二節 「家族の壊し方」

「お父さん、お母さん、ただいま」

 いつもきれいにされている玄関がお母さんの性格を表している。

 潔癖とまではいかないけど、いつもきれいにしている。

「あら、急にどうしたの?」

 お母さんはエプロン姿ででてきた。ご飯の準備でもしていたのだろう。

 手先が荒れている。

 いつも家事をしてくれているからであろう。 

 急に来たのに、笑顔で迎え入れてくれた。

 それを見てほっとした。

 ここが僕の居場所なんだといつも思える。

「はじめまして、私、朝比奈美月と申します。本日は挨拶に参りました」

 彼女はいきなり顔を出して、話し始めた。

 ちなみに来る前に、彼女はスーツに着替えてきている。

「まあ、律、いつの間にこんなかわいい彼女できたの?」

 僕がいきなり帰ってきて、女性を連れてきたらそういう反応になるなとげんなりした。

 彼女を連れてきたことなんてないのだから驚くのはわかるけど、あまりにも喜んでいるのを見ると後ろめたい気持ちがでてくる。

 本当は彼女は何でもないのだから。

 むしろ、彼女が何者かさえ知らない。

「まあ、そういうところ。玄関で話すのもなんだしあがってもいい?」

 僕は彼女に言われた通り、彼女の発言に合せた。

「あなたの家なんだから、当たり前じゃないの」

 お母さんは快く家の中にいれてくれた。

 今日はお父さんも休みで、家にいる。

 お父さんの休みは土日だ。

 公務員で、すごく厳格な父だ。

 親がしっかりしているから、僕もそうしなきゃといつも思っていた。

 もしかして彼女はそんなことまで知っているのだろうか。

 僕たちは客間に通された。

 実家は部屋の数が多いと昔から感じていることだった。

 客間は花がいけられていて、掛け軸もあり、落ち着いた雰囲気がした。

「お父さん、お母さん。いきなりですが、本日は話がありお伺いしました」

「美月さん、そんなかしこまらなくていいですよ」

 お母さんはお茶菓子とお茶を出してくれた。

 僕はついそちらに気がいった。別に甘いものが好きなわけではない。視覚的に見えたものにすぐに気が散ってしまうのだ。

 よく集中力がないと子供の頃は先生などに怒られた。

「いえ、大事な話なので。そうですよね、律さん?」

「うん」

「私たちはお付き合いを最近始めて、結婚も視野に入れています。しかし、私の家系に問題がありまして……」

「どうしたんですか? 息子が選んだ人なら反対はしませんよ」

 お母さんは僕のことをいつも尊重してくれる。僕にしたいようにしていいと言ってくれる。それで僕は自分らしく生きられた。すごく助けられたと思っている。お母さんがいたから僕は生きづらい世の中でやってこれた。

 それが今でも感じられてすごく嬉しい。

「はい、それが代々続く犯罪家系なんです。もちろん、私は犯罪などしてません。しかし、父は殺人を犯しましたし、祖父は詐欺師でした」

 そこでお母さんたちの顔色が変わった。

 そして部屋の空気が冷たくなった。

 彼女はそんなこと関係なしに話をどんどん続ける。

「それでも、律さんは一緒になろうと言ってくれました。しかし、親御さんがきっと反対されると私は言いました。そうですよね、律さん?」

「うん、だから今日話に来た」

「そんな結婚反対よ。あなたが不幸になるわ」

 お母さんは立ち上がって言った。

 今回のは嘘ではあるけど、お母さんがなんでそんな風に感じるのか僕にはわからなかった。

 不幸になるかどうかは自分以外の人が決めることだろうか?

 不幸になると言う言葉が頭に残った。

「そうですよね。でも律さんは親御さんが反対するなら縁を切ってでも私と一緒になってくれると言いました。そうですよね、律さん?」

「うん」

 嘘だとわかっていても、なんでこんなことをするのだと思った。

 こんなことをしても親子の関係性は変わらないのにと僕は思った。

 さすがにすぐに解決策はでなくても、お互いに歩み寄ることはできる。

 これも一つの問題でしかないと僕は考えている。

 固く結ばれた絆がほどけるほどのことではない。

「ふざけるな、じゃあ縁を切る。その子を連れて早く家から出ていけ」

 ずっと黙っていたお父さんが声を上げた。

 その声は家中に響き渡った。

 お父さんが怒鳴るのをきいたはいつぶりだろう。

 どうしたというのだろう。

 お母さんは泣いていた。

 それっきり話は終わり、本当に家から追い出された。

 僕はただ愕然としたのだった。



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