二節 「最後に壊すものは」

「美月の信じてるものって何?」

 僕は思い切って、彼女に聞いてみた。

 彼女の素性や目的はいくら聞いても教えてくれない。一緒に住みだしてから何度も聞いている。

 それとは別に、僕は信じることについて彼女の答えを聞きたかった。

 他人の信じているものを壊していく彼女が何を信じているか知りたかった。

 そして、なぜそれを信じているのか知りたかった。

 僕はだんだん信じるということがわからなくなってきているのかもしれない。

「答えたくないわ」

「なんで?」

 僕はもう少し踏み込んでみた。胸がドキドキしている。

「私が最後まで信じ切ることができなかったから」

 彼女から意外な答えが返ってきた。

 信じ切ることができなかった?

 彼女の言葉を頭の中で繰り返す。

 一体どういうことだろう。

 彼女が信じていたものって一体なんだろう。

「それより、次は何を壊すかわかるよね」

 彼女は窓から空を見ながら、話を自分の方へもっていった。

 彼女はよく窓から空を見ている。

 毎日のように降る雪を飽きることなく見ている。

 さすがの僕も、今回はわかった。

 というか、それ以外考えられない。

「しおりとの関係性」

「正解ー」

「全然当たっても嬉しくないんだけどね」

「でもこれで最後だから、いつもみたいに付き合ってよ」

 彼女は少し申し訳なさように言った。

 どうしたのだろう、彼女らしくない。

 そして、これで最後なのかと少し驚いた。

 それと同時に少し悲しくなった。

 彼女は僕が信じているものをすべて壊すと言いていた。

 それはつまり、僕にとって信じられるものはこの世に三つしかないということだから。

 他人が聞けば寂しい人生だろうか。

「どうせ僕には決定権はないんだし、僕は美月を信じてるよ」

「じゃあ早速しおりさんと会う日の約束をしてくれない?」

「えっ、いつもみたいに急にいかないの?」

 僕はびっくりした。

 振り回すのは彼女の得意なことだ。

「今回はあなたが約束することが重要なの」

「わかったよ、すぐ電話する」

「しおり、急にごめんね。今電話大丈夫? うんうん、前の人は大丈夫だよ」

 しおりはずっと心配してくれていたようだ。

「ちょっとしおりに話したい大事なことがあるんだけど、いつ予定空いてる?」

「明後日の昼間なら大丈夫」

「じゃあ明後日の十二時にいつもの場所で待ち合わせでいい?」

 この時期僕たちはよく大きなクリスマスツリーの前で待ち合わせすることが多い。

「いいよ、楽しみにしてる」

「じゃあねー」

 しおりの声を聞いて、元気が出た。

 でもすでに騙しているので心が苦しかった。

 僕はこれで何度人を騙したのだろうか。本当は騙したくなんかない。

「あと言い忘れたけど、今回はあなた一人で行ってね」

「えっ、それでいいの? 僕が言われた通りの言葉を言うとは限らないよ?」

 僕は彼女はついてきて、その現場を見ることも彼女の目的のような気がしていた。

「そこは、あなたを信じているから。でも終わったら必ず私に電話してきて」

 また彼女から優しさがこぼれる。

「美月から信じてるって言葉が出るなんて逆に怖いなあ」

 彼女が何を信じているか僕は知らない。

「明後日、必ずこの一言を伝えて」

「一言でいいの?」

「それだけで十分効果があるから」

 僕はその言葉を聞いたとき、そんな言葉が何の意味を持つのだと不思議で仕方なかった。



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