ウッソん〜?

(前回のあらすじ)

 ムスタフ軍の追撃に出たコウヤたち。そこに立ち塞がったのは宿敵ライガだった。


◇◇

 

 なんだってんだ……?


「リョウ隊は戦闘準備っ」

 思ったより広くなった弟子リョウの背中を見送るしか出来なかった。


「魔導官も二人……いや、三人ついてきてくれ」

 そう言い残すと乱戦になっている一団へ駆け込んで行く。


 近衛隊長はリョウを見送ると、

「さ、コウヤ将軍っ。ここは彼に任せて」と誘導して行く。

 

 後ろ髪を引かれる思いで振り向けば、混戦になっている一、二番隊をすり抜けて、ライガに近づいていく。

 

 サンガ少佐の守備隊に合流した俺は捲し立てた。

「サンガさん、リョウのヤツが飛び出して行っちまった。俺はいざとなったら助けにはいる、(ムスタフ軍)本隊への追撃は任せて良いかい?」

 

 流石に渋面になる。

「落ち着いてください――今、あそこに敵将ムスタフはいるんです。悔しいが私だけでは彼には敵いません。コウヤ将軍、あなたに居てもらわねば」


「ムスタフとやり合うまでには追いつくよ。

(ライガは)リョウだけでなんとかなるとは思えねぇんだ。今ムスタフを追い込めるのはアンタしかいねぇ、だから頼むんだよ」

 

 持ち上げたりすかしたりする俺を見て、苦しそうに目を伏せるサンガ少佐。

 

 やがて「まぁ、わかっていたんですけどね――」と、苦しそうに苦笑いする。


「コウヤ将軍――。

 あなたがどう思っていようと皆あなたが将軍と思っているのですから……」

 

 馬鹿言ってんじゃないよぉ、サンガくん……っと言いたい。


「だからさ、俺は将軍に向いてないんだってば。

 手が届く範囲ならソイツを助けてやりたい。リョウだっておんなじ理屈だよ。弟子だから特別ってワケじゃないんだ。

 やっぱり俺は勇者であったとしても将軍ではないんだよ。リョウが危なくなったら俺は出る――サンガさん、頼むよ」


 左手をバックラーから通常モードの左手に戻して手を合わせる。

 頼むわぁ……。


「全く、酷いお人だ……」


 しばらく眉間を揉む仕草をすると、吹っ切った笑顔を俺に見せた。


「だからこそ勇者コウヤなのでしょうな……了解致しました。これより私はムスタフ軍への追撃を開始します。ですが(将軍)代行の司令書にサインは頂きますぞ?」


 サイン?

 尻拭いは貴方ですから――ってデスマーチを引き受けてくれた事を意味する。


 悪いなぁ……ってシオシオしている俺に、今さらでしょう? と笑ってサンガ少佐は副将ロンへの指示を出し始めた。


◇◇◇


 ゴシマカス本隊が追撃に入る。

 殿しんがりを請け負ったのであろう、黒い鎧の集団がこちらを遮るように、斜走りに切り込んできた。


「ムスタフ軍、十将が一人サガンであるっ。敵将コウヤっ、勇者にして将軍と聞くっ。一騎討ちと参ろうではないか?!」

 デカい声を張り上げてやがる。


 はぁ、なんでこんな脳筋ばかり……。


 見れば二メートルを越す大漢。

 こちらの前へ一斉に横陣を展開するスピードも尋常じゃない。


 黒い甲冑に覆われた巨体は、見た目以上に研ぎ澄まされた筋肉の塊と見た。

 漆黒の兜から突き出した角は保有する魔力の象徴だ。睨みつける眼光を放つ顔には鬼の面を被ってやがる。


 ヤッベェのが出てきちまったよ、おい……。


 リョウの元へ駆けつけるか、ここにとどまってコイツを片付けるか? 迷うそぶりを見せる俺にサンガ少佐が頷いた。


「行ってください。ここは我らが引き受けます」

 そう言うと手にしたサーベルを敵将サガンに突き出す。


「コウヤ将軍が出るまでもないっ、盾兵は前へ。射手は三層にて一斉掃射準備っ」

 行手を阻む敵将サガンに対し、盾兵が走り込んで壁を作った。


 ジャキッとライトニング・ボウが照準を合わせながら、三層に展開する。

 それを見た敵将もシールドと魔弾ショットガンを展開し始めた。


「勇者と聞いていたが臆病者の間違いらしいなッ、たんまり魔弾ショットガンを食らわせてやろうぞっ」

 そう言うと奥に引っ込んでいく。

 代わりに展開し始めたのは、敵の魔導官だろうか?

 魔力を錬成し始めると陽炎が立ち昇る。――ここで俺たちを食い止めるつもりだ。


「サンガさんっ、出来るだけ早く戻る。ここは頼んだっ」


 そう言い残すと、リョウがぶつかっているであろうあたりへ走り出した。


 まだリョウアイツには荷が重い。

 ライガは馬鹿は馬鹿でも戦闘バカだ。戦いのセンスと経験値では敵う相手ではない。


 くだらないプライドや功名に囚われて死ぬな――焦る気持ちを車輪のように回す足に乗せて、元の位置へ駆けだした。


◇◇


「ぐはぁっ」


 野太い悲鳴を聞いたのは駆けつけた直後だった。目の前には信じられない光景が広がっている。


「おのれ……」


 あのライガが膝をついている。勝者然としてリョウがライガを見下ろしていた。


 ウッソん〜!?


 その疑問もすぐに氷解する。

 ライガが再び立ち上がって、おのれの身の丈ほどもある大太刀を横凪に振るうと、リョウは飛び退き右手に持った一尺のワンドを突き出した。


 バチッと火花が放たれると、ライガが反り返り膝をつく。


 ぐぬぬぅ……。

 憤怒に耐えぬと言う顔でリョウを睨み据えている。

 

「クソガキがぁ……。魔道具なんぞ使いおって、卑怯だろうが」


「戦場で魔法は当たり前だろ? 寝言が酷いんじゃねぇの?」

「なぜだ? 魔法耐性の鎧をなぜ貫通させることができる?」


「なにそれ? 教えるワケないだろ」


 ライガがリョウの後ろへ視線をずらした。

 そこに並ぶ魔導官のローブに目を止めると、「デバフの魔力弱体化トピーチを使いやがったか――」と口にする。


「ふんっ、今更だ」


 再び魔法杖ワンドを構え魔力を結集し始めたとき、ドォォォンッと火柱が立ち上がった。

 盾兵ともども魔導官が吹き飛ばされている。


 伏兵?! 俺の索敵に真っ黒な敵意が引っかかった。


 索敵を担う魔導官もライガへのデバフに必死すぎて、敵の接近に気づかなかったか?


「ムスタフ軍が十将っ、サガン参上――っ」


 さっき聞いたばかりのバケモノの声がする。リョウはどうなった?


 ライガの前にガックリと膝をつくクソガキリョウが目に飛び込んできた。


 ウッソん〜?!

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