六章

一節 「関係性の再構築」

 僕は壊れたものを直していくことにした。

 それは自分を見つける旅のようなものだ。

 頭の中を空っぽにして0から物事を見て感じてみる。

 そして、信じるとはどういうことか直接聞いてみて、自分で考えてみようと思った。

 まずは親との関係性だ。

「すみませんでした。前に話したことは全て嘘なんです」

 僕は実家に行き、玄関で頭を下げた。

 今日はいつもより少し暖かい日だ。

 家を出るとき、彼女が一緒に行くと言ってきたけど、僕はそれを断った。

 確かに彼女が壊したのだから責任はある。

 でも僕は自分でこの問題を解決することで、何かを得たかった。

 何かとは、まだはっきりとはわからない。

 でも信じることに繋がると思う。

 彼女は「頑張ってきてね」と背中を押してくれた。

「なんでそんなことしたの?」

 両親からはまだ緊張感が伝わってくる。

 それは当たり前の感情だと今ならわかる。

 今思えば、僕は彼女に色々教えてもらっていたのだ。

 彼女は関係を壊す度に、僕になぜうまくいかないか丁寧に説明してくれていた。

 その時は気づけなかった。ただ機嫌を悪くしているのかなぐらいしか思っていなかった。

 大切なことはいつも自分のもとにきているのに、それに気づかないことが多い。

 まずはそれに気付けてことが大きな一歩だ。

「それは詳しくは言えません。でも親を傷つける目的じゃないことは確かです。僕の未来のためなんです。許してください」

 さすがに全部話しても信じてもらえないと思った。

 でもしっかり頭を何度も下げた。

 家の中に上がるように言われたけど、僕はそれを丁寧に断った。

 こうやって親と正面から向き合ったことも今までなかったなと気づいた。

 僕は今まで親とどんな関係でいたのだろう。僕は親と本当の意味で信頼関係を築けていなかったのだ。その気づきが僕を悲しい気持ちにさせた。

「あなたがそこまで言うなら、何かあるのでしょう。わかった。許します」

 心のしこりが一つとれた。

 今までと変わらない会話かもしれないけど、僕は前に進めた気がした。

「ありがとうがございます。それともう一つ、教えてほしいことがあります」

「なに?」

 二人は優しく話を聞いてくれている。

「お父さんとお母さんにとって信じるものは何で、どういう意味ですか?」

「私にとって、信じるものは夫と子どもです。信じるとは許すことだと思う」

「私にとっては、信じるものは自分自身だ。信じるとは努力し続けた結果だと思う」

 お母さんが先に話、続けてお父さんが話してくれた。

 両親はそれぞれ信じるに対する考え方を堂々と話してくれた。

 二人の思いを知って、親と話すと暖かい気持ちになる理由がわかった気がした。

 僕は確かに愛されていた。

 あれから家に上がり、両親から色々詳しく話を聞いた。

 昼間に実家にいってから、もう3時間が経っていた。

 時間が経つのは早いものだと、夕焼けに染まる空を見上げて立ち止まった。

 白く染まる息はなぜこんなに美しいのだろう。

 僕は二人の考えを頭にいれ、一人で考えてみた。

 信じるとは許すこと、努力の結果だと言っていた。

 僕は今までそこまでしっかりしたものはなく、考えたこともなかった。

 ただそうするべきだから、信じてきた。みんなや社会に合わせてきた。

 それはある種の認知の歪みだろう。

 親を信じることについてこう考えていた。


 育ててくれたから。

 ずっと一緒にいるから。

 当たり前だから。


 どれも僕の気持ちが入った言葉はなかった。

 なぜ信じるかと言われて、親だからと僕は前に彼女に言った。それが答えになっていない理由が今やっとわかった。

 あまりにも不透明で、そこには何も特別な思い入れはなかった。

 そういうことに気づくことができた。

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