第34話

 一ヶ月ほど、入院生活が続いた。


毎日変わらない日々だった。


朝、看護師がきて、声をかけられ、朝食を食べる。


日中は読書やテレビを見て過ごす。


同じ病室の人たちとおしゃべりは楽しかったな。


夜は時々屋上に出て、星空を眺める。


21時になったら消灯で、電気が消され、寝る。


こんな日々の繰り返しだった。


退院しても病院に通うことになるが、担当医師は坂井先生で変わらない。


 ついに、退院する日になった。


「同じ病室の佐々木さんがいなくなって、さみしくなるわねぇ」


「ほんとに。でも、元気になって良かった。お大事にね」


「ありがとうございます。この病室で楽しい会話ができて、嬉しかったです。お世話になりました」


 同じ病室の3人が私なんかの別れを惜しんでくれている。


坂井先生、看護師にも挨拶をする。


「無事に退院できて良かった。ほんと大変でしたね。退院おめでとうございます。通院は、必ず来てくださいね」


 坂井先生は、いつもと変わらず、真っ白い白衣に身を包み、清潔感を醸し出している。


「佐々木さんがいなくなって、さみしいわ」と、看護師が口々に話す。


 母と妹と一緒にお世話になった病院を出る。


手を振って見送ってくれた。


心配ということで、しばらく実家で過ごすことになった。


会社もしばらく休ませてもらう。


久しぶりの家族との時間もいいな。


入院中は、毎日家族が見舞いにきてくれた。


そして、とりとめのない会話をたくさんした。


そのおかげなのか、家族に対して、今まで迷惑をかけないようにと言えなかったことが言えるようになった。


人間って、死ぬ寸前まで行って、戻ってくるとなんか価値観や考え方が変わるのかな。


お母さんが運転している時、スマホが鳴った。


通知が一件。


「退院おめでとう」


 坂井先生からだった。


さっき、言葉を交わしたばかりなのに。心の中で、クスッと笑った。


そして、返信した。


「ありがとう」

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