第14話 観覧車、そして、トラブル発生?!

 遊園地のシメはいくら何でも観覧車だ、という今日初めてのみみのまともな意見に従って、ユウスケは現在、観覧車に揺られていた。

 向かいでは、パンダを抱いたみみが嬉しそうに外の景色を眺めている。

 「さすがにここからじゃおうち見えないねえ。」

 もうすっかり暗くなったあたりではところどころ家の灯かりが見え、それらの温かい光は美しく見えた。

 「そうだね。」

 ユウスケが同意すると、みみは急に、こういった。

 「あのね、みみは小学生なんだからお嫁さんの候補?とかよく分からないんだけど、あの家で過ごすの楽しいし、もう少しあそこにいたいの。」

 「え?」

 突然のみみの言葉に、ユウスケは反応することができなかった。

 「みみのママ、すごく熱心だから。おうちにいると、毎日お仕事の練習とかばっかりなの。」

 「そうなんだ…。」

 ある程度予想していたことだった。いくらみみが売れっ子子役だとしても、この小さな体で頑張るには、限界があるに違いなかった。

 「こっちのおうちに来るのも、ものすごく反対されたんだけどね、みみ、パーティーで少しだけでもユウスケとさくらちゃんとお話できて楽しかったし、こっちのおうちだと、ご飯中にも台本の確認とかしなくてよくて、すごく楽で…。」

 そこまで言ったみみの目に、大粒の涙がたまって零れ落ちていく。

 「だから、みみのこと、お嫁さん候補から外して追い出さないで、お願いします。」

 細く、小さい指が力を入れすぎてパンダに食い込んでしまっていた。ユウスケは、すうと息を吸ってから、みみのその指を手で優しく包み込んだ。

 「大丈夫だよ。」

 ユウスケには、ただ、そういうことしかできなかった。

 実際に結婚候補について、みみを外すだとかそう言ったことは考えもしていなかったし、何より、みみのこれまで辛かったであろう気持ちが、痛いほど伝わってきていた。

 この小さな宝物を守ってあげたい、という衝動にも駆られる。

 「ありがとう…。」

 みみはそう言って涙をぬぐった。

 天才子役も形無しのブサイクな泣き顔が、ユウスケには不思議ととても愛らしく見えていた。


 ユウスケがゲットしたぬいぐるみたちを部屋に置いてくる、とルンルンで部屋に戻っていったみみが血相を変えてユウスケの部屋へきたのは、ユウスケが部屋でゲームを始めようかと椅子に腰を下ろしてすぐだった。

 「さ、さ、さくらちゃんが…!」

 あわあわと口をパクパクさせるみみの発言は全く要領を得なかった。

 さくらちゃんが、さくらちゃんがと繰り返すばかりで、ユウスケには何が起きたのかさっぱりわからなかった。

 「とにかく来て!」

 というみみに連れられ、ユウスケは階段を登る。

 心なしかフロアがいいにおいがするような気がするのは、やはり女子部屋があるからなのだろうか。

 さくらの部屋へずんずん入っていくみみにやや気後れしながらユウスケは部屋をちらりと覗いた。

 「さくらちゃん、大丈夫??」

 みみの心配げな声が部屋に響いた。

 よく見ると、さくらは中央のベッドで横になって苦しそうにしている。

 「えっ?!大丈夫か?!」

 思わず女子の部屋であることなど忘れて駆け寄った。

 「ん…。だいじょ、ぶ、ちょっと熱が急に…」

 苦しそうにさくらが言った。

 「さくらちゃん、さくらちゃん…!」

 みみも心配そうにさくらに声をかけるが、もうすでに使用人なども退勤しており、頼れる人はいない状態だった。

 どうすればいい…。

 ユウスケは頭をフル回転させる。

 熱だけなら慌てて救急車を呼ぶほどでもないが、放っておくわけにもいかないし、まずはタオルでも絞ってきた方が…。

 なんとかそこまで考えたその時、

 「なにしてんの。」

 入り口から声をかけてきたのは、円花だった。

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