第24話 守りたいもの
「で、誰にすんの?」
当たり前のようにユウスケのベッドでくつろぐ桃華に、もはや突っ込む気持ちも失せながら、ユウスケはため息をついた。
「そんなの、今の時点で決めれるわけがないだろう。」
三人の顔を順番に思い浮かべる。
「そりゃ、優柔不断なお兄ちゃんはそうだよねえ。桃華が決めてあげよっか?」
にやにやしながら桃華は言うが、ユウスケは真剣にどうすればよいのか考えていた。誰かを選べば、誰かが傷つくのかもしれなかった。そして、誰かが傷つくというのはユウスケにとって本意ではないことだった。
「もういっそ残りの四日間はみんなで過ごすのもありだよな?そもそも平日なんて、みんな忙しいんだし、夕食だけ一緒にとったところで大したコミュニケーションにもならないだろう?」
ユウスケはそういうが、桃華はあまり納得しない表情を見せた。
「そんな感じで、どうやって結婚相手を決めるわけ?お兄ちゃんが優しいのは知ってるけど、これは優しいだけじゃ解決できない問題だよ。」
それも一理ある意見だった。
こういったことを避けるためにも、まずは敵を知りこの馬鹿げた制度を終わらせるための糸口をつかまなくてはならない。
そのためには、まずは、三人に対してこの制度についてどう考えているのか?そして、今後この世界を変えていく気があるのか?それを確認する必要があった。
「桃華はさ、この制度についてどう考えてんの?」
ユウスケの言葉に、桃華は固まる。先ほどまで饒舌に話していたのが、うそのようだった。やはり彼女にとってもこの制度によって心に大きな傷を負ったのは間違いないようだった。
「…いきなり、私の場所を奪われた、と思ってる。でも、これをどうにかするのは無理だって、早乙女さんに聞いて。あきらめるしかないのかと、思ってる。」
小さな声で絞り出すように言った桃華の言葉に、ユウスケは気が付いたことが一つあった。
「あ…!早乙女さん…!」
早乙女の顔を思い浮かべる。
彼女を味方に招き入れるのは、一番の近道であるようにユウスケには感じられていた。
「早乙女さん?」
不思議そうな顔で桃華は首をひねった。
桃華に対してはまだこの制度をどうにかしようという話はやめておこうとユウスケは考えていた。
「いや、早乙女さんに相談してみようかなー、と!」
苦しいユウスケの言い訳に、桃華は納得していないように首をひねったままである。
「お兄ちゃんさ、この数年、私が冷たい態度をとってたこと、どうも思ってないの?」
おもむろに聞く桃華に、ユウスケは
「そりゃさみしかったさ。小さい頃はお兄ちゃん、お兄ちゃん、ってついてきてたくせに、中学校に入った途端に口きいてくれなくなったしさ。」
と答える。
「そうだよね。」
少し寂しそうに桃華は言う。
「実は、中学に上がって、お兄ちゃん、お兄ちゃん言うのはおかしいってバカにされちゃってそれからあんな態度をとってしまったの。ごめんね。」
ユウスケは驚いて桃華の顔を見た。まさかそんな事情があるとは思いもよらず、ただ単に反抗期だと決めつけていたのだった。
「そうだったのか。いや、別にいいよ。」
「本当はずっと気になってたの。ごめんなさい。」
珍しく素直な桃華に、ユウスケは幼い頃の桃華を重ね合わせる。
小さい頃の桃華は、引っ込み思案で、しかし、ユウスケの前では明るくよく話す子供だった。影響を受けやすいような中学時代に友達にそう言われて冷たい態度をとってしまったという妹を、責める気にはなれなかった。
「これからは、お兄ちゃんのこと支えさせてね。」
そういう桃華を見つめながら、この子を守るためにも頑張らねば、とユウスケは心を新たに思うのだった。
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