三節「SNSの壊し方」

「まずは「助けてください」とだけ投稿して」

 僕は言われた通りに携帯打ち込む。

 手先が冷たい。僕は冷え性なんだ。

 ソファーに二人で移動し、そこで指示を受けている。

 水色のソファーは、やはり座ると落ち着く。大きいので二人で座ることもできる。

 いきなりそんなことを書き出されたらビックリするだろうと僕は申し訳なくなった。


どうしたの?

大丈夫?

何かあった?


 次々にネット上で返事が返ってくる。

 僕は少しほっとする。

 いつものように優しい人々の声が聞けたから。

「次に「今からある住所を書くのでここに来てください。理由はまだ言えません。信頼出来るのはあなた方しかいません」と投稿して」

 彼女は感情を込めることなく、淡々と話する。

 彼女の意図がいまだにわからない。


えっ、マジでヤバいやつ?

どうする?

警察呼んだ方がよくない?

むしろここに個人情報載せちゃダメ

あえて載せるなんて何かあるかも

悪いこと企んでるとか?

確かにそれはありえるかも

事件性あり?

怖い


 ネットはすごい勢いで話が変わっていく。

 炎上しそうな勢いでどんどんコメントが増えていく。

 さっきとは少し違う反応が返ってきている。

 なんだかおかしい。

 どうしてそういう風にとらえるのだろう。

 僕の投稿は何かおかしかっただろうか。

「律、今からさっきの住所の場所に行くよ。律のことを本当に心配してくれてる人がいれば、駆けつけてくれるはずだよね?」

 彼女は立ち上がり、すぐに外に出ていった。

「わかった」

 僕は急いで上着を羽織ってついていった。

 僕はコメントはできなかったけど、心配してくれている人はいると思っていた。

 僕の心をずっと支えてくれていたSNSなんだから。

 辛いときはいつも励ましてくれた。

 そこには目には見えないけれど、確かに信じられるものがあった。

 信頼できる他人がいた。

 僕の家から近くの公園だったので、その場所にはすぐに着いた。

 人はほとんどいない。

 遊具も少なく、活気がない。

 僕たちは唯一ある古びた気のベンチに座った。

 そこで、二時間ぐらいずっと待っていた。

 その間彼女は何も話しかけてこなった。

 結局、人は数人来たけど、誰も僕には声をかけてこなかった。

「何で会ったこともない人を信じようと思えるの?」

 彼女は突然ため息をつきながら僕に話しかけてきた。

 ため息さえ白く染まる。

「仲良くしてるから」

「それは、会話を交わして仲良くなっている気がするだけ。自分と他人を天秤にかけて、自分が傾くようならその行動はしない。それが普通よ。あなたが信じていたのは、上辺だけの生ぬるい関係なのよ」

 彼女は話を続ける。

「そもそも壊す前に、出来上がってすらいなかったのよ。あったこともない他人よ? どうとも思ってないわ。だからこんなに簡単に証明できた。信じてたのはあなただけ」

「僕が何かを信じるのはダメなことなの? なんで美月はこんなことするの?」

 僕は少し心が折れかけていた。

 親には縁を切られ、心の支えであったSNSも本当は信頼関係すらない空っぽなものだと言われた。

 そこで彼女は黙った。

 何か考えているようだった。

「私がしてることに意味なんてあると思うの? なんでこんなことされても私を信じるの? ただ私はあなたが信じているものを尽く壊したいだけよ。それ以上でもそれ以下でもない」

 冷たい言葉だった。

 でもそんな言葉を言いながらも、彼女は僕の手をぎゅっと握ってくれていた。


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