二節 「日常と次に壊すもの」

「おはよう」

 彼女が挨拶してくる。

 太陽の光が窓から入り込んでくる。

 気持ちのいい朝だ。

 僕は窓を開けた。

 冬の朝は空気が澄んでいて僕は好きだ。

 家で誰かと挨拶するのは久々だなと思いながら、僕も返事を返す。

 挨拶を無視するほど、僕は冷たいことはできない。

 しかし、彼女がいるのにどうにもまだ慣れない。

 一方、彼女は、前からこの部屋にいるかのようにソファーでテレビを見ながら普通に過ごしている。

 僕と彼女の間にはギャップがあるようで、僕はなおさら混乱する。

 僕はキッチンに向かった。彼女のいるソファーからそんなに遠くはない。そもそも、そんなに広い家ではなく、部屋は2つとキッチンしかない。でもキッチンでコーヒーを飲むスペースぐらいはある。

 そして、僕はコーヒーをいれた。

 普段の行動をしようと思ったからだ。

 コーヒーを飲みながらネットをするのは僕のルーティンのようになっている。

 彼女も僕の普段の生活まで首を突っ込んでこない。

 ただ毎日部屋にいて何かをしているだけだ。

 ネットを見るのは暇つぶしにもなるし、なんだか安心する。

 みんながネットに夢中になる気持ちがわかる。

 お手軽だし、楽しいし、トレンドも知れる。

 さらに承認欲求も満たすことができる。

 ネットの発達は著しくて、ちょっとしたことをSNSに書き込んだぐらいですぐに拡散される。

 僕はコーヒーの香りを楽しみながら、いつもやっているSNSに記事を書くことにした。

 最近撮ったインスタ映えする花を載せることにした。

 僕はあまり外出しない。必要な時以外、外に出ない。

 そんな外部の人と接触しない僕にとって、このSNSが僕の日常の全てだった。

 ここには僕を分かってくれる人がいる。

 色々不具合がある僕の居場所がある。

 どこかでつながっている気がしてならない。

 会ったこともないのに、僕はこのSNSの人たちを信頼していた。

 会ってみたいとさえ思っている。

「そうだ!」

 彼女は急に僕の後ろから話しかけてきた。きっとソファーから走ってきたんだろう。

 僕は音にも敏感だから、いきなり大声を出すのはやめてほしい。

「今度はSNSの関係性を壊そうよ。もちろん協力してくれるよね?」

「わかったよ。僕は信じているから」

「なんでそんなに信じれるかなあ? 本当に不思議。もしかして意固地になってるだけ?」

 彼女はさらに近づいてきて、本当に不思議なものを見る目で見つめてきた。

「意固地になってない。純粋に信じてるんだ。おかしいことじゃないと思うけど。そもそもおかしいのは、」

「じゃあ、さっそく始めようか」

 僕の話なんて一向に無視して、彼女はいたずらが思いついた子供のようにはしゃいでいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る