第22話 妹、参上!!!

 「お兄ちゃん!」

 朝早くからバタバタという音を聞きながら、それでも寝ぼけ半分だったユウスケの目の前に、桃華のアップが飛び込んできたのは、翌朝だった。

 前日夜遅くまで寒い海にいたことがたたってか、ユウスケはだるい体を起こしながら、引っ付いてくる妹を引きはがした。

 まるで、小学生のころどこにでもついてきていた桃華に戻ったようだ、とユウスケは懐かしくも感じる。

 「おはよう。今朝着いたんだね。」

 ユウスケの言葉に、桃華はものすごい勢いで首を縦に振った。

 「早乙女さんが全部手配してくれて、桃華は一階の物置部屋を改装したところに入れることになったの。物置部屋、とかいうけどうちの部屋より広いくらい。」

 目をキラキラさせた桃華が一息にしゃべるのに、寝起きのユウスケはついていけなかった。

 「あ、そうなの。俺ちょっと眠いなあ…。」

 ユウスケの言葉が耳に入らないかのように、桃華はこっち!とユウスケの腕を引っ張った。やれやれ、とユウスケは腰を上げて桃華についていく。

 「ほら、見て!めっちゃかわいいでしょ??」

 桃華がユウスケを連れて行ったのは、階段のちょうど横にある部屋だった。隠し部屋のようになっているためか、ユウスケはここに部屋があることすら気が付かなかった。

 中に入ると、ユウスケの部屋ほどは広くないものの、生活するには困らないスペースがそこにはあった。

 さらに、桃華の好きな薄ピンク色で統一された室内を見て、妹がこんなにテンションが上がっているのがユウスケにはやっと理解できたのだった。

 「ベッドもものすごいふっかふかなの!」

 ベッドの上ではねる桃華の、やや不自然なテンションに、ユウスケは心配になる。

 最近は反抗期だった桃華の、この不自然な変わりようは、やはりランク通知で落ち込んでいた分、カラ元気なのではないか、と思えてならないのだ。

 「その、この一週間くらい、ちゃんとやってたのか。」

 ユウスケは心配な気持ちで桃華にたずねる。

 「ああ、うん。お兄ちゃんがこっちに来てからすぐに早乙女さんから連絡があって。さすがにFランク通知はかなり落ち込んだけど…。」

 でも、と桃華は言葉をつなげた。

 「お兄ちゃんのこと、見直しちゃった。なんか、何にも考えてないボケーっとしたやつに成り下がったな、と思ってたけど。ちゃんと家族のこと考えれるあたり小さい頃とあんまり変わってないって、分かったし。」

 「何も考えてないボケーっとしたやつ、っておまえ…!」

 妹に少なからずそう思われていたことに、ユウスケは少なからずショックを受ける。

 「だからー、今回の件で見直せたから、逆に良かったんじゃん!」

 ベッドの縁に腰かけて桃華がけらけらと笑う。

 「え?それよかったのか?ってか、父さんと母さんは?学校はどうする予定なんだ?」

 自分で桃華をこちらに呼び寄せておきながら、ユウスケは疑問が次々と湧いてきてしまい、質問攻めにしてしまう。

 「もう、ゆっくりさせてよね。お父さんとお母さんは平凡なランクだし、普通に生活してるよ。」

 学校は、という質問には少し答えにくそうに桃華は話した。

 「前の学校では、Fランクがばれちゃってて。ちょっと居づらいっていうことで、こっちで新しく学校見つけてもらってそっちに行く予定。やっぱりFランクだと少し生きにくいね。」

 嘘笑いを浮かべながら話す桃華を見ると、やはり心が痛む。

 円花の言うように、自分たちがこの世界を変えることが、一番良い方法なのだろうとユウスケは改めて感じる。

 「あっ、でもね、新しい学校、前の学校よりやりたいことも自由にできそうだし、楽しみなんだ。」

 険しい表情のユウスケを気遣ってか、桃華は明るく言った。

 「やりたいこと?」

 ユウスケの質問に、あっ、と桃華は口を覆った。そういえば、桃華の将来の夢なんかは初めて聞くような気がする。

 「まだお兄ちゃんには内緒!」

 「なんだよ、なんで教えてくれないんだよ!」

 桃華に抗議しながら、ユウスケは、二人の時間が幼い頃に戻ったような感覚がして、幸せな気持ちをかみしめる。

 「そういえば、聞いたよー?お兄ちゃん、お嫁さん候補三人いるんでしょ?桃華のお姉ちゃんになる人だから、桃華もきちんと見極めさせてもらわないとね?」

 ウインクをする桃華を見ながら、ユウスケは、めんどくさいやつが一人増えてしまったのかもしれない…とひそかに思ったのだった。

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