第4話 俺に課された使命

二十二階に着くと、ショートカットの美人な女性がユウスケたちを出迎えた。美人だが、表情はなく、感情を読み取ることはできない。

 「お待ちしておりました。村田様に、湖城様ですね。」

 ユウスケが名乗るより前に、その女性は言った。

 「わたくし本日の案内係を務めさせていただきます、早乙女と申します。お二人とも同じ会場ですので、わたくしがご案内させていただきます。ついてきてくださいませ。」

 早乙女と名乗った女は、そう言うとくるりと背を向け、再びエレベーターへと乗り込んだ。そしてポケットから取り出したカードキーを最上階である三十五階のボタンにかざすと、ボタンが点滅し始める。

 「え、このエレベーター、どこに向かうんですか?」

 さくらが聞くと、早乙女は表情を一切変えずに、

 「三十六階でございます。」

 と答えた。高所がやや苦手なユウスケは、脚がややすくんだ。

 チン、という控えめな音が鳴り、早乙女はエレベーターを抑えて降りるように二人を促す。エレベーターを降りた先には、重厚な革張りの大きな扉がずっしりと構えていた。

 「こちらへ。」

 早乙女が誘導するのをぼんやりと眺めていたユウスケは、はっとして、

 「あの、すみません。俺、人違いかもしれなくて。」

 と早乙女に訴えた、はがきを取り出し、早乙女に自分と妹のランクの欄を指さしてみせる。

 「たぶん、妹と俺のランクが逆だと思うんです。」

 早乙女はユウスケの方をちらりと一瞥してから、

 「いいえ、間違いはございません。」

 とだけ、答えた。「いや、でも…。」と口ごもるユウスケに、「とくにSSSランクの方で間違えが生じることはあり得ません。何度も確認されているはずですから。」と愛想なく言い放つ。

 SSSランク?Sランクの中でも、一番上、ということなのか???ユウスケの頭の中は、すぐに?でいっぱいになってしまい、それ以上何も言えなくなったユウスケは、おとなしく早乙女についていく。

 早乙女は革張りの扉を開き、

 「こちらです。」

 とまた愛想なく言い、扉を閉めてどこかへと去っていった。

 扉を開いた先には、ワインやシャンパンが並べられているエリアや、巨大な鶏の丸焼きや見るからにおいしそうなローストビーフなどの肉料理やカニなどが置いてあるエリア、おしゃれな一口サイズのスイーツが並べてあるエリア、などに分かれており、広大なスペースに所狭しと豪華な食事が並んでいる。

 「わあすごい、この年のロマネ・コンティってものすごく高価なのよね?」

 さくらがワインを一つ手に取りそう言ったが、ユウスケにはその赤い液体の価値はさっぱりわからなかった。見回すと、ユウスケとさくらの他にいるのは二人だった。

 初老らしきグレーのスーツを着た品の良さそうなおじいさんに、まだ幼いおそらく小学生くらいの女の子である。

 急に、ぱっと照明が落ち、会場に暗闇が訪れた。

 奥から一人、人が現れる。その人は、政治に疎いユウスケでもさすがに見たことのある、総理大臣だった。

 「こんにちは、SSSランクの皆様。」

 総理にスポットライトが当てられる。

 「本日はご足労いただき、ありがとうございます。お一人ほどいらっしゃっていないようですが…。」

 会場を見渡し、総理は言った。

 「本日、皆様にお越しいただきましたのは、あなた方に私から、お願いがあるためです。」

 ユウスケは総理をじっと見つめる。会場内は四人しかいないのに、緊張感が立ち込めていた。

 「優秀な前世をお持ちの方同士の遺伝子を掛け合わせると、さらに素晴らしい前世の持ち主が誕生できるのでは、という仮説がございます。それを立証していただきたいのです。」

 えっ、と声を出したのは隣にいたさくらだった。ユウスケも驚きが隠せず、リュックの肩ひもをぎゅっと強く握った。

 「とはいえ、若い男性のSSSランクは村田様のみとなっておりますので、村田様に選んでいただくという形になりますが…。」

 いきなりスポットライトはユウスケを照らし始めた。

 「唐突な話で申し訳ありませんので、村田様にはこれから別邸にて選んでいただくための選別期間を設けさせていただきます。もちろん生活費等は優秀な前世の持ち主を誕生させるための研究ですので、こちらが負担させていただきます。」

 生活費タダ、という素晴らしいことばが、浪人生の耳に甘く響く。

 「では、私からの話は以上となりますので、皆様ご歓談ください。」

 高らかにそう宣言したのち、総理はまた裏手へと戻っていった。

 会場は再び明るくなり、さくら、老人、幼い少女の三人がこちらに注目していることにユウスケは気が付いた。

 「と、言うことは、私もユウスケさんと一緒に暮らす、ってことかしら?」

 最初に口を開いたのはさくらだった。

 「みいちゃんも?」

 みいちゃん、と自称したのは幼い少女だった。

 「あなた、お名前はなんていうのかしら?」

 さくらが優しく聞くと、少女はあっ、と声をあげてから

 「高梨みみです。小学三年生です!」

 と自己紹介をし、ぺこりと頭を下げた。

 最後に、ずっと黙っていた老人が、

 「わたしはウメノという者です。まあこの通りもう妻にも先立たれて生い先も短いが…村田君といったかね、楽しく経過をきかせてもらうよ。」

 と言ってカラカラと笑った。

 俺の人生、これから一体どうなるんだ…。ユウスケは、とりあえずは受験勉強をしなくてもいいことにホッとしつつ、いきなり嫁を決めろと言われた事実の重大さに打ちのめされそうになっていた。


 

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