三節 「関係性を壊した理由」

「だから、私は、未来から来て、どんな時もあなたのそばにいることにした。あなたが辛いとき、心が折れそうなとき一人にならないようにした」

 確かに彼女はずっとそばにいてくれた。

 突き放しているようで、どこか暖かさを感じていた。

 それは彼女が僕のことを思ってくれていたからだった。

 彼女がいたから、僕は辛いときに壊れずにすんだ。

 人がそばにいるだけで、暖かい気持ちになるから。

 彼女は僕を変えるため守るために、わざわざ未来からきてくれた。

 簡単なことではなかったと思う。

 未来の僕のために何かをすると言ったら、きっと周りの人も反対するだろう。

 未来の僕は傲慢で自分のことしか考えていないから。

 それでも彼女は現在に来ることを選んでくれた。

 彼女の話によれば、二十年後の未来では、精神病院の入院施設で、僕がベットに横たわり何も言葉を発することなくただ一日外を見ているらしい。

 僕は胸が痛くなった。

 自分の未来に絶望したからではない。

 きっと娘にもひどいことをしたり言ったのだろうと簡単に想像できたから。

 大切な家族を傷つけたくなかった。

 でもどうしてもわからないことがあった。

「僕の信じるものを壊したのは美月だよね? なんであんなことする必要があったの?」

 今後お金を信じて壊れることを教えてくれるだけではダメだったのだろうか。

「それは二つの理由があるわ。一つ目は辛さを分散して軽くするため。未来のあなたは、これらを一気に失って、一人でとてもつらい思いをした。また、早いうちに実際に失う辛さを味わってほしかった。体験してわかるものもあるから」

 そこで彼女は笑った。

「そして、今は些細なことで無理やり壊したからまた信頼関係を作る事は簡単だから安心して」

 そんなことまで考えてくれているとはびっくりした。

 僕はそんなに聡明ではない。

 でも僕の娘だという。

 そして、僕の妻は誰なんだろう。

 その疑問を度胸の奥にしまい込んで、僕は質問した。

「もう一つは?」

「あなたが信じるものをちゃんと見つけて、今後生きていってほしいためよ。そうすれば、お金を手に入れた時にも、それに支配されないから」

 お金はどんなことをしても手に入ることになっている。

 その未来はきっと変えられないのだろう。

「あなたが何を信じるか、どうしてそれを信じたいのかをもう一度ちゃんと考えてみて。もしかしたら今あるものじゃないかもしれないし、それはわからない。でも必ずあるから」

 まだまだ絶望するには早すぎる。

「わかった。考えてみるよ」

「私にできることがあれば何でもするから」

「ありがとう」

 僕は信じるものを探し始めたのだった。

 窓からは雪が花を咲かしているようだった。

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