ふざけんな……だろ?

(前回のあらすじ)

 青龍と遭遇した四千の兵。パニックになりかけたところをコウヤの機転で治める。そして目指す先はかつてコウヤの破壊した第一ダンジョンだった。


◇◇


「避難場所は俺が壊した第一ダンジョンだ」


 げぇ?! と見返す面々。


「なんだよ? その『またですか?』みたいなの」


 口を尖らせてぷぅっとなってる俺に、リョウが噛み付く。


「全っぜん方向違うじゃないッスか?! こっからだと五キロ北西ッスよ」


「なにっ?!」


「なにっ?! じゃないッス。方位石で確かめてたんじゃなかったスか? 『こっちだっ、走れっ』って先頭走ってたの師匠ッスよ」


 確かに俺の地図にはココが最短ってルートがメモってある。だがしかし、これはオキナからもらった物だ。

 間違いがあるワケがない。


 恐る恐る地図をチラ見する俺のたもとから、方位石ごとリョウがひったくる。


「あーッ?! アダマンタイト坑道を起点にしてる」

 

 そりゃそうでしょ?

 だってアダマンタイト坑道から逃げたんだもの。


「入力が間違ってるっス」


「なにぃ〜っ?!」

 

 えー、ココで解説。

 本国ゴシマカスに基準石(地球で言うところの北極を基準に座標を割り出したヤツ)があり、そこから各地に座標を導いた標準石が敷設されているわけね。

 緯度、経度とかいうヤツ。

 この標準石を起点に入力し、次に始点(現在地)を入力。最後に終点(行きたいところ、今回は第一ダンジョンね)を念写すると、ルートを示してくれるってスグレモノだ。


 今回、起点の入力を現在地にしてたってワケ。

 テヘペロ(ノ∀︎\*)キャ

 

「……すまん」


 あまりに塩塩になってる俺に気がとがめたのか、リョウが「将軍だもの……」

 って肩に手を置く。

 

 慰めになってないんだが?


「ともかく……だ。第一ダンジョンはオキナが調査してくれてた。入り口が吹き飛んだだけで中は生きている。本隊がすでに別の入り口を見つけ避難を始めている」

 

 たぶん金属兵で無理やり倒壊した入り口を掘り起こさせたんだろうけれど。

 

「それぞれ部隊を誘導してくれ――「各自、編成っ」」

 と三三五々 散会して編成に入ってく。

 酷くね?


「方位石で誘導しましょう、今回は私が――」

 と魔導官が生暖かい目をして、俺の肩に手を添えると方位石を起動した。

 始点から大きく曲がって終点を示す光の軌道が浮かび上がる。終点は遥か向こうだ。


 えっらい、離れてんな? おひ……。


「時間は限られてんぞっ! 全速機動っ」

 

「獣人からスタートさせろっ、次は風の民の順だ。一番足が遅いヤツは金属兵とともにあとをついて行け」

 

 とあちこちで掛け声が聞こえる。


 もう……俺、いらねぇんじゃね?

 

「さぁ、走るぞっ」

 誰かさんの掛け声がかかると、四千の兵が方位石の示す光の筋に沿って、走り始めた。


◇◇


 雷鳴が響き渡り豪雨となる中、やっとくだんの第一ダンジョンが見えてきた。

 暗雲に覆われているせいで、時刻は昼過ぎだというのにあたりは墨汁をぶちまけたように真っ暗だ。

 

 事前に通信石で連絡していたおかげで、土魔法で作ったんであろうトーチカ(コンクリで作った雪室かまくらみたいなやつ)から、誘導のためのライトが焚かれているのが見えてきた。


「あともう少しだっ、温かいスープが待ってるぞっ」


 暴風と豪雨で防水ローブも役に立たず、全身ぐっしょりだ。足元が悪いせいで歩くことしか出来きず、まるで亡者の列となっていた連中に声を張り上げる。


「酒もっ」

 叫び返すのはモンの野郎だろう。


「ああっ、ぬくぬくのホットでなぁ」

 顔中を流れる雨を手のひらで拭いながら応えてやる。

 

「ウォォ――ッ」

 と、先にたどり着いたヤツらから歓喜の叫びが上がるのは当然だろう。

 順次トーチカからダンジョンへ誘導され、互いの無事を喜ぶ声が上がる。


「コウヤ将軍っ」

 聞き慣れた声がすると、ガンガンに叩きつけてくる雨粒をものともせずサンガ少佐が近づいてきた。


「早く、こちらへ」


 滝のように降ってくる雨に、前髪と言わず鼻先と言わず顔から水滴を滴らせている。


「すまねぇ」


 轟轟と降りしきる雨音に負けぬよう声を張り上げ、誘導されるままにトーチカへ転がり込んだ。


◇◇


 トーチカに掘られた地下壕を抜けると、第一ダンジョンの第一層に出る。

 わずか半日でここまで整備できるなんて土魔法様々だ。

 

 その洞窟の壁やら天井にヒカリゴケが自生し、常夜灯の豆電球くらいの明るさはある。

 広さはサッカー場がいくつ入るんだろ? ってくらい広がっていて、四、五人用のテントを五百も設営しているのにまだ余裕がある。

 

 その真ん中が本陣と俺の住居スペースになっていた。


「ふぃ〜っ」


 着替えを済ませ、蒸しタオルで顔を拭うと生き返った心地になる。


「早速で申し訳ないのですが」

 サンガ少佐が頃合いを見計らって入ってきた。っつっても着替えと簡易ベッドが置けるスペースを、布で仕切ってあるだけのパーソナルスペースだ。

 当然、魔眼で青龍の動きを監視していた魔導官から、甲高い声が響いたのは聞こえる。


「青龍が動き始めました」


 暴風雨の吹き荒れる地上付近を避け、雲上まで上昇している機体からアラートが入っていた。

 雲海を泳ぐ青龍の青光りする鱗が写っている。


「目的地はどこだ?」


「ミズイかと……。その先に行く可能性も」

 その先ってか?


「王都ゴ・シマカスです」

 魔導官の緊張した面持ちがなにを物語るかわかった。


 そこには百万の民がいる。

 その中には兵たちの家族も、オキナも、ナナミもだ。


「ふざけんな――だろ?」

 家族を守る男の顔を見る。

 

「ふざける? 冗談じゃないですよ」

「――ぶっ飛ばしてくるわ。コウに繋げるか?」


「喜んで」


「コウ、コウッ、聞こえるか? こちらコウヤ、応答してくれ」


「王都へ向かってるの?」

 流石はコウだ。

 もう俺が通信を繋げた意味がわかっている。


「ああ、そうだ。ここで食い止めたい。出れるか?」

 難しい顔をしてるかも知れない。

 だが、コウからの返信は素っ気ないモノだった。


「ふざけんな――だよね?」


 聞いた途端に声を張り上げる。


「青龍が動くっ、出撃よーいっ」

 

 命を懸けた戦いが始まる。

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