破滅のストーリー

(前回のあらすじ)

『青龍が訪れた場合王都が水没する』と聞いたオキナは、王都に青龍を近づけない選択をする。そこでコウとスンナ、コウヤを緊急招集する事にした。


◇◇


「……と、言うわけなんだ」


 緊急招集で呼び出された俺たちは、オキナの説明にポカンとしている。

 端折はしょりすぎ?

 ですよねぇ……ってワケで少し振り返る。

 

 ムスタフ将軍との『停戦合意書』を取り交わした二日後、オキナからの緊急招集を受けた俺たちは、魔法陣を使って王宮の地下シェルターへ戻って来た。

 

 ちなみにコウによると、スンナは“魔獣の森”でしばらく傷を癒すそうで、『なんかあったら飛んでくるから』と別れたそうだ。


 そして今、宰相の執務室でコウと俺はオキナから事態の説明を受けている。

 

「このまま王都に青龍が飛来した場合、王都に張り巡らされた水路が溢れ地下シェルターは水没する。王宮の地下シェルターも同じだ。都民のほとんどは水死――つまりこの国が死ぬ……と言うわけなんだ」

 で、冒頭に戻るワケ。


「つまり……だな。王都に着く前に青龍を倒せってか?」

「そうだ。後詰めは第一ダンジョンから呼び寄せるが、ひと月以上移動にかかる。だが、現状そう時間もない」


 オキナの苦り切った顔。

 同じく俺たちの顔色も冴えないものになっちまってる。


 コウが伏せ目がちだった顔を上げると、

「ねぇ、オキナ――青龍アレは人智を超えた存在なの。倒せるものじゃない。せめて撃退できる策は考えているんでしょう?」

 とオキナへ顔を向けた。


「ああ、鍵はコウヤ殿の魔人軍との共闘にあったよ」

 そう言うと、俺の報告書(いつものごとくサンガ少佐に丸投げ)をペラペラめくる。

 二十枚くらいのヤツに付箋がいっぱい。

 なんかごめん――後ろめたくなってそぉっと視線をずらした。

 

「青龍は魔力を消耗すると小型化する――と言うことは、魔力さえ消耗させれば脅威ではなくなる。おそらく五百年前のご先祖様もそうやって退けたのだろう」

 

「青龍はどこへ?」

「まだ掴めていない。今、魔眼を上昇させて大陸全土で雷雲の固まっているところを探しているところだ」

 

「こちらの迎撃体制は?」

「軍部を集めて四層の防衛ラインを構築中だ。前にコウにお願いして各所に拠点を作っていたのが役に立ったよ」

 と、コウへそれはそれは甘い微笑みを見せると、強張っていたコウがはにかむようにフフフッて笑う。


 ヘイヘイヘイ――二人の世界ってかよ?

 ぶち壊してやんぜ、こちとら忙しすぎてナナミにもまだ連絡してねーってのによっ

 凸(▼︎皿▼︎メ)グォラッ!


 そんな微妙な空気の中、伝令が駆け込んで来た。

「せ、青龍を発見しました」

 酷く慌てている。

 どうした? まさかすぐそこまで来てるってんじゃねぇだろうな?

 

「すぐに行く」

 と駆け出すオキナの後を俺たちは駆け出した。


◇◇◇


 状況を把握できるまで十二時間かかった。

「状況が分かり次第連絡する。少しでも休んでいてくれ」ってオキナがゴリゴリ優しい笑顔で追い出すもんだから、俺とコウは割り振られた部屋で待機。

 この間にナナミと連絡が取れて俺的には満足だけど。

 改めて呼び出しがかかると、目の下にクマを作ったオキナと対面した。


「ヒューゼン共和国に上陸した」

 酷く疲れた顔をしている。

 コウが首をかき抱き、ヒールをかけて復活させていた。


 ブレないね君たち。


「そりゃ気の毒なこった」

 多少、腹立ち紛れにボソッと突き放す。

 だが、ヒールで復活したはずのオキナ君の顔色はすぐれないままだった。


「……魔眼の映像の分析では、ヒューゼン共和国の沿岸部に津波が押し寄せ家屋の半数は水没。山間部は土砂崩れで山道と村落が飲み込まれている。シャレにならない」


 なん……だと?

 

 あまりの被害の大きさに言葉を失った。

「なんとかしてやりてぇが……停戦してるが戦争中だしかぁ……どの国も上がクソだと上手くいかねぇ。住んでる連中は罪はねぇんだがよ」

 こんなふうになるとは思わなかった。

 

 コウがソッポを向きながら「偽善だ」と呟く。

「全部は救えない。残念だけど……」


 あ――。

 わかっちゃいるけど、やるせないわぁ。


「だが、なぜヒューゼンを襲った?」

 オキナが沈思している。

 

 コウが思いついたように口を開いた。

「もしかしたら青龍は怨嗟に反応したのかも……」

「「ん?」え?」

 オキナとの声が妙な感じでハモった。


「なんで?」

「怨嗟は破滅を呼び寄せるからよ」

「『滅びよ』って言ってたってアレか?」


 俺が応えているとオキナが片眉を上げた。

「ただ破滅を求めるならば、人口の多いゴシマカスの方が先に狙われるはずだ」

 

「ルサンチマンよ」


 なんのこっちゃ?


「あ、ごめんなさい。の言葉ね。つまり『人は絶対強者を悪として、弱者である自分を善とする生き物で、受け入れがたい現実を怨嗟する』って概念」


「ゴシマカスよりヒューゼンの方が怨嗟が強いって?」


「――ヒューゼン共和国は建前は『平等』、でも全体奉仕に応じて等級がある。見えない身分社会で指導部が絶対的権限をもっている」

 

 ゴシマカスもですがなにか?


 オキナがゆっくり顔を上げた。

「表向きと実情が違えば、強権と思想で縛るしかなくなる。思想も宗教の自由もないから逃げ場がない、等級の低いものは恨むことしかできない。から……怨嗟が溜まっていた――か」


 だからゴシマカスとどう違うの?


「歴史の違いさ。元から身分の決まっている庶民たちは、怨嗟を上手くいなして生きる術を長い歴史の中で育んだ。一方王族はサユキ上皇様のように、民意を反映するよう賢く統治した王が多かったんだ」


 ところがウスケ陛下が怨嗟をばら撒いた、と。


「ツーことはあれだ、たんまり怨嗟が溜まってきたからドラゴンズ・アイは魔力に反応し、改めて注目を浴び出したってワケか? 片方無くなってんのに気づかれないくらいに忘れられていたのに」


 オキナがゆっくりこちらを見る。

「『災禍』がもたらす祝福が怨嗟をもたらす国を滅ぼすことだとすれば……」


「シャレにならねぇな」

 俺は肩をすくめた。

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