奇妙な共闘

(前回のあらすじ)

 青龍の水責めに命からがらに坑道から脱出した俺。

 同じく水責めから逃れたカノンと魔人軍が青龍を迎撃。それにスンナとコウが加わり、期せずして共闘が始まる。


◇◇


 見上げる一面の雲。

 絶え間なく降り注ぐ雨に濡れ鼠になりながらも、眼前で繰り広げられる神々の戦いから目が離せないでいる。

 スカイ・ドラゴンのスンナと『災禍』の青龍。

 これを神々の戦いと言わず、なんと呼べば良いのだろうか?

 

 雲を切り裂く白銀の刃が巨大なS字に当たると、青白い炎が上がり、サファイア色の花火が飛び散り空気を振動させる。

 力のレベルが違いすぎて、さっきまで粋がって青龍を迎え討とうとしていた事が嘘のように怖くなる。


「行けっ、行けぇぇーーっ」

 どうかこのまま終わって欲しい。

 青龍がスンナに撃ち落とされて終わりになって欲しい。そう祈り、声を張り上げていた。


◇◇コウ目線です◇◇


 コウヤが青龍のブレスで吹き飛ばされた時、私(コウ)は頭の中が真っ白になった。

 仲間たちを青龍の攻撃から引きはなそうと、一人魔獣の森へ走っていき、剣を掲げるその様はまさに勇者の姿――とは思う。

 こっちの世界から言えばだ。

 

 だが、馬鹿じゃないのか?

 そんなことをしたって何も変わらないではないか? 青龍は『破滅』そのもの。

 ちっぽけな人間が、僅かばかりの魔法を使えたところで蟻が像に挑むようなものだ。踏み潰した像は蟻がいたことすら気づかないだろう。


 だから――だから逃げろ馬鹿者っ。


 右手の魔眼が投影する映像に叫んでいた。

「馬鹿ッ、逃げろ馬鹿勇者っ」


 生き延びるために逃げるのは恥じゃない。

「逃げろ――」

 その叫びは届くはずもなく、あっけなくアイツは吹き飛ばされた。


「な……? な、なにそれ。なによそれはっ」

 あっけなく吹き飛ばされた相棒の消えたあたりに魔力を飛ばしてサーチをかける。

 もはやコウヤの影も形もなかった。


 耳の奥でザァーっと音がして、指先まで冷たくなっていく。

 血の気が引くってこうなるんだ。

 ボンヤリ考えて手のひらを見ると、真っ白に変わった私の手のひらは細かく震えていた。


「うそでしょ……ありえない」


 避難を呼びかけるべきだった。

 青龍の脅威を伝えて、避難に専心させるべきだったんだ。ひょっとしたら勇者コウヤなら、なんとかしてくれそうな気がして、予定通り上下の挟撃の場へ青龍を呼び込んでしまった。

 後悔が湧き上がる。

 いくらアイツでも無理なものは無理だ。そしてその元凶をアイツの元へ連れて来たのは私だ。


「うわぁぁぁ――っ」

 瞬時に魔力を練り上げ、操縦桿を通じてスンナへ送り込んでいく。


『スンナッ、もう一回、もう一回ブレスで反撃よ。

 コウヤの仇はきっと取る。私たちを舐めた代償を痛いほどわからせてやるッ。おのれっ、おのれおのれっ、骨も残さず消し去ってやるっ』


『そして死ぬ気なのかい? コウ、落ち着いて』

 

『死ぬ? 死ぬ……。死なせてしまった。あんな化け物を呼び込んだ私のせいで死なせてしまった。私がコウヤを死なせてしまったッ、私のせいだ『違うよ』――?!」


『コウヤは死んでないし、死にかけたのもコウのせいじゃない。コウヤは玄武(海亀のこと)に守られて生きているし、そんな目に合ったのも青龍のせいだ』


『生きている――?』

『ああ。サーチを“魔獣の森”まで広げてごらん』


 うっすらとコウヤの魔力の残滓が“魔獣の森”へと続いている。


『魔力の補充をしたい。コウ、悪いけど一旦離脱するよ』

 そうスンナは告げると“魔獣の森”へ軌道を変えた。

 こうなると私(コウ)にできることは、祈る事だけになってしまう。

 呆然として射出座席の背もたれに体を預けた。


◇◇


 そして今。

 スンナのお気に入りの洞窟へ戻り、ほぼ丸一日かけて魔力を回復させると、再びコウヤの魔力の残滓を辿り捜索を開始した。

 錯乱していた私(コウ)も、携帯していた野戦食を取りスンナの羽毛に包まれて眠りを取ると、気力も体力もすっかり回復していた。

 コウヤは生きている――それだけでも奮い立つ自分がいる。


『コウ、魔素の流れが変わった。その先で魔力が膨れ上がっている。きっとコウヤだ、青龍もそちらへ動き始めた』

 見つけた?!

 飛び起きると飛行鞍のハッチを開けてコクピットへ滑り込む。

 イグニッションキーに魔力を流し込み、グリーンに輝く計器に目を走らせ準備を終わらせていく。


「行けるよ、スンナ。コウヤを救い出して反撃するっ」

『了解っ』

 ボゥと羽ばたくと、洞窟を抜け一瞬で大空を駆け上がった。

 

 分厚い雲を抜けると真っ青な空が視界いっぱいに広がる。機体を傾けて青龍を探す。青龍がコウヤを見つけたのなら、そのあとを追った方が良い。

 コウヤを攻撃する瞬間が一番の隙になるからだ。コウヤへの攻撃を防ぎつつ青龍にダメージを与えてやる。


『災禍』は破壊と恩恵をもたらす存在。

 だが、青龍はダメだ。アレは強すぎる劇薬と同じで、人にとって害にしかならない。ならば全力で排除する。

 そう新たに決意を固めながらサーチと目視を使って青龍を探していると、身に覚えのある嫌な波長を感じた。


『遮断――』


 カノン・ボリバルの異能だ。

 それが膨れ上がった雷雲に向けて発せられている。


「スンナッ、あの雷雲の中っ」

『了解っ、コウッ身を固めて、飛ばすよ』


 ボゥ、ボゥ、と二つ羽ばたくと一気に加速する。

 たちまちシートベルトが緊縛し射出座席に押しつけられる。加速を押し付けられる背もたれに感じると、目の前に滔々と流れていた雲海がトンネル状に切り裂かれて行く。


 雲を抜けるとそこには信じられない光景が広がっていた。

 カノンの『遮断』で持ち前の巨大な魔力が封じられ、魔人軍の『火山弾ボルガニック』に身を焼かれる青龍。


 不思議な共闘が出来上がっていた。


「スンナッ、行くよっ」


 スンナの口から白銀のブレスが放たれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る