三節 「雪」

 今日も雪が降っている。

 彼女が未来に帰る日が来た。

「私のやるべきことは終わったし、未来に帰るよ」

 彼女は突然そう言った。

 僕は寂しかった。

 彼女といる時間が楽しかった。

「あっさりしてるね」

「まさか、娘にでも恋をした?」

「しないよ」

「そうだよねー。うん、ちゃんと言葉の意味わかってるよ。私も寂しいよ」

 彼女は空を見上げ、涙をこらえていた。

 きっと彼女はずっと一緒にいられないことを最初からわかっていた。

 僕たちは違う時間を生きているのだから。

 必ず別れがやってくる。

 降り続ける雪が彼女を光り輝かせる。

 雪。

 僕はあることを思い出した。

「そういえば、初めて出会ったとき、雪みたいだねと言ったよね? あれはなんだったの?」

 ずっと気になっていた。

 それで彼女に夢中になり、僕は変われたといっても過言ではない。

 彼女はこちらを向いて笑った。

「雪は小さくて頼りない。どこかにいってしまいそうなぐらいはかなくて弱い存在。雪はそんな風に思われがちだけど、本当は強い意志を持っている。だってこんなに人を感動させて、一瞬で世界も変えてしまえるのだから。私はあなたにそんな強さを出会ったときに感じたのよ」

「そういう意味だったのか」

「そうよ、信じるものを見つける前のあなたに感じたのよ。だから、あなたは大丈夫」

 また彼女に励まされた。

 僕は彼女に何をしてあげることができるだろう。

 辛いときの支えになることはできるのだろうか。

「僕は美月に涙が、雪のようにきれいだと感じたよ。だから美月も大丈夫」

「私もあなたと同じで、雪だったのね」

 彼女は涙を流した。

 僕たちには通じ合うものがあった。

 たとえ生きている世界が違っても僕たちは繋がっている。

「二十年後に、必ずまた雪を一緒に見に行こう。約束だよ、お父さん」

「わかった、約束だ」

 そう言って。彼女は未来に帰って行ったのだった。

 僕はいつの間にか泣いていた。

 彼女を送り出すかのように雪がきらきらと降っていた。

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