第3話 

 一週間後、案を持って原田株式会社を訪れた。 


「今日は、依頼された広告案を持ってきました」


「楽しみに待ってました」


「いくつか案を持ってきました。A案は、こちらです。一番人気のこの化粧品を全面に出しています。可愛いというより、美しさをイメージしました……」


 こんな感じで、全ての案のプレゼンが終わった。


「ご検討、よろしくお願いします」


「では、一週間後に」


 応接室を出ようとしたとき、飾ってあった城のレプリカに手が止まった。


「原田社長って、お城お好きなんですか?これ、姫路城ですよね」


「そうなんです。お城大好きでねぇ。姫路城は特に好きでねぇ」


「別名、白鷺城、白くてかっこよくて、敵を寄せつけない造りが凄いですよね。白鷺城を攻めるのは、絶対大変でしたよね」


「よく知ってますね! 佐々木さん! 城好きなんですか?」


「はい。大好きなんですよ。城を周るのが趣味なんです」


「おぉ! 奇遇にもわたしもです。もしよかったら今度一緒に城行きませんか?」


「いいですね! 是非!」 


 社長がまさか城好きだとは……! 


予想外の展開だった。


ここで、接待が成功すれば間違いなく、仕事を勝ち取ることができるだろう。


家に帰って、県内の城について勉強し直した。私自身、城が好きだが、城好きな社長前にして、落ち度があることは許されない。


城に関して、インプットする一週間を過ごした。






 一週間後、原田社長を接待する日がきた。


流石に、姫路城は遠いので行けないので、県内の城を見に行った。


透き通るような青い空に、綿飴をちぎったように雲が散らばっていて、とてもきれいだった。


接待面倒だなと嫌になっていた気持ちが、きれいな空のおかげで少しだけ紛れた。





この城は、山城の部類に入る。山を利用して築かれた城だ。ちょっとした登山をするといってもいい。


現在は、天守閣などの城自体は何もない。木が生い茂っていて、森のようになっている。外から見たらただの山に見えるが、中に入ると、堀があったり、道があったりする。


歩いていると、小さな虫がところどころにいた。たまに、熊や蛇も出るらしい。


「城が復元されてなかったり、天守閣がなかったりすると残念がる観光客が多いですが、こういう城の跡を見ると、私は興奮してしまいます」 


「凄く分かります。今ここに立ってたら、鉄砲で撃たれちゃうなとか考えちゃいます」


「ほんとだ。あそこから、敵に攻撃されますね」


「この城は守りがかなり堅いですね。ここに来るまでに5回も殺されました」


 普段ならできない城の会話ができることが楽しかった。


頂上からは、街を一望できた。戦国時代も、ここから武将は街を見て、情勢を伺ったり、戦の作戦を練っていたりしていたのかな。そう考えると趣深い。


「今日は仕事じゃないのに付き合ってくれてありがとうね。なんだか、娘と観光してるみたいだったよ」


「原田社長は、娘さんいらっしゃるんですね」


「いやいや、いないですよ。もしいたら、こんな感じだったのかなぁって」


「なるほど。今日は、楽しかったです」


「こちらこそ。ありがとう。久しぶりに誰かと城の話ができて良かったです」


 城だけ観光して、別れた。久しぶりに城の話をしながら、山城を登った。こんなこと、大学生以来だった。大学生のときは、城の研究をしていたので、ゼミの仲間や教授達とよく登っていた。


その時の知識と一週間、城を復習していたおかげで、会話は弾み、社長は気持ちよく帰ってくれた。


面倒くさい接待も無事に終わり、ほっとした。


ご褒美に、帰り際好きなカフェに立ち寄って、大好きな抹茶のラテを一人で飲んだ。


あったかいラテがお腹にほんわり流れ、体が温まる。


「美味しい」


こうして、無事に大手の社長を相手にしたドキドキの接待が終わった。

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