四節 「優しい友だち」

 基本的に一人を好む僕にも、信じられる友達が一人いた。

 その人は女の人だった。

 星宮ほしみやしおりという名前だ。

 僕と同じ年で、幼稚園からずっと一緒だからもう長い付き合いになる。

 女性らしくおとなしい性格で、聞き上手だ。

 僕は男の人より、女の人の方がなんだか話しやすく感じる。

 男の人は少し怖いイメージがある。

 それになぜか女の人の方が、話が色々合うというのもある。

 その人と今日は会う約束をしていた。

「律、遅れてごめん」

 お昼を過ぎているので少しだけ暖かい時間。太陽が暖めていた。

 長い髪やマスタードカラーの鮮やかなロングスカートを揺らしながらしおりは走ってきた。

 大きな目からは今にも涙が落ちそうになっている。

 しおりはよく気持ちが表情に出る。

 しかし、遅れてくるのはいつものことで、しおりは時間を守るのが苦手だ。

 僕はそれには慣れっこだったし、嫌な気分もしていなかった。

 人間には得意なことと苦手なことがある。

「しおり、大丈夫だよ。そんなブーツで走っているとこけちゃうよ?」

「ありがとう。律はいつも優しいね」

 僕たちはいつも行っているカフェに入ることにした。

 店内は静かで落ち着いた雰囲気がするところだ。昭和な感じも少しする。カフェというより喫茶店という言葉がしっくり来る。

 でも小さなクリスマスツリーが一つだけ置かれていて、少しだけ華やかもあった。

 一つのアイテムでこんなにも変わるんだなあと僕は驚いていた。

「ココアおいしいー」

 しおりは楽しそうに笑っていた。

 ココア一つで幸せになれるしおりを僕はほほえましく見ていた。

 こんな風にしおりはよく感動する人だ。小さなことでも感動して涙したりする。

 でもそれは、心がきれいだからではないかと僕は思っている。

「そうだね。すごく美味しい」

 しおりは飲んでいたココアをそっとテーブルに置いた。

「律、なんかあった?」

「えっ、どうして?」

 僕は笑顔で答えたけど、内心すごくドキッとした。

「なんかいつもと違うから」

 相手の変化に敏感なところもしおりのいいところだ。

 僕はなかなか相手の気持ちがわからないから、そんなしおりを純粋にすごいと思う。

 そして、しおりは話をすれば、どんなことも受け入れてくれる。

 僕自身もどんなことでも話することができる人だと思っている。

 そばにいて心が暖かくなる。

 僕が少し考えてから、今起きている不思議なことを話そうとした時だった。

「あなたの信じてるものすべて壊してもいい?」と例の彼女が目の前に急に現れたのだった。



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