第18話 海岸での対話
部屋で眠る、と言っていた円花をどこでどう待っておけばよいのか困惑したユウスケは、とりあえずはロビーのソファーに腰かけて待つことにした。
大きめの正面にある階段がよく見える、窓の横に置かれたソファーとローテーブルのセットは大理石柄で、ユウスケは意味もなくテーブルの縁をなぞったりして時間をつぶしていた。
結局円花が現れたのは、夕方で赤い日差しが窓から差し込んでくる頃だった。
待ちくたびれたユウスケは、すっかりソファーに腰を沈めて爆睡しており、頬に冷たいミネラルウォーターのペットボトルを押し付けられて目を覚ましたのだった。
「つめたっ!」
ユウスケが小さく悲鳴を上げたのに全く興味なさげに円花は
「行くわよ。」
と言い、慌てるユウスケを置いてさっさと玄関を後にする円花を慌てて追いかける。
「ちょっと待ってよ。俺、ずっと待ってたんだからね。」
ユウスケの言葉を全く意に介さず、円花はただ早足で歩いた。
円花についていくと、どんどん街はずれへと向かっていくことにユウスケは途中で気が付いた。スーパーやコンビニすらもどんどんなくなっていく。
さらに、長い間歩いていると、陽もどんどん落ちていき、少しずつあたりは暗くなり、民家には明かりがともっていった。
「どこまで行くんだよ。」
小一時間ほど無言で歩き続ける円花に、ユウスケはようやく話しかけた。その話しかけにくい背中に何とか語り掛けた、ともいえる。
「あと少しで着くから。」
円花は言い、やはり歩き続ける。
脚は痛いし、街灯もないような道に差し掛かってくると、ユウスケはこのまま一人で帰ってしまおうか、という気持ちがわいた。
しかし、優柔不断で優しすぎるユウスケにはそんなことはできなかった。
ユウスケにできることは、円花の背中を追い続けることだけだった。
草木をかき分けて道なき道を行く円花を、ユウスケはいったい何がしたいのか不思議な気持ちで追いかける。
「着いたわ。」
円花がそう言って腰を下ろしたのは、白い砂浜だった。
昼間は美しいのかもしれないその海は、陽が落ちてしまった今ではすっかり鉛色で、ユウスケはうっかり飲み込まれやしないか不安な気持ちになる。
「そこにでも、座ったら。」
円花は自分の隣を指さした。
ユウスケは「じゃあ…」と円花の隣に腰を下ろした。
さざ波の音が、ユウスケを不安にさせた。これから円花が話すことは、おそらく良い話ではないのだろう、とユウスケは予想していたが、その不安をあおっているかのようだった。
「あんたはさ、」
円花はしばらくしてから口を開いた。
「この制度、おかしいと思わない?」
円花の問いかけに、ユウスケはゆっくりと頷く。
突然のこの制度、そしてSランクの中でも特にSSSランクが優遇される理由の謎。口にはせずとも、みんなが感じているであろうことだった。
「確かに、おかしい。けど、俺は妹がFランクである以上、妹を守るためには、このおかしな制度から逃れることはできないんだ。」
ユウスケは思い切って円花に自分の心の内を話していた。単純に、自分の身の上の話を誰かに聞いてもらいたいという気持ちもあったが、一番は、円花がこれを聞いて心を開いてくれ、円花自身の話も詳しく聞けるかもしれない、という打算もあった。
「そう…。妹さんが…。」
さすがの円花もやや動揺しており、一時沈黙が流れる。
その間も、さざ波の音は絶えず聞こえており、ユウスケは次に何を言うべきか、頭の中で懸命に組み立てていた。
「長谷川さんは…。」
どうして参加したの、というユウスケの質問を遮り、円花は一つの質問をユウスケに問いかけてくる。
「人をたくさん救うには、どうしたらいいと思う?」
突然の円花の質問に、ユウスケは面食らってしまう。
「そりゃ、医者になって治療をする…とか。」
ユウスケの言葉に円花は首を横に振る。
「政治よ。」
円花ははっきりとそう言った。十代の女の子が口にするのが意外にも思えるその三文字を、円花ははっきりと口にしたのだった。
「政治…。」
ユウスケはぼんやりと復唱した。
「SSSランクは、歴史的な政治での偉人を前世に持つ人たちの集まりよ。――私の仮説だけどね。」
前を向いた円花は、確信したかのような口ぶりでそう言った。
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