギャルとは部活が一緒だった。ある日のこと。部活が終わり、いつものようにソフトテニス部の子たちと一緒に帰っていた。


「今日さ、うちらこっちの道から帰るわ。じゃあね」


「え、なんで? 下校の道勝手に変えたらまずくない?」


「いいっしょ。まあ、とりあえず今日はこっちの道で帰るから」


「わかった。また明日ね」


私とあすかちゃんという子だけが残り、いつもの下校の道で帰った。


ギャルと5人くらいの子たちは、別の道で帰った。


この時、あすかちゃんと私は、「どうしたんだろうね」と疑問に思っていた。


後で知ったのだが、ギャルたちは別の道で帰った時に「佐々木柚をいじめよう」と話し合っていたらしい。あすかちゃんも、ギャルの味方で、怪しまれないように私と一緒に帰ったらしい。


次の日から、下校の時、私を列に入れないようにしてきた。


最初は、わざとやっているなんて思っても見なくて、嫌な気はしなかった。


しかし、毎日続くようになると、さすがに気付く。「あ、私を列に入れないようにしている」と。


頑張って話しかけてみたこともあった。


「今日の部活疲れたね」


「……」


「あの課題終わった?」


「……」


「あのテレビ番組見てる?」


「……」


何を言っても列に入れさせてくれないどころか、無視を平気でしてくる。


「なんであいつ、ついてくるんだろーね。きも。」


と、何度言われたことか。


帰るときは、部活の人たちと一緒に帰らないといけないからかなり苦痛だった。


ある日、部活に行こうとして、いつものように内履きを下駄箱に入れて外履きを履こうとした。


「あれ、なんか重い」


外履きに大量の砂が入れられていたのだった。


「絶対あいつらだ」


私は確信した。私はあいつらにいじめに遭っていると。



なんで私がこんなめに遭わないといけないんだ。


あいつらは、私にこんなことをして楽しんでいるんだ。


あいつらにいつか復讐してやると誓った。

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