二節 「彼女の信じていたもの」
「私が信じるものは家族だった」
そこで彼女は遠慮がちに僕の方を見てきた。
「その前に、あなたの妻となる人が誰か知りたい?」
僕は少し考えた。
気になる気持ちと未来を知っていいのかという気持ちで揺れた。
でもこれも彼女を知るために必要なんだと思った。
「教えてほしい」
「あなたの妻となる人は、しおりさんよ」
僕は驚いた。
なぜならしおりとの関係を壊したのは彼女だからだ。
僕の行動によっては、未来が変わり自分はそもそも生まれないことになっていたかもしれない。
そんなリスクを冒してまで、僕を変えるために未来からきてくれたのだ。過去に来ることは、彼女にとってメリットなんてなかったのかもしれない。
そして、幸せな気分になった。
最近付き合い始めたしおりとこのままうまくいくことが正直嬉しかった。
「信じるとは、言葉だと私は思っていた。言葉相手の心を表すものだから、言葉を交わせば人は分かり合えると思っていた」
「信じるとは言葉か」
彼女が信じるものは何で、信じるとはどういうことか知ることができた。
それは今後僕が生きていく上で、役に立つ。
色々な考え方を知ることは、僕の考え方を強化する要因になるから。
「でも、あなたは変わってしまって、私になんて興味を持たなくなった。話しても答えてくれない。そして、会話がなくなった。それが私にはどうしても受け入れられなかった。向き合ってあなたを変えることもできたはずだった。言葉なんていくらでもある。でも私は逃げた」
僕はなんと言葉をかけていいかわからなかった。
今でも彼女ははこんなにも苦しんでいる。
ただ彼女の手をそっと握った。
「それから、親と連絡を絶つようになった。もう何も信じないと決めた。しばらくしてからお母さんが私を探し当てた。あなたが壊れてしまったと言われた。私は変わり果てたあなたを見て、なんで最後まで信じてあげなかったのだろうと強く自分を責めた。一番辛いときに家族である私がそばにいてあげなかったことを後悔した。信じると決めたものを信じないで私は何をしているんだと思った」
そこで彼女は頭を下げた。
「本当にごめんなさい。私は、未来のあなたを信じることができなかった」
「でもこうやって過去にきてくれたじゃないか」
「そうね、でもそれもただ私のためだったのかもしれない」
彼女が信じるものを守るためというのだろうか。それでも僕のことを思っての行動であることは確かだ。
「そうじゃない! 僕はいろいろなことを学び、信じるものを見つけられた。僕は美月に救われたんだ」
「ありがとう」
そう言って彼女は涙を流したのだった。
その涙は、とてもきれいでまるで雪のようだった。
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