ザマァなウスケに関係なく奮起する。

(前回のあらすじ)

 青龍に 超古代兵器アーティファクトで光弾を撃ち込んだガンケン。敢え無く青龍のブレスに散った。


◇◇


 パァァァン――ッ、


 と空気が震えた。

 ガンケンのいたであろう空間が真っ白な閃光に包まれ、教会を含むあたり一帯が深々とした堀へ産まれ変わる。

 中世ヨーロッパを彷彿とさせた綺麗な街並みは、無惨なクレーターと化した。


 ゴウッと雷鳴が響き、叩きつけるような雨がそのクレーターを池と変え堀を川と化す。濁流が流れて行く先は民間シェルターの中だ。

 追い立てられるように人々がシェルターから溢れ出してくる。


「も、もうここはダメだ」

「馬鹿っ、大声を出すなっ、青龍が……って、な、なんだアレ?」


 指差す先に、薄い光に包まれた泥の塊が浮かび上がっていた。

 ピカリと走った雷光が人の形を描き出す。

 叩きつける雨に汚泥が流れ落ち、中から現れたのはウスケだった。

 ヒィと悲鳴があちこちで上がる。


「ガ、ガンケンは、どこじゃ……どこじゃ?」


 ガダガタ震えながら、幼児のように心細げに見回す見回すその姿に、もはや威厳のかけらもない。

 

「ガ、ガンケンは……?」

 ガクガクブルブルと産まれたての子羊のように震え、あたりを見回した。


「し……死んだのか? ガンケンは死んだのか? 馬鹿め、馬鹿なヤツめ――朕が、朕が困っているというに。馬鹿め馬鹿めッ、あれほど青龍のことを――」

 警告してやったのに、と言おうとして中空を見上げ固まった。

 眼球のない眼底に燃える火を宿した青龍が、身じろぎもせず中空にいる。


「はあッ?!」


 青龍がなぜにここにいるのだ……?

 ヘタリと汚泥に座り込み、腰を抜かして動けなくなる。


「ひぃ〜ッ」

 甲高い声で悲鳴をあげると地を這って逃げ始めるた。

 ろくに鍛えてもいなかったから、すぐに腕の力も萎えて顔から汚泥に突っ込む。


 泥まみれになりっても、それとわかる豪奢で贅を尽くした皇帝服の胸元が光り、ポロリと懐から杖が転がり落ちて来た。


「へ?」 ドラゴンズ・アイ……?


 それがブレスから守ったのだ、と気がつくと何かの奇跡を期待するように、震えながら青龍にかざす。

 

「ふぇ……?!」

 ウスケがドラゴンズ・アイと青龍を交互に見る。

 やがて青龍が巨大な口を開けて大きく息を吸い込むと、ドラゴンズ・アイはフワリと浮き上がり、キラキラと輝いて青龍の眼底に納まった。


「うひぃ……っ」

 ウスケは萎えた両手を必死に動かし、少しでも青龍から遠ざかろうと泥水の中を這い進む。

 だが、用は済んだ――とばかりに青龍は鎌首をもたげ王宮の方角をじっと見ると、少しばかり縮んだ身体をたわませ、滑らかに空中を泳ぎ去っていった。


◇◇◇


 同じ頃。王宮の地下シェルターの一角『対策室』では、近づく青龍への対応に怒号が飛び交っていた。


「青龍がブレスを噴射っ。ウスケ陛……様の救出へ向かった魔導官と衛兵が消滅っ、同じく神国宰相のガンケン殿の姿も消えました」


 一同言葉を失う。

 上皇から国王へ復帰したサユキ陛下の実子にして、前宰相ガンケンの死は十分な衝撃だった。

 政敵となり命を奪われかけたオキナといえどそれは同じで、自らの感傷よりもゴシマカスの精神的支柱であるサユキ陛下の心中をおもんばかった。


「サユキ陛下。お悔やみを……」

 と弔意を示し、胸に手を当て首を垂れる。

 サユキは、ん……。と静かにそれを受け入れて暫く目を瞑り、また「うん……」と呟いた。


 こちらに背を向けふぅ、と息を吐く。

「伝えてやらねばならぬこともあったというに……」と絞り出すように、小さく小さくささやくその声に、我が子を亡くした悲しみが溢れ出ていた。


 オキナよ……とかすれた声で。

「……この国を守れ。今はそれが手向けであろう」

 低く呟くように指令を出すと、あたかも何もなかったかのようにこちらへ向き直った。


 その後に訪れたわずかばかりの沈黙を、分析官の声が破る。

「青龍が接近しております。あと20分もかからぬうちに王宮上空へ到達する模様」

 

 オキナはサユキ陛下へ向き直り、その傍らに仕える近衛兵へ素早く目配せする。


「サユキ陛下、これ以上は危険です。退避を……「どこに安全な場所があると言うんだね?」」

 サユキ国王はオキナへ向き直ると、ゆっくり左右に首を振りもう一度尋ねる。


「どこに安全な場所があるんだね? そして皆が命を張っているこの時に、私だけ逃げ出す意味はあるのか?

 幾万の民の盾とならねば、私が王である意味はなかろう?」

 静かに語るサユキ陛下に言葉を失う。


 お覚悟受け賜わりました。と静かに黙礼すると「『魔力送信装置』起動、目標は二つ――一つは城壁の上、勇者コウヤ殿。一つは上空より接近する魔道士コウだ」

 静かながらも発止と伝えるその様に、サユキ陛下は優しく笑う。


「期待しようではないか。我らが希望殿たちに――我が国の底力に」

 穏やかな声に優しく背を押されるように、オキナが声をあげる。


「戦闘準備っ、各通信官は点呼を開始。ムラク軍卿と軍団は東西の城壁の上へ散開っ、青龍に的を絞らせるなっ。下に注意を引いたところを、上空からスカイ・ドラゴンのスンナ殿で叩くっ。誤って被弾しないように互いに距離を取れ――」

 点呼が進む。


『ムラク軍団所属、第一隊っ展開完了っ』

『同じく第二隊ッ完了っ』

『同じく……』


「展開が完了した模様です」

 と頷く分析官にオキナは、サユキ国王を振り向き「お言葉を」と通信士から拡声の魔道具(マイク)を受け取りうやうやしく差し出した。

 

「勇敢なる我が英雄たちよっ、サユキ・ド・シマカスである。諸君とともに戦えることを誇りに思う。

 私はここにいる。ここにいて諸君一人一人の勇姿を目に焼き付け、一族郎党に至るまで必ず報いよう。誰一人漏らすことなくだ。

 君らの背には幾万の民がいる。この国の未来がその双肩にかかかっているっ、奮い立て、我らが英雄たちよッ」


「「「おうっ!」」」

 その声は王都を震わせ地下シェルターにまで響き渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る