三章

一節 「同居しよう」

 人が信じていないものとしては、自分と関わりのない他人ではないだろうか。

 でも他人でも信じられる時もある。


「ここ、僕の家なんですけど」

「そんなの知ってるわよ」

 こんな会話を僕の家の前で繰り広げてた。

 あれから彼女は僕についてきた。どこかで別の方向に行くだろうと思ってたけど、家までついてきた。

 彼女はそこにいるのが当たり前のようにしている。

 しかし、やっぱり何でも知ってるんだと改めて驚く。

 彼女は一体何者なんだろう。

 謎は深まるばかりだ。

「そういうことを言ってるんじゃなくて、なんでここまでついてくるんですか」

「今日から私、律の家に住み始めるね」

 ぎゅっと腕にくっついてきた。

 過敏だから少しぞわっとした。人に触られるのはあまり好きじゃない。

 先ほどまでの親の話の時の態度はどこにいったのだろうか。

 本当に心が読めない人だ。

 コロコロ表情が変わってそれについていけない。

 まあもとから人の心には、僕は疎いのだけど。

「何でですか?」

「それは、私たちはもう人には言えない関係だし」

 少しほほを赤めているのが、憎らしい。断じて何も進展していない。むしろ僕たちの関係は悪化しているはずだ。

 彼女が僕との関係を作らず、周りの関係を壊すから。

「何もしてません」

「うふふ、そんなとぼけないで。私たちは共・犯・者。親騙してるでしょ?」

 彼女は楽しそうに話しているけど、全然和やかではないし、笑えない。

 悔しいけど、この件に関してはその通りだからだ。

 お父さんとお母さんには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 本当はすぐにでも連絡したいけど、それは彼女の指示でできないことになっている。

 きっとそれにも意味があるんだろうと僕は彼女を信じている。

 彼女が爽やかな顔でずっと見つめてくるので、バカらしくなって諦めた。

 そんな顔もできるのかと憎らしくなってきた。

「もう勝手にすればいいですよ。でもソファーで寝てくださいね」

 僕の部屋にはソファーが置いてある。そこで、横になって映画を観るのが僕の楽しみ一つなのだ。

 そこを譲ってあげるんだから、少しは感謝してもらいたい。

 彼女は「やったー」と叫んでいた。

 こうして彼女との奇妙な同居が始まった。

 家の前にはランタナの花が赤く咲いていた。

 少しだけ心が癒されたのだった。



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