またですか?

(前回のあらすじ)

 『災禍』の混乱に乘じて勝手に王座に返り咲いたと主張するウスケに、サユキ上皇から「廃嫡する」との達しが届いた。


◇◇ガンケン・ワテルキー目線です◇◇

「は? ちん廃嫡はいちゃくする……だと?」

 真っ青な顔で目を剥きワナワナと震えるウスケ。


「陛下、私が拝見しても……?」

 ガンケンうかがい見ると、虚空を睨んだまま書簡を投げて渡し唇を戦慄わななかせている。


ちん廃嫡はいちゃくする……だと? ふざけおって。ふざけおって! 二十年も前に譲位しながら、今さら何を」

 ブルブルと震える肥満体をめた目で見ている自分に気付き、コホンッと一つ空咳を放つと、投げ渡された書簡をうやうやしく頂き中身を確認する。


『ゴシマカス国王サユキ・ド・シマカスは神国を認め、ゴシマカス王国から独立することに同意する。

 合わせて正式にウスケ・ド・シマカス氏を国王と認めた。今後両国の後継の火種とならぬよう父・嫡子の関係を廃する――』か――。

 表向き次の世代に移行したときの争いにならぬよう、平和的な解決を計ったように見える。

 だが、そこには正式にウスケが王族から独立し、ゴシマカス王位を失った旨が書かれていた。


 チッと舌打ちが漏れる。

 神国を立ち上げ『正式なゴシマカス王国はこちらだ』と揺さぶりをかけたことを逆手に取られた。

 これまでゴシマカス王国は、神国を反乱扱いして来た。

 あくまで内政の問題が生じた――と。

 

 だが、これではいくらドラゴンズ・アイを国王の証明と振りかざしたところで、

が、独立したにかかわらずゴシマカス王国の王権を主張し、国宝ドラゴンズ・アイをその根拠として持ち出した』

 構図となってしまう。

 加えてドラゴンズ・アイも返却を要求されることになる。

 

 それ以上にこの勅令には、もう一つ意味があると気づき愕然がくぜんとする。


(これでは神国についた全てのウスケ派の貴族も、ゴシマカス王国から切り離されたことになる……と、言うことは私(ガンケン・ワテルキー)も、廃嫡はいちゃくされた?)


 今回この騒動を起こしたのは『災禍』の前に王権を主張しておくためだった。『災禍』に見舞われれば、反発する勢力も弱体化する。

 そこを教会各地のシェルターに潜伏させてある軍団で討ち、一気に王権を認めさせるつもりだった。

 

『真の国王たるウスケ陛下が、国王に反抗した不届きな勢力を鎮圧した』名目でだ。

 しかしここで狂いが生じた。

 これでは神国VSゴシマカス王国の構図になってしまうではないか?!

 これ以上、王座の占拠は意味がない。

 宣言が行き渡る前に、早々に避難し『災禍』のあと、巻き返しを画策すべきだ。


「いやはや廃嫡はいちゃくのカードを、いつかは切ってくると思っておりましたが、独立を認め外交問題にすり替えてくるとは……」

 


 それにしても『災禍』の接近で下級貴族でさえ忙殺されていたのではなかったか?

 宰相のオキナ、勇者コウヤ、魔道士コウのいわゆる英雄組は魔人軍の対応に追われ、政治的な判断をするサユキ上皇も避難した空白をついたつもりだ。

 かなり前からこうなる事を見越して準備していたように思える。


 それを誰が――?


 五大侯の面々を思い描くが、それぞれの領地での対応に追われて王宮の対応どころではなくなっていたはず。


「ん……?」

 最後には国王の宣言に同意した貴族たちの連名が連ねてあった。

 その最後に忌々しい署名が。

 

『ゴシマカス王国宰相 オキナ・ザ・ハン』


 頭の中でブチリッと何かが切れる音がした気がした。


「貴様かっ?!」

 思わずサユキ上皇の書簡を床に叩きつけた。


「やはり殺しておくべきだった。拘束などと生温いことをしたばかりに」

 噛み締めた奥歯から、呪詛じゅその言葉がこぼれ出る。

 慌ててウスケ陛下の様子を伺うが、とうにあたりの音も聞き取れないほど激昂していた。


「何をほざいておるっ?! 神国などちんの仮染めの宿にすぎぬというにっ――ガンケンッ、そもそも貴様の失態ぞっ。で、あろうが?! あろうが」

 カーテンを引きちぎり、手につくあらゆる物をこちらに投げつけてくる。ろくに鍛えていないため、そこらに散らばるだけだったが。


 荒れ狂うウスケ陛下の様子を見て逆に私(ガンケン)は冷静になれた。一瞬、ウンザリした表情になりそうなところを取り繕いながら、ウスケに次の行動を促す。


「お叱りは後ほど。とにかく今は避難せねばなりません。その後の画策はシェルターの中でもできますゆえに」


 白い騎士団とともに教会のシェルターへ移動して行った。


◇◇コウヤ目線です◇◇


 場面は変わり“魔獣の森”。


 海亀に言われで見上げた空には青龍がいた。

 その長いからだをくねらせて、分厚く垂れ込めた暗雲の中を泳いでいる。

 西洋のドラゴンと言うよりは細長い体に手足が生えた東洋の龍のフォルムだ。

 

 身をくねらせるたびにブオウッ、ブオウッ、と轟音が空に響き渡り、稲光に鱗が青く反射してんですけど。

 真っ暗な雲に時折光る雷、その中を泳ぐ巨体は想像してみて? 山があるだろ? それが空を飛んでいてる感じ?

 

「ウッソぉ〜ん……」


 思わずこぼれ出た俺の感嘆詞。

 あたりの皆も俺同様に口をあんぐり開けている。そりゃそうだろう? 生まれて初めて空飛ぶ山くらいのデカいものを見たんだもの。


「に……逃げろっ」

 誰かが叫んだ。

 パニックを起こしてやがる。

 スゥと胸いっぱいに息を吸い込むと、ここ一番の大音声を張り上げた。


「鎮まれぇっ!」


 浮き足立った連中の足が止まり、こちらに視線が集中する。


「今すぐ襲ってくるわけじゃないっ、魔導官と各部隊長は来いっ、勝手に逃げ出すものは容赦なく撃つっ」

 金属兵にコマンドを打つとギッチョン、ギッチョンと、スプリングを効かせた足音を立てながら近づいて来た。

 それが意味するところは伝わったのだろう。


「全員その場にしゃがめっ」

 と指示して部隊長が集まるのを待つ。やがて集まった面々に、魔導官が空中に避難場所の位置を示す。


「避難場所は俺が壊した第一ダンジョンだ」

 

 なんだよ? その「またですか?」みたいな顔。

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