第2話
私、佐々木柚は地方の広告会社に勤めている。
社員は三十人くらいで中小企業といったところだ。
私は、営業として働いており、きれいめなジャケットに身を包むことが多い。
今日は、営業として、一人で原田株式会社へ広告の取り引きをするために行った。
営業だから、仕事を取れたか取れないかで功績が変わってくる。
今日は、大手の原田株式会社が相手。仕事を取ってくれば私の功績はぐんっと上がり、ボーナスも増える。
何としても、この仕事は取る!
そう思いながら、原田株式会社へと向かった。
原田株式会社のビルは、大きかった。見上げるほどで、全ての窓が太陽に反射して、キラキラと輝いている。私が働いている場所とは大違いだ。
中に入ると、大きなホールになっていて、受付があった。二人の綺麗なお姉さんが背筋をしっかり伸ばして座っていた。
私が名前を言うと、すぐに案内された。社長は、14階にいるらしい。
ワックスがかけられているようにキラキラと光る床のエレベーターに乗り、14階のボタンを押す。
ボタンの回りがオレンジに光り、動き出した。
そんな鉄の箱の壁は床と同じようにツルツルしていた。
14の所が光り、ドアが開き、社長がいるという部屋へ向かった。すれ違う人たちは、皆、高級なスーツを身につけ、ビシッと決めている。
普通、営業しに行く時は、社長の元へは行かず、広告担当の方と打ち合わせをする。しかし、今回、担当する化粧品の広告については、社長自ら、選びたいとの要望があり、今日に至る。
社長が直々に登場するなんて、とんでもないことだ。ましてや、大手の化粧品メーカーなんだから、かなり莫大な金が入ることになる。
これは、何としても成功させなければ。
会社の期待を一身に背負って、私はここに来たと言っても過言ではない。
部屋につき、ノックをすると、原田社長が出てきた。
「初めまして。私、佐々木柚と申します。よろしくお願いします」
「私、原田株式会社の社長、原田泰と申します。こちらこそ、よろしくお願いします」
お決まりの名刺交換をした。
「どうぞ、お座りください」
「はい。では、失礼します」
20代くらいの女性がお茶を出してくれた。
指に結婚指輪が光る。
もう、結婚してるんだ。
幸せそうでいいなぁ。
あ、ここは、応接室だった。真面目に仕事しなきゃ。
まずは、社長分析からスタート。
原田社長は、四十代くらいで、髪はある。短髪。
若い頃はイケメンだったような面影がある。世に言う、ダンディな男性だ。
話し方も丁寧で失礼がない。好印象をもった。
左手の薬指を見ると眩しい指輪が光った。
これだけスペックと外見を持ち合わせているのだから、当たり前だろう。
温かい家庭なんだろうな。子どもは何歳になったのかな。
そんな想像を瞬時に膨らませた。
よし、取引するか。絶対成功させる。
「今回、この化粧品のイメージ広告を作りたいとのことでしたが、テーマはどうされますか?」
「美しさ、清潔さをテーマにしてほしいんです。
我が社は女性が使う高級化粧品を扱ってます。派手なイメージというより、女性の美しさを前面に出していきたいんですよ」
「とても、良いと思います。では、他にもお聞きしたいことがあるので、伺ってもよろしいでしょうか」
「はい。なんでも聞いてください」
一時間ほど話した後、「案をいくつか出しますので、メールでご連絡いたします」と締めくくった。
「今日はありがとうございました。またよろしくお願いします」
「こちらこそ、詳しく丁寧に聞いてもらっちゃって助かりました。ありがとうございます」
立派なビルの原田株式会社を出た。
社長いい人そうだったもんなぁ。
お客様にしたいなぁ。
よし、絶対この取引を成功させる。
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