ハードモード
(前回のあらすじ)
ムスタフ軍の危機。そう思わせるほど、アイアンゴーレムたちの攻勢は凄まじいものだった。ここでムスタフは部隊の入れ替えを指示する。ムスタフ軍VSアイアンゴーレムたちの第二幕が上がった。
◇◇
続々と壁を作る盾兵たち。
その盾は耐魔力が
もちろん物理的にも、盾本来の十分な強度があった。
「ビィ……」
アイアンゴーレムはその敵意を認識する。
カクカクと首を揺らし、目の前に展開していく魔人軍の壁を見ると、顔の中央に空いた五円玉ほどの口から閃光が煌めいた。
バビゥ……。
放たれた熱波は空気を沸騰させ魔人軍に襲いかかった。
「ぬぉっ!」
歴戦のムスタフ軍の盾兵をもってしても、声を上げてしまうほどの火力魔法。盾兵が展開したシールドを打ち破り、白銀に輝く盾に到達する。
グワンッ、と
バビゥッ……。
第二波が放たれ、逸された熱波の作るいくつもの飛行機雲が空へ打ち上り、盾兵が顔を歪ませてその猛攻を凌いでいたころ。
盾兵の壁の内側では、魔人軍の声が交錯していた。
「中列まだかっ? 前列は脇へ寄れっ、中央から中列を通せっ!」
目まぐるしくムスタフ軍が動いている。
「第三中隊っ、整列終わりっ」
「第四中隊っ、整列終わりーっ」
「第五中隊っ、整列終わり――っ」
これで前列と中列が入れ替わったことになる。それを確認した十将筆頭がムスタフ将軍に「入れ替えが終わりました」と告げると、
「狙いを首から上じゃ。無駄弾を使うな」と短く指示する。
「狙いは眉間っ、魔力錬成っ」
「眉間を狙えーっ、魔力錬成ーっ」
「眉間だぁーっ、魔力錬成――っ」
復唱が終わると盾兵の作る壁が揺らぎ始める。
もう数十発の熱波を逸らし、繰り出される手刀に盾兵が持たなくなってきた。
「狙えっ、無駄弾を打つなッ。構えぇぇ――っ」
「構えぇっ」
「構えぇ――っ」
練り上げられる魔力が空気を揺らす。
頃や良し――そう判断した十将筆頭が声を張り上げた。
「盾兵は左右に移動っ、中央から順次ッ撃てっ」
声が上がると盾兵の作る壁がカーテンを開くように、左右に分かれていく。
「中央空くぞっ! 撃ち方始めっ」
「中央っ、撃てっ」
「「「中央っ、撃て――っ」」」
ズパパパパパパパパ――ンンッ。
号砲が鳴り響くと、アイアンゴーレムの首が跳ね上がる。狙いが逸れた
「左っ発射が遅いぞっ。もたつくなっ」
檄の飛んだ左手の魔人も遅れを取り戻さんと、
ズパパパパパパパパ――ンンッ!
轟音は絶えることなく鳴り響き、閃光と跳弾の作る土埃があたりを満たす。
先ほどとは明らかに違い、アイアンゴーレムの首から上に
「ギィ……」
熱線を出す間もなく口に飛び込んだ跳弾が内部で破裂し、その魔石を砕いた。
閃光が走るたびに、アイアンゴーレムの首が跳ね上がり眉間を吹き飛ばされた者から、ガラガラと崩れ鉄塊と化していく。
「撃ち方やめっ」
「撃ち方やめーっ」
「撃ち方やめ―――っ」
ズパパパパ……ンンッ。
空気を沸騰させていた
あちこちに横たわる鉄の塊。
パチパチと爆ぜる音と焦げた鉄の匂い。動き出そうとする小隊を十将筆頭が手を上げて制する。
「魔導官ッ、魔力を感知できるか?」
先ほどの仲間を盾にしたアイアンゴーレムに、逆襲を許したニノ轍を踏まないための確認作業だ。
目をつぶり注意深く魔力の反応を探った魔導官が首を振る。
「反応はありません」
その言葉にオオッ! と歓喜の声が上がる。
「や、やったっ、我らの勝利だ……「たわけっ!」」
眼前の敵を倒し、歓喜を爆発させようとした瞬間鋭い叱責が飛んだ。
ムスタフ将軍が鬼の形相で浮わついた軍の士官を叱る。
声を上げようとした下士官や兵卒が首をすくめた。
「まだ終わっておらぬッ。目の前の罠を凌いだにすぎん。拠点を作り負傷兵を下げよ。被害を報告、円陣を組み全方位警戒を継続せよっ」
「「「はっ」」」
ここでもたつけば、『何がなんでも勝つ精神』を耳元で刷り込まれるのだ。
戦闘があったことすら忘れたかのように、士官たちは状況の把握に走り出した。
◇◇◇
あっさり倒しやがった……。
護衛とともに渓谷を見下ろせる突き出た岩陰から、魔人軍の戦闘を見ていた俺は、口をあんぐり開けている。
どうやってあんな連中倒せって言うんだ? ハードモード過ぎね?
「おっちゃん、オキナへ繋いでくんな」
慌てて本陣をしいた天幕に戻ると、王宮の本部へ繋いでもらうよう依頼する。
◇◇
「……ってな感じさ。とんでもねぇバケモンたちだぜ」
ふぃ〜っ、と肩をすくめてみせる。
ずいぶん弱気じゃないか? とオキナが微笑んでいる。
「大雑把に言えば、こちらは二万弱、敵は五千強にまで削った。悪くない結果だ」
「まぁ、サンガさんの(率いる)本隊がコッチへ追いつき次第、挟撃に入るけどよ。嫌な予感しかしねぇんだ」
「だろうね」
「やっぱりか?」
「予備兵を投入してもおかしくないタイミングだ。私なら退路を確保するために動くけどね」
モヤ……っとしていた不安がはっきりとわかった。ヤツらはここで全滅するまで戦う必要はない。
なぜなら俺たちを『災禍』が来るまで
一番近い避難場所の
「奴ら俺らを『災禍』まで足留めするつもりなのか? あとどれくらい時間がある?」
良くないニュースだよ、と断りを入れてからオキナが渋面をつくる。
「速度が早まっている。あと二週間もすれば大陸の端にかかる」
やっぱりハードモードだわ……。
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