ライガの脳みそは筋肉でできているのではなかろうか?と本気で疑いたくなる件

◇◇カノン・ボリバル目線です◇◇


 「大人しく渡せば命だけは助けて……って、カノン?!」

 金色に光る眼を見開いて固まるライガがそこにいた。


 「ああ。俺だよ」


 柄にもなく胸が熱くなる。

 回天を共に夢見た戦友ともが今、目の前にいる。

 

 「何をしている?」


 「盗賊だが?」


 「何をしていた?」


 「盗賊に決まってるだろ? 襲ってきた盗賊をぶん殴って、飯と金を巻き上げたら『命だけは――』って泣くからさ。かわいそうだから子分にしてやった」


 「……らしいな」


 どんな顔をして良いか分からずにフンッ、と鼻でわらう。


 「ああーーーっ!」ライガが慌ててあたりに声をかけた。

 「だった?! おいっ、お前らもう良いからな?! 誰も手を出すんじゃねぇぞっ」

 すると木立の上から、そして地面の中からワラワラと人が湧いて来る。


 「な……?!」


 『盗賊シーパーのエモン』が目をいた。

 彼のサーチにも引っ掛からなかった伏兵が湧いてでたのだ。驚くのも無理はない。


 「コイツらは俺の子分だ」

 どうだ? 凄いだろう? と言わんばかりにフフフンッ、と鼻を鳴らす。

 こちらに向き直ると胸を反らして「アンタらに危害を加えるつもりはない。ここじゃ――なんだ、着いてこいよ」

 かチャリと大太刀を鞘にしまうとノシノシと歩き出した。


 ◇◇◇


 木々で巧妙に隠されたスロープを登っていくと、古ぼけた小屋がいくつか見えて来た。驚いた事に段々畑まである。猫の額ほどの庭には鶏が放たれていた。

 長閑のどかな山間の村と言った風情だ。


 玄関とおぼしき二枚戸を引き開けると、「入れよ」と顎でしゃくり中へといざなった。

  寒さ対策なのか土間が飛び出す様に設置してあり、竈門には鍋が湯気を立てている。

 慌てて立ち上がった狐の獣人に「茶を入れてくれ」と命じ、食堂と居間を兼ねたテーブルに腰掛けた。


 俺(カノン・ボリバル)は改めてライガに向き直り、思いを告げた。


 「さて……よくぞ生き延びてくれた。ライガ、遅くなってしまった。すまなかった」


 

 ん……? と小首をかしげ、俺(カノン・ボリバル)が詫びる理由に思い当たったのか「無用だ」と手をヒラヒラさせた。


 コイツらしい。


 苦笑いしながら再会した時に聞いてみたかった疑問を口にする。

 「ライガよ。お前、第二都市テンペレへ来ていただろう? なぜヒューゼンまで来たなら亡命を申請しなかった? お前なら俺(カノン・ボリバル)が何を置いても保証してやったのに」


 ライガらしき虎族の獣人が出たとの噂を聞き、調査に足を運んだ。

 胸の中につっかえていたのは、何故俺(カノン・ボリバル)を頼らずそんな所へ行ったのか? と言う事だ。


 「軍資金を作ろうと思った」


 「は?」


 「ヒューゼン共和国? 俺にとっちゃ他所よその国だ。あくまで俺は獣人の国が良い。その国の元手を作ろうと思ったんだ」


 「ちょっと待て。何がなんだか分からんぞ。今まで何があってどうしてたんだ?」


 ライガは、あごさすりながら面倒だから色々端折はしょるぞ? と話し始める。

 「お前と別れてから、衛兵どもをブチ殺して路銀を奪ってやったんだよ。そのあとも襲って来た盗賊をブチ倒して軍資金を作った。そのまま貨物列車に潜り込んで……」

 のどを鳴らしてニヤリと笑う。


 「お前を追いかけたが流石に疲れた。コンテナに潜り込んで適当に布に包まってたワケさ。ウトウトしてたら国境を越えていたらしい」

 そのままヒューゼン共和国の首都で降りれば良かったものを、以前第二都市テンペレに賭博場があると聞いたのを思い出した。


 「手持ちの金だけでは不安だったからな。増やそうと思ったワケだ」


 で――?


 「有金ありがね全部持っていかれた。スッテンテンさ。

 そこで現地の悪そうなヤツから調達した。どうせまともな金じゃねぇ。足も着きづらいだろうからイチャモンつけて、ぶちのめしたら金をくれたんだ」


 なんとまぁ……。

 コティッシュが呆れた顔でライガを見ている。まともな思考じゃない。脳筋の考えは常識では推量れないものがある。

 その帰りに遭遇したのが、娼婦のカレンだったと言うワケだ。


 「女好きのカノンなら娼館に行くだろう? と思ったから伝言を頼んだ。何人かに声をかけてくれよって頼んだからこちらに来たんじゃないのか?」

 ん? って顔でこちらを見ている。


 我が友ながら意味がわからん。

 何をどう考えれば俺に伝わると思ったのか? 普通はヒューゼンに俺を頼って訪ねてくれば良いじゃないのか?

 

 「そんな事より、『カグラ』を取り返そうぜ。あそこを抑えちまえば、今のゴシマカスの連中は手出しが出来ねぇ」金色の目をギラギラさせながら、壁に飾ってあるゴシマカスの地図まで歩み寄る。

 「俺の得た情報によると、コウヤとコウとオキナが国賊扱いになってるらしいぜ」

 だから――と、地図に描かれた『カグラ』の場所をゴンゴン指先で突く。


 「お前の前やろうとしてた事なんだろう? それをゴシマカスの連中がやってくれてんだ。今がチャンスだ」


 ザックリとだが、コイツの頭にも今のゴシマカスの失態に漬け込む絵図面が出来ているらしい。


 「兵隊も準備したぞ。と、言ってもほぼ盗賊だけどなっ」と胸を張る。


 「なぜだ……? なぜ理想を共にする連中じゃなくて盗賊なんだ?」

 頭痛のしてきた俺(カノン・ボリバル)は目頭を抑えながらたずねた。


 「そりゃお前。人を殺すのに馴れているからに決まってるじゃないか?! 実戦訓練もいらねぇ」


 コイツにとっては軍隊も盗賊も同じなのか?


 「どうやって盗賊を手下に……」

 聞かないでもわかる。嫌、あまり聞きたくなかったが一応聞いてみる。


 「親玉は誰だ? と聞いてぶちのめすっ。後は俺が親分と認めないヤツを死なない程度にブチのめす。簡単だろう? ま、何度か毒を飲まされたり寝首を掻かれそうになったけどなっ」

 カラカラと笑った。きっとソイツらもぶちのめされたのだろう。


 ん? と首をひねって「あ? 間違えた。毒を盛ったヤツは全殺しにしてやった」と口にする。


 「心配するなカノン。逆らうヤツは皆んなぶち殺してやるよ」

 カッカッカッカと笑うライガに、コティッシュをはじめとした第二空挺部隊は口を開けたまま凍りついた。

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