七章
一節 「信じるもの」
僕は彼女に話があると言った。
ソファーで二人で座り、話するのが僕たちの普通になってきていた。
今回もそこで話することにした。
親、SNS、しおりから話を聞いて、僕は自分の中で信じることについて答えを導き出すことができた。
それは、すべてのことが絡み合って出来上がったものだった。
僕の中で光が生まれた瞬間だった。
「美月、信じるものが見つかったよ」
「本当に? どんなもの??」
彼女は目をキラキラさせて僕の方にやって来た。
今思えば、彼女は僕のことを信じてくれていた。
僕が信じるものを見つけることを、信じて待ってくれていた。
そう思うとふとある考えに至った。
もしかして、彼女が最後まで信じることができなかったことは、親との関係性だったのではないだろうか。
つまりは、変わっていく僕を信じることができなかったのではないか。
それを後悔して未来からやって来たではないか。
それならば彼女は……。
僕は頭をとりあえず切り替えて、話し始めることにした。
「信じるものは愛する人。そして信じるとは、信じると決めた人や物と、共に歩む覚悟を持つことだ」
「うん、もう少し詳しく聞かせて」
彼女は真剣な顔をしていた。
僕は言葉をうまくまとめてしゃべるのが得意ではない。でもなんとか伝えたいと思った。
「信じると言っても、すべての人を受け入れる必要性はないと思ったんだ。信じるか信じないか判断する目が必要だ。自分がしっかり守れるだけの人でいい。そして、信じるということはまずは自分をさらけ出すことから始まる。次に、ただ相手の言っていることをそのまま受け入れるのはなく、相手がもし間違えていたらちゃんと意見が言えることとそれを許すことだ。そして、口先だけだけなく、一緒に最後までその問題に向き合って、ともに行動することだ」
「すごく素敵。それならきっとお金を手に入れても支配されないわ」
彼女は僕に抱きついてきた。僕も嬉しくなって抱きしめ返した。
なぜか嫌な感じはしなかった。
人はなぜ何かを信じるのだろう。
信じるとはどういうことだろう。
信じなくても生きていくことはきっとできる。
信じるものが何かという明確な答えもない。
簡単に見つかるものでもない。
でも、信じるものが僕たちに大切なものが何か改めて教えてくれるから。
大切なものを知るためにそして守るために、僕たちは信じるのかもしれない。
信じるとは、自分の中で何かを大切にしたいという思う暖かい気持ちではないだろうか。
僕は信じることについてそんな風な考えに至った。
「そう言ってもらえてよかったよ。美月のお陰で見つけることができた。本当にありがとう」
「そんなことないよ。それを見つけるための行動したのはすべてあなただよ。あなたが頑張ったから見つけられたんだよ」
「でもそもそも美月が僕に会いに来てくれていなかったら、僕が信じるものを探すことはなかった」
「それは私がしたかったんだからいいんだよ」
「美月、僕はあることに気づいたんだ」
僕は勇気を出して聞いてみることにした。彼女のことも僕は信じているから。
「なになに?」
「美月が前に言っていた最後まで信じれなかったことって、未来の僕のことだよね?」
彼女の表情は変わり、静かに頷いた。
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