第6話 最後の花嫁候補はまさかの…?!

 「わあ!ユウスケさん、久しぶり!」

 華やかな声を出しながら一番に食堂に現れたのは、さくらだった。淡い水色のタイトスカートとトップスの、のリブ素材のセットアップを身にまとっており、大人の女性らしいきれいなラインが服の上からでも見て取れ、ユウスケは少しどぎまぎしてしまう。

 「久しぶり。」

 素っ気ない返事をしてしまったことに少し後悔しながら、ユウスケは視線を手元に落とす。

 そこでユウスケは、あることに思い当たった。そもそも、女性経験なんて皆無な俺が選別なんて…できるのだろうか…、という点である。

 あわただしく引っ越しまで済ませてしまっていた故に深く考えていなかったが、一抹の不安がユウスケの心をかすめた。

 これまでの人生において、ユウスケは、女性経験というものがほとんどないに等しかった。年齢イコール童貞どころの騒ぎではない。そもそも、女性と話すこと自体がほとんどなかったのだ。

 女子を前にすると緊張するのはもちろんなのだが、そもそも女子と話す機会自体がなかった。桃華とすら口を利かないようになってからは、おそらく母以外と最後に話したのは小学生のころなんかに違いない。

 そんなユウスケが、これから結婚相手を選ばねばならないのである。選ぶ、ということは一人一人とかかわることが余儀なくされる。ワクワクよりも不安が大きいのは明らかだった。

 さくらはユウスケから見て左斜め前の席に腰を下ろすと、いつの間にか食堂にいたウェイターのような恰好をしたおばさんに、「赤ワインをください。」とほほ笑んだ。

 パーティーの時からうすうす感じてはいたが、どうやらさくらは酒を飲むのが好きなようだった。すぐに運ばれてきたワインの薫りを軽く楽しんでから、少し口に含む。

 その一連の動作は美しく、育ちの良さがにじみ出ていた。

 「ユウスケさんもどう?」

 そう言ったさくらの唇はワインの色が少し残っており、深い赤に染まった唇は、妖艶ささえ醸し出していた。

 「あ、いや、俺はまだ未成年なので…。」

 ユウスケがそう答え終わらないうちに、

 「ずるーい、みいちゃんもジュース飲みたい!」

 と言って駆け寄ってきたのは、先日のパーティーにもいた、みみである。ボブカットにそろえられた髪の毛は水玉模様のカチューシャで留めてある。小麦色の肌ときらきらと輝く大きな瞳が印象的だ。

 「みみちゃん、これはジュースじゃないのよ。オレンジジュースでももらったらどうかな?」

 さくらが優しくみみに話しかける。みみはうん!とニコニコして頷き、「オレンジジュースください!」と手を挙げた。

 さくらの向かいにみみが座る。だだっ広い食堂の一角に三人で窮屈に座らなくても、とユウスケは考えながら二人の様子をうかがった。

 言うなれば、いきなり知りもしない男の結婚相手候補として無理やり連れてこられているのである。一見友好的な雰囲気であるが、二人が内心反発していてもおかしくはない。

 もし、二人が嫌がっているのなら、無理に結婚相手として迎え入れる、というのはユウスケの信条に反することだった。まずはそこの意思を確認しなければ、と心に決める。

 「あの、もしこの結婚が、」

 嫌なら、と言葉をつなげようとしたその瞬間に食堂にまたひとり、人が入ってきて、思わずユウスケは口をつぐんだ。

 いや、口をつぐんだ、というよりは、最後の一人が視界に入ったその瞬間、身動きが取れなくなったといった方が正しいか。

 胸ほどまでの長く艶のある、黒よりも少し透明感のあるグレーがかった髪、すっと伸びた鼻筋、二重の、意志の強そうなまっすぐな瞳には、見覚えがあった。白いワンピースがとてもよく似合っている。

 「長谷川さん…。」

 ユウスケは小さな声でそうつぶやいた。

 そう、最後の一人は、高校時代にユウスケをきもいと言い放った、ユウスケの高校時代のクラス一の美少女、長谷川円花だったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る