四章

一節 「彼女の真意は?」

 人はどうして、何度も物事や人を信じるのだろう。

 裏切られても、それでも人はまた何かを信じようとする。

 

 家に帰ってきて、一人で考えていた。

 あの言葉を言った後、彼女は何も言葉を発することなく、一緒に家までついてきた。

 僕はそれを拒むことなく迎え入れた。

 彼女はソファーの方へ歩いて行って横になった。

 すっかり夜は更けていて、部屋の明かりをつけた。

 部屋の明かりをつけてもどこか暗い気がするのは、僕の気持ちが落ち込んでいるからだろうか。

 僕はどうして信じるのだろうかという原点を見つめ直してみた。

 僕は、物や人を信じることから始める。

 それは、性善説を信じているから。

 性善説とは、人間の本性は基本的に善であるとするものである。

 どんな人もよい心を持っていて、本当の意味で悪い人なんていない。

 悪いことが起こるのはただ何かしらの理由があるからそうせざるえないだけだ。

 その人が悪い心の持ち主だからではない。

 だから、僕は人を信じるし、どんなことも許して受け入れる。

 でも、僕の親やSNSの人たちはどうだろうか。

 僕が信頼関係を壊した。

 彼らはそんな僕を今でも信じてくれるだろうか。

 人によって価値観はそれぞれで、みんなが僕のように考えるわけではない。

 それぐらいは狭い考えの僕でもわかる。

 絶対に許せないと思っているかもしれない。

 信頼関係とは築くのにすごく時間がかかるのに、壊れるのは一瞬なんだなと感じた。

 ちらっと彼女の方を向いたけど、彼女はぼーっとしていた。

 僕は彼らの態度が変わるのを目のあたりにしても、彼らのことを見限ることはできなかった。

 まだ彼らのことを信じている。

 そして気になったことがある。

 どうしてネット関係を壊し冷たい言葉を放ったその瞬間に、彼女は僕の手を握ってくれていたんだろうか。

 暖かくてすごく落ち着いた。

 そのお陰で心がぐちゃぐちゃにならなくてすんだ。

 もちろん、そもそも壊した張本人は彼女なんだけど、最後まで冷酷でいない気がする。

 そういえば、親との関係を壊した後も、黙って僕のそばにいてくれた。

 どこかに行くこともできたはずだ。

 それなのに、僕のそばにいてくれた。

 彼女は、もしかしたら僕を守ってくれてくれているのだろうか。

 彼女が意味もなく人を傷つける人にはどうしても思えなかった。

 彼女のことは確かに知らない。聞いても教えてくれない。

 それでも優しい人だと感じることができた。

 彼女はあなたの信じているものが脆いからそれをわからせてあげると最初に言っていた。

 こんなひどいことをしているのが、もしかして僕のためだったとしたら?

 本当に何かをわからせようとしているのだとしたら?

 あくまで仮定であって、真実は聞いてみないとわからない。

 なぜこんなことをしているのかしっかり聞こうと思った。

 こんなことをされても、僕はまだ彼女を信じていた。


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