第35話 柚の過去

 小学校のときから、自己肯定感を高く持つことが良いとされてきた。


 だから、QUを受けたときもそうだった。


 Q-Uとは、QUESTIONNAIRE-UTILITIESの略で、『楽しい学校生活を送るためのアンケート』のことだ。「Q-U」は発行前に、総計3万人の児童生徒を対象に事前検証が実施された。


 その結果、日本テストスタンダード委員会の審査基準を満たした、標準化された心理テストとして認定を受けている。


  「Q-U」を実施することによって、児童生徒一人一人についての理解と対応方法、学級集団の状態と今後の学級経営の方針を把握することができるとされている。


 私は小学校のQUで、自己肯定感が低かった。クラスで1番。


 だから、担任の先生に心配され、自己肯定感をあげるために、たぶん他の子よりも褒められることが多かっただろう。


 親にも自己肯定感が低いことで連絡がいき、心配された。


 学校では、自己肯定感を高めようと、様々な取り組みがされる。


 帰りの会のときに、褒め褒めシャワーという日直をクラスみんなで褒めまくるなどの活動だ。


 担任からは、何か問題がある子として、認識され、かわいそうな目で見られる。


 まるで、腫れ物にさわるように。


 でも、自己肯定感が低いことの何が悪いのだろう。


 自己肯定感が低くても生きていける。


 自己肯定感が低くても、他人に迷惑をかけているわけではない。



 逆に、自分自身を見つめるのを誤って、他人に迷惑かけまくっているのに、自己肯定感が高いやつのほうが迷惑だ。


 そういうやつほど、自分勝手に行動して、クラスのみんな、教師に迷惑をかける。


 自己肯定感が高い=良いこと


という概念はやめてほしい。やめるべきだと思う。


でも、そんな私の考えは、幻想にすぎず、世間は自己肯定感が高いことを理想とする。


だから、小学校の途中から、自己肯定感が高くなるように、嘘に丸をつけた。


 自己肯定感が高くなったという見かけだけで、教師も親もとても喜ぶ。


 良かった、まともな人間になった。と。


私は、周りの人間が喜ぶように、自己肯定感が高い自分を演じた。


演じるたびに、また自分の生きる価値を考える。

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