小さくなってない?

(前回のあらすじ)

 青龍が嫌がっているのがカノンの『遮断』であることを思いついたコウ。青龍を誘導し、カノンと魔人軍にぶつけた。


◇◇コウヤ目線です◇◇


「行けっ、行けぇぇ――っ」

 このまま終わって欲しい。そう願って青龍とスンナの戦いを見ていた俺。

 

 ところが、白銀の光は曲線を描いて青龍をかすめたかと思うと、こちらへ向かって来た。


「へ……?」


 スンナの放つ白銀の光は、あっと言うまに頭上を通り過ぎカノンたちがいた方向へ飛び去って行く。

 その後から雲を割って巨大な口が現れ、眼球のない眼底から禍々まがまがしい光を放ちながら、青龍がその巨大な姿を現す。

 咄嗟とっさに岩陰へ身を隠した。


 スンナが追われている。いや、そう仕向けている。

 何をするつもりだ?

 ともかくここに居ては危ない。

 出来るだけここから離れなければ――と駆け出した時だ。

 ゴッ、と風が鳴いた。

 空を見上げると、青龍の割れるように広げた口の中へあたりの雲が吸い込まれて行き、あれだけ激しく降っていた雨が、ピタリとおさまる。


「?!」


 ボウッ、と空気が震えた。

 青龍の口から真っ白な雲が吐き出され、それを貫くように真っ白なブレスの矢が放たれる。

 それをスゥッと滑るようにわすスンナ。

 横滑りの風魔法を使っているようだ。それがまた青龍を刺激して、轟々と大気を揺るがせて追いかけて行く。


 音速を超えて飛翔できるスカイ・ドラゴンにとって、振り切るのは簡単なはずだ。それをわざと煽るように右や左へ揺れながら、時にクルリと旋回してブレスを放ち攻撃しては引き離す。


「何やってるんだ?」


 何度目かのヒットアンドウェイで、ようやく意図が理解できた。

 青龍を魔人軍になすりつけるつもりだ。

『災禍』を利用してゴシマカス軍を沈める――それは魔人軍が目論んだ形だったはず。

 それをコウは逆に魔人軍へ仕掛けようとしている。


 へへっ、やるねぇ。

 となりゃ、巻き込まれないようにアッシは避難する(逃げるとも言う)しかないじゃあございやせんか?

 ここら辺でドロン(昭和臭い)させて頂きやすっ。

 

「せ、青龍だぁッ」

「怯むなっ、殿しんがりは引き受けるっ。第一ダンジョンへ早く……」

 慌てる魔人軍の声が錯綜している。


 クククッ、恐怖に怯え豪雨に身をさらしながら、逃げまとえ魔人軍よ。まるで魔人がゴミのようだ。 

 ふははは――って、あれ? 

 第一ダンジョンに向かうようなこと言ってなかったか?


 あそこにはゴシマカス軍が避難している。

 冗談じゃねぇぞ。

 あっちへ青龍を連れて行かれた日にゃ、青龍と魔人軍の両方をゴシマカス軍は相手にしなくちゃならなくなる。

 最悪、魔人軍ともどもゴシマカス軍が青龍に滅ぼされてしまう。

 ――ともかく、あっちへ引っ張られないように青龍を足止めしなくちゃ。


 慌てて魔力を練り直しているとしゃがれた声が響く。


『遮断』


 ズォゥ、ズォゥ、と大空を覆うようにスンナを追いかけて来た青龍の動きが止まる。

 途端に発止と号令が放たれた。


火山弾ボルガニック、撃てっ」

「てぇっ」

「てぇぇぇぇ――っ」


 ボボボーンッ、と破裂音と共にオレンジ色の光が空へ駆け上がって行く。外しようもないくらい近づいた青龍の巨体にオレンジ色の光が次々と突き刺さり、黒煙とともに真っ赤な炎が飛び散った。

 魔人軍から甲高い声で号令が上がる。


「続けて第二波、三波、よーい」

「第二波よしっ」

「第三波よーしっ」

 次々と復唱の声が上がり、ゴゥッと魔力が渦巻いていく。


「第二波、撃て――っ」

「てぇっ」

「てぇぇぇぇ――っ」


 次々とオレンジ色の光が大空を覆う青龍へ向かって放たれた。

 次々と着弾する火山弾ボルガニックが、曇天の薄暗い空に浮かび上がる死神の姿を浮かび上がらせる。

 轟音が遠く山々に響き渡り、こだまとなって帰ってくる音に紛れてカノン・ボリバルの「遮断――」としゃがれた声が響いた。


「第三波っ撃て――っ」

「てぇっ」

「てぇぇぇぇ――っ」


 ドドドドッ、と地鳴りを巻き起こしながらオレンジ色の光が天空を駆け上がって行き、着弾の閃光であたりがフラッシュを焚かれたように明暗を繰り返す。

 死神が大きく体をうねらせた。


「¥&@#%^*$€£」


 ビリビリと地面が震えると背筋がそり返り、勝手に目玉が動き回る。

 青龍の思念派だ。

 こうして動きを止められたあと、ブレスがやってくる――そう思って地面へダイブした。腕で頭を掻き抱きシールドを展開して丸く固まる。


 バァァァンッと言う衝撃波ととともに、予想に違うことなく真っ白な光に包まれた。


◇◇


 ザァ――ッと地面を叩きつける雨の音で意識を取り戻した。


「あー。あー。あ、あ、んんっ。鼓膜は大丈夫だな」

 あちこち動かして自分の体を点検する。ずぶ濡れ以外は大丈夫そうだ。


 さて戦況はっと?


 索敵を展開しながら、空を見上げる。

 ブレスの放たれたあたりに強い魔力が。そして上空には、滔々と流れる大河のように、稲妻の放つ光をその青い鱗に反射して魔人たちのいたあたりへ流れている。


 こりゃ全部やられたかい――と、思ったのは当然じゃないですか?


 ところが甲高い声はまだ続いていた。

「ムスタフ様を逃すのだっ。魔人の誉れを示せっ、第六波、七波っ、よーーいっ」


 なんだよ、まだ生残っていやがったのかよ?

 さすがと言うべきか? 青龍のブレスを喰らって、まだ生きているどころか崩壊していない。


『し、遮断――ッ』


 カノンのヤツもまだ生きていやがる――と、言うことはだ。カノンの遮断が青龍のブレスを軽減している。

「第六波、七波っ、撃て――っ」


 ドドドドッと空気を震わせ、オレンジ色の曲線が上空の青龍に襲い掛かると、真っ赤な炎が黒煙に包まれて立ち昇った。周囲の雨天の分厚い雲が千切れていく。


「ギャァァァァ――ッ」


 初めて青龍の悲鳴を聞いた気がする。


『遮断――ッ』


 苦しげなカノンの声。


 ん? 青龍が小さくなってない?

 あれだけの巨体だ。魔力の消耗が激しいところに『遮断』のバフで魔力を消耗し、自前の魔力を消耗して体が縮んだ、と見たっ。


 そして俺はリクエストを発する。


『亀――ディストラクション』

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