第5話 転居、そして同居、開始?!

 パーティ翌日の早朝、早乙女からの電話で起こされたユウスケは、

 「お伺いしておきたいのですが、洋風と和風ではどちらがお好きですか?」

 という質問を食事のことだと寝ぼけ半分に思い、

 「どちらかと洋風ですかね。」

 と答えて電話を切っていた。

 その意味を知ることになったのは、その二日後の引っ越し後だった。

 「二日後には引っ越しとなりますので、身の回りの物をまとめておいてください。」

 ともその電話で早乙女は言っていたのだが、すっかり耳に入っていなかったユウスケは、ロールスロイスが家の前に止まっているのを見ておぼろげな記憶からそれをかろうじて思い出したくらいだった。

 戸惑うユウスケをよそに、早乙女は手際よくユウスケの部屋の荷物を運び込んだ。とはいえ、家具や家電、ゲーム機まで用意されているらしく、ユウスケが持っていかなければならないのは当面の着替えのみだった。

 息子があれよあれよと連れて行かれるのを、両親は「浪人したんだしちょうどいいだろう」とむしろ歓迎的に見送った。桃華だけはやはりうつむいて不機嫌そうにしており、結局家を出るまでにまともな話をすることはできなかった。

 車で別邸へと向かう間、早乙女は今後についててきぱきと説明をすすめていった。

 「村田様には、これから、三人の女性の中から結婚相手を選んでいただくことになります。今回は、そのための選別期間です。期限は一年となっておりますが、短縮すること、延長することは可能です。お二人はもうすでにお会いされていますよね。湖城様、高梨様になります。」

 手に持ったプリントをぱらぱらとめくりながら、早乙女は話す。

 「残り一人は…もうすでに村田様は顔見知りかもしれませんが、ご当人の希望もありますので、到着までお待ちいただけるとよろしいかと。」

 形式上申し訳なさそうな声を出したが、やはりその表情や声からは何か感情を読み取ることはできない。

 「何か質問はございますか?」

 「あの、妹の、桃華のことなんですが…。Fランクとなると、今後の生活はどうなるのでしょうか?」

 世間では、Fランクの人々に対する迫害が起こってきていた。実際、Fランクまで低い階級というのは前世は犯罪者か何かだろうという予測が大半で、Fランクであることが流失してしまったために芸能界引退に追い込まれた俳優もいたくらいだった。

 桃華がFランクであることも、今回の引っ越しの手続きの書類のうちの家族欄から、家族の知るところとなってしまった。

ユウスケの質問に、早乙女は少し間をおいて答えた。

 「意図するところではなかったのですが、現在Fランクの方に対する風当たりはかなり厳しいものとなっています。進学、就職など厳しくなってくることは予想されますね。」

 「あの、それって、俺の力で何とかしたりできないんですか。」

ユウスケの言葉に、早乙女は首を横に振った。

 「残念ながら、前世の評価というのは個人にされるものです。村田様のランクを桃華様に分ける、といったことはできませんね。例えば、村田様の給仕として雇うなどの就職の斡旋はできる可能性はありますが…。」

 「キュウジ?」

 ユウスケの頭の中で、某球団の抑えピッチャーがブン、と腕を振る。

 「ああ、ひらたくいえば、メイドさんのことですね。おそらくは過酷な環境での労働を強いられると思いますので、村田様が雇って差し上げるのが精いっぱいできることではないでしょうか。」

 メイドさんと桃華という全く相いれない二つの単語を頑張って融合させてみる。やはりいまいちイメージは湧いてこなかった。

 「桃華がイエスと言えばですけど、そうできるなら精いっぱいのことはしてやりたいかな…。」

 「わかりました。それでは、桃華様と連絡を取らせていただいて、必要な手続等も進めさせていただきますね。」

 早乙女は何かを手元のメモに書き込むと、外に目をやった。

 「着きましたね。三人ともお待ちですよ。中へまいりましょう。」

 早乙女に促され車を降りると、玄関の前の庭には噴水があり、広い玄関からは大きな階段が見えた。

 「とりあえずは、食堂での顔合わせの予定となっております。こちらへ。」

 階段を登り、奥の部屋へと入る。足元の絨毯は毛足が長く、スリッパがとられそうになるのにユウスケは注意しなければならなかった。

 映画でしか見たことのないような長い机に燭台、そしてその中央、いわゆるお誕生日席に誘導されたユウスケは、そのふかふかの席に着いてからあたりを見回した。

 きれいな食堂には他に何も無駄なものがなく、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 「それではお連れしてきますのでいったん失礼いたします」

 早乙女はそう言って退室していった。

 いよいよ、嫁候補の三人が現れてくるらしい…実感がわかないながら、ユウスケは緊張するのを感じた。

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